2003/05/02 朝日新聞夕刊
イラク戦争、ブッシュ米大統領が戦闘終結宣言 国民「解放」を強調
【ワシントン=石合力】ブッシュ米大統領は、米東部時間1日午後9時(日本時間2日午前10時)、太平洋上の空母エイブラハム・リンカーンの艦上で演説し、「イラクにおける主要な戦闘作戦は終了した」と述べ、イラク戦争の戦闘終結を宣言した。大量破壊兵器開発疑惑を理由にフセイン政権の打倒に踏み切った軍事作戦は3月19日(米東部時間)の開戦以来約6週間で事実上終了し、イラク復興に向けた新たな段階に入る。(2・3面に関係記事と要旨)
戦闘終結は、現地で指揮にあたるフランクス米中央軍司令官が大統領に報告した内容に基づく。フライシャー米大統領報道官は今回の「宣言」について、「戦争の終結を法的に意味するものではない」としている。ただ、米メディアには、戦争終結を先延ばしにしたのは、終結すれば捕虜の釈放や送還を求めたジュネーブ条約上の義務が米英軍側に発生するためとの見方も出ている。
現職大統領として初めて航行中の空母に降り立った大統領は「圧制者は倒れ、イラクは自由になった」と述べ、フセイン政権の打倒でイラク国民を「解放」した成果を強調した。
ブッシュ氏は、今後の当面の課題として、治安維持の全土への拡大やフセイン政権指導部の拘束、生物・化学兵器の捜索などの任務を挙げた。
復興の取り組みについては、人道支援への努力を強調。また、「独裁から民主主義への変革には時間がかかるが、努力する価値がある」と述べ、時間をかけて民主化を支援する考えを改めて確認した。「我々の連合軍は、任務を終えるまでとどまるだろう」と語り、一定の民主化を達成するまで駐留を続ける考えを示した。
今回のイラク戦争を、「テロとの戦い」の一環に位置づけてきたブッシュ大統領は「テロ組織がイラクの政権から大量破壊兵器を得ることはない。政権自体がなくなったからだ」と述べ、テロ対策の観点からも政権打倒を正当化した。
中東との関係にも触れ、「自由の進展はテロを抑える最も確実な戦略だ。自由が確立されれば、憎しみは希望へと変わる」と述べ、中東地域の民主化を進める必要性を強調した。
○「戦後」へ関心移す意図
【ワシントン=三浦俊章】1日に行われたイラク戦争をめぐるブッシュ米大統領の事実上の「勝利」宣言は、戦争が米国の望んだ通りに進んだことを内外に明確な形で示すとともに、イラク復興や04年の米大統領選など、次の政治課題に世論の関心を移す狙いがある。
イラク戦争は、ブッシュ大統領が、独仏など同盟国の異議を押し切って、選択した戦争だった。軍事的勝利が、米国が説明するようにイラクの民主化と中東の安定化をもたらすかは、まだ分からない。しかし、イラク戦争に「実質的勝利」という位置づけをすることは、戦争に米国と大統領個人の威信をかけたブッシュ氏にとって不可欠なものだと言える。ブッシュ氏は演説の中で、戦争の性格について「自由と平和のために戦った」と述べた。また、同時テロ事件以後、今日までのテロとの戦いを振り返って、「世界を変えた19カ月間」と称賛した。
米国内に引きつければ、ブッシュ大統領が戦争の勝利を04年の大統領選での再選にどう結びつけるかという問題が浮上する。91年の湾岸戦争の勝利から1年半余り後、再選に敗れた父大統領の経験がつねにブッシュ氏の脳裏にあるだろう。
1日の演説が、今回の戦争で活躍した空母リンカーンという舞台で行われ、大統領が空母に小型機で着艦するというパフォーマンスまで演じたことは、大統領を戦争の勝利と一体化して売り込む再選戦略をうかがわせる。
しかし、バグダッド陥落からもうすぐ1カ月がたとうとするのに、国際社会が納得する大量破壊兵器の証拠は見つからないままだ。大統領自身が、演説の中で、「隠された生物・化学兵器の捜索に着手し、調査すべき数百カ所が分かっている」とわざわざ進行状況に言及したことは、実は大統領がこの問題にいかに敏感かということを示している。
■大統領演説の骨子
一、 |
イラクでの主な戦闘作戦は終結し、米国と連合軍は敵を圧倒した。我々は自由の大義と世界の平和のために戦った。 |
一、 |
我々はイラクの危険な地域に秩序をもたらす。政権の指導者を追跡している。 |
一、 |
隠された化学・生物兵器の捜索を始めた。調査すべき数百カ所を把握している。 |
一、 |
独裁から民主主義への移行には時間がかかる。任務が完了するまでイラクにとどまる。 |
一、 |
イラク解放はテロとの戦いにおける決定的に重要な前進だ。 |
一、 |
我々はアフガニスタン、イラク、パレスチナに自由をもたらす決意がある。 |
【写真説明】
1日、太平洋上を航行中の米空母エイブラハム・リンカーンの艦上で、戦闘終結宣言を行うブッシュ米大統領=AP
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