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2002/10/24 読売新聞朝刊
対イラク決議 仏、米案の追認拒む 常任理事国の権威維持に腐心
 
 【パリ23日=池村俊郎】対イラク決議をめぐる国連安全保障理事会の討議が米政府の新提案にもかかわらず、フランスやロシアの反対で難航している。とくに仏政府筋は二十二日、米側の修正決議案を「合意にはほど遠い内容」と批判しており、仏政府の出方に合意のカギが託された形だ。
 仏政府筋は修正決議案について、「安保理の最終判断なしで米政府独自に軍事攻撃へ移る可能性を排除していない」とし、米側の当初案と本質で変化なしという厳しい見方でいる。
 そもそも仏政府は二段階決議案を掲げ、「イラクが査察を拒否したりした場合にのみ、二つ目の決議を採択し、軍事行動を認めるべきだ」と主張してきた。これに対し、米政府は決議が順守されなければ、軍事行動やむなしという姿勢を崩していない。
 軍事行動の是非を安保理の判断に委ねたい仏政府には「イラク一国の運命を米国だけの意向で左右してはならない」という決意がある。仏政府の本音は対イラク戦争回避にあり、それには安保理協議を使い、ぎりぎりまで米政府の行動を制御するしか手段が残されていない。
 フランスはイラクとの経済関係が密接だった一九七〇―八〇年代に原子力施設や兵器を供与、現在も五十億ユーロ以上の債権があるといわれる。とくにシラク大統領は当時、首相として両国接近の旗振り役を務めた。
 しかし、今回の安保理での抵抗は経済権益を守るためではない。歴史的に縁の深い中東全域の不安定化を憂慮することに加え、国益擁護の外交戦略が関係している。安保理が米政府の意向に「承認の印鑑」を押すだけの機関になってしまえば、存在意義が失われ、フランスの世界的地位を保障した常任理事国の地位と国連至上主義外交が破たんしかねないのだ。
 仏国際関係研究所のフィリップ・モロードファルジュ主任研究員は「米国と同盟国だけに、その主張に全面的に同調できないのは苦しい選択なのだ」とも指摘する。
 仏の立場にロシア、中国が同調する姿勢でいる以上、米政府が仏側の体面を保つ譲歩を示せなければ、安保理討議の出口は容易に見えそうにない様相にある。
 
 
 
 
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