2003/04/24 朝日新聞朝刊
@new york 日米ネオコンの季節(日本@世界)
船橋洋一
イラク戦争はネオコン(新保守主義者)戦争と呼ばれたが、主戦論を唱えた当のネオコンはこの戦争の結果と今後の課題をどのように評価しているのか。
彼らの教祖的存在の一人、ノーマン・ポドレツ氏に聞いた。長らくニューヨークにあってユダヤ系知識人の一つの拠点であるコメンタリー誌の編集に携わり、現在も編集顧問を務める。
「ブッシュ大統領の強い指導力、信念、決意のおかげだ。世界はこれでずっと平和になる」
ブッシュ礼賛がまずは続く。
「ネオコンがブッシュを密(ひそ)かに籠絡(ろうらく)しようとしたとかの論評があるがお門違いもはなはだしい。われわれは秘密結社ではない。最初からすべて公に考えを発表してきた」
「そもそも、ネオコンは元来左翼でリベラルな人々が保守に鞍(くら)替えしたからネオなのだ。ブッシュもチェイニー(副大統領)もラムズフェルド(国防長官)もネオコンではない。彼らは一貫して筋金入りの保守だ」
同誌のエリオット・コーエン編集長は、米国のイスラム過激派に対する戦いを「第4次世界大戦」と名付けた。冷戦に次ぐ長期にわたる、しかも軍事力にとどまらない総力戦の覚悟を呼びかけているのだ。
「ウールジー(元CIA長官)に、よくぞ言った、この表現は自分も使わしてもらう、と褒められた」
先制攻撃論も含むブッシュ・ドクトリンは、ケナンのX論文と並ぶ重要な戦略概念だとポドレツ氏は言った。1947年、ジョージ・ケナンがソ連封じ込め論を匿名で発表した画期的論文のことである。
イラクを皮切りに中東の民主化を進めていくべきだとの民主化ドミノ理論を支持する。
「日本の経済発展と民主化がその後、韓国、台湾、香港、シンガポールによい誇示効果を与えた。東アジアでできたことが中東でできないはずはない」
ネオコンは80年代のレーガン政権に何人かの戦略家を送り込み、その考え方を政策に反映させた。ソ連を「悪の帝国」と決めつけ大軍拡を進めたのも、「第三世界寄り」の国連を叩(たた)いたのもその表れだった。
彼らは「力は正義」を信じ、「国務省と外交支配階層に根づくリベラル思想」(もう一人の教祖的存在、アービング・クリストル氏の表現)に敵意を抱き、攻撃してきた。イラク政策や北朝鮮政策をめぐって国防総省が国務省に対して抱く強い不信感は、ネオコンの「外交支配階層」に対するこうした敵意によって増幅されているのだろう。
ところで、コロンビア大学の韓国人留学生は、一部の日本の留学生を「ジャパニーズ・ネオコン」と呼んでいると言う。
日本ネオコン。その特色は、憲法改正・再軍備、日本の戦前のアジア侵略肯定、核武装、の「三つのシナリオ」を公に口にすることだそうだ。
それを教えてくれたのは、同大ジャーナリズム・スクールで勉強している日本の留学生の一人だが、「彼らはネオコンと言うよりむしろネオナチではないですかね」と彼は言った。
私は同大学を中心にここ3カ月間、米国で講義、講演をしてきたが、ネオナチかどうかはともかく、この種の「三つのシナリオ」を肯定的にとらえて質問をする日本の留学生に何度か出会った。彼らと話をしていて、対中、対北朝鮮関係での日本の「外務省の弱腰」に対する強い不満らしきものを感じた。
これらの留学生たちのネオコン的情念は日本の政治状況に広がりつつあるネオコン的気分を映し出しているに違いない。
「拉致問題が日本のネオコンを勢いづかせることになった。彼らは内心、北朝鮮の崩壊を願っている。米国のネオコンとそこは同じだ」と外交に強い自民党の有力議員は私に語ったが、北朝鮮核危機の行方次第では、日本のネオコンが前面に躍り出てくる可能性もあるかもしれない。
わかりにくいのは、日本のネオコンの対米観と日米同盟観である。
彼らは、日本の核オプションの可能性に触れることで、北朝鮮の核武装を阻止すべく米国(と中国)により真剣に努力させようとしているのか。(対米追随従来延長型)
それとも、北朝鮮の核保有を前提に米国のネオコンの一部が(おそらく中国の将来の脅威をも念頭に置きつつ)主張し始めた日本の核武装容認論と呼応して、正面から日本の核武装を追求、同時に日米同盟を維持しようと構想しているのか。(対米対等同盟型)
あるいは、日米ネオコン同盟を隠れ蓑(みの)にして、「三つのシナリオ」路線に突き進み、日米同盟をあっさり卒業しようということなのか。(自主独立型)
(本社コラムニスト column@asahi.com)
※ この記事は、著者と発行元の許諾を得て転載したものです。著者と発行元に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど、著者と発行元の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。
|