2003/06/05 朝日新聞朝刊
この一歩を今度こそ 中東平和(社説)
ブッシュ米大統領が初めて中東の地を踏み、イスラエル、パレスチナの両首脳とひざ詰めの会談を行った。シャロン、アッバス両首相は、パレスチナ国家樹立と平和共存に向けた「行程表」の履行を表明し、暴力を止めることで合意した。
パレスチナ紛争は中東を不安定にしてきた根源だ。テロの口実ともなってきた。この歴史的な会談を機に、まず停戦を確実なものにしなければならない。
ブッシュ氏はこれに先立ち、アラブ5カ国との首脳会議に臨んだ。イラク戦争勝利の余勢を駆って、米主導の中東秩序づくりへの決意を示したものだろう。
これに対し、アラブの首脳たちは、「いかなる形の暴力」にも反対するとの声明で応えた。パレスチナ過激派による自爆テロを容認しないことをアラブ諸国が明確にしたのは、これが初めてである。
対パレスチナ強硬派のシャロン氏は、米国の要請に応じて「違法入植地」の一部撤去やパレスチナ政治犯の一部釈放、自治区の封鎖解除を決めた。
パレスチナ自治政府のアラファト議長に代わって表舞台に登場したアッバス氏も、テロをおさえ込むために全力を尽くすことを約束した。
ブッシュ氏の調停は、当事者に「行程表」の第一歩を踏み出すよう求めたに過ぎない。そのブッシュ氏は会談後の記者会見で「困難な旅だが、他に選択肢はない。殺し合いがこれ以上続くことを許せる指導者はいない。平和はやってくる」と語った。
停戦を根付かせなければ、「行程表」の作業は進まない。何より必要なのは、散発的なテロや銃撃戦が起きても衝突のエスカレートを抑え、停戦合意が壊れないようにするための枠組みだ。
米政府は少人数の停戦監視団の派遣を決めた。だが、能力の面でも、また中立性への信頼という意味でも、これでは足りない。欧州連合やロシアの参加を含め、国際監視団の派遣を考える時である。
アナン国連事務総長は昨年、国連を主体とした監視団の構想を示したが、イスラエルが拒んだ。国連は反イスラエル的だというのが理由だった。
しかし、せっかく動き出した和平を当事者任せにしてはいけない。停戦が過去に何度もつぶれたのは、当事者間の余りに深い不信ゆえだ。イスラエルが再び拒もうとするなら、米国が圧力をかければよい。
アラブ諸国に望みたいのは、和平を選んだアッバス氏への後押しだ。各国の過激派への監視はいうまでもない。イスラエルとの対話も増やすべきである。
和平が動き出したのは、ブッシュ政権が積極姿勢に転じたためだ。だが、アラブの民衆はこれまでのイスラエル寄りの姿勢や、イラク戦争を忘れまい。米国が公正な仲介者としての立場を外れれば、和平プロセスは危うくなる。
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