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私はこう考える【イラク戦争について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


2003/04/24 朝日新聞朝刊
米とアラブ「視点」衝突(検証・大統領の戦争 メディア)
 
 4月9日午後6時49分、バグダッド。高さ約12メートルのフセイン大統領像が、前のめりに倒れた。
 カタールの衛星テレビ局アルジャジーラのマーヘル・アブドラ記者は「騒いでいるのは、声の大きい少数派です」と生中継した。
 その少し前、米兵が像の頭を星条旗で覆った場面では、こうコメントした。
 「これから口にするのは米国の味、吸う空気は米国のにおい、聞こえる音は米国の響き。いいか悪いか分からない」
 中継中、記者はたばこを吸ってはいけない。だが気がつくと、左手にたばこをはさんでいた。
 米国東部は朝の10時49分だった。各局はフセイン像のシーンを夜まで何度も放送した。
 「まさに圧政からの解放の瞬間。長く記憶される光景です」(NBC)
 「ブッシュ政権の人々もこれを見て喜んだことでしょう」(ABC)
 FOXニュースのはしゃぎようは際立っていた。キャスターや記者たちは口々に言った。
 「暴君は倒れ、バグダッドは解放されました」
 「ついに米軍がやってきた。素晴らしい、すばらしい光景だ」
 四角い画面の中のクローズアップ映像は、イラクの首都が歓喜に沸き立っているような印象を与えた。しかし、現場にいたフリーカメラマンの片野田斉さんは「違う」と言い切る。
 「像の周りには米兵や報道陣も入り乱れていて、市民だけなら100人か200人くらいでは。広場を遠巻きにして見物する人もかなりいたが、雰囲気はシラケていた。近くの団地の住民も外に出てこなかった」
 湾岸戦争で、米CNNはバグダッド単独中継で名をあげた。イラク戦争はアラブ・メディアの存在感を一気に高めた。
 レバノンの衛星テレビ局LBCは4日夜、死亡説も流れていたフセイン大統領が街で市民に話しかける映像を放送した。イラク国営テレビの提供だったが、CNNから「使わせてほしい」と申し込まれた。米各局も、首都の戦闘を収めたアラブ・メディアの映像を大量に使った。
 旗頭のアルジャジーラは96年に開局したニュース専門局。英BBC仕込みの「客観報道」で、政府の統制に甘んじていた中東の報道界に新風を吹き込んだ。後を追うように、アラビア語のニュース専門局が生まれるなど報道に力を入れる放送局が増えつつある。
 アラブ各局の視線は主に、空爆や戦闘で犠牲になった市民に注がれた。一方、ブッシュ大統領ら米側のフセイン批判もそのまま伝えた。
 その対極で、「一貫して米軍の戦いを熱く賛美」(ニューヨーク・タイムズ紙)したのがFOXニュースだ。「メディア王」ルパート・マードック氏の傘下にある。
 7日、米戦車隊に従軍して大統領宮殿に一番乗りした同局のグレッグ・ケリー記者は元戦闘機パイロット。2日後、米紙のインタビューに答えた。「この部隊に勝ってほしい。ぼくは番組の中でつい、『われわれ』と言ってしまうんだ」
 看板キャスターにも、ブッシュ元大統領の元広報担当者やタカ派の論客らが並ぶ。スローガンは「WE REPORT、YOU DECIDE(報じるのは我々、決めるのは皆さん)」だ。
 CNNを抑えてケーブル局の首位に立ったFOXについて、米メディア監視団体「FAIR」のスティーブ・レンダル氏は「流すのはニュースでなく、オピニオンだ」と語った。
 別のケーブル局も開戦間際に保守の論客2人をコメント陣に加えた。こうした流れは加速しているとされ、「FOX効果」と呼ばれる。
 米国のテレビはコンピューター映像を駆使して丹念に戦況を報告した。その手厚さに比べ、イラクの人々の犠牲の報道には力が入っていなかった。メディア監視団体「メディア・チャンネル」のダニー・シェクター氏は「多くのテレビ局がFOX的であろうと懸命だ。報道にゆがみが生じている」と警告する。
 倒れるフセイン像を世界は同時に見た。だが、メディアのフィルターによって印象も理解も異なる。米国社会とアラブ社会の間の溝は、深い。
(バグダッド=中井大助、ニューヨーク=山本克哉)
○地上戦開始−米英仏独中はどう報じたか
 米国のニューヨーク・タイムズ紙は3月21日付1面で「米英軍イラクに進入(push into)」、ワシントン・ポスト紙は「地上戦開始」と見出しを立てた。
 英国では、BBCテレビの記者の多くが「力ずくで他国に入る」という意味をもつinvasionを使った。ナチス・ドイツがポーランドに侵略した時などにも使われ、日本語でいえば「侵攻」に近い。新聞は、フィナンシャル・タイムズやタイムズがinvadeやinvasionを使い、ガーディアンは「越境」「前進」「強襲」などだった。
 フランスのルモンド紙は、侵略や侵入を意味するenvahirやinvasionを見出しに用いた。ドイツの新聞はEinmarsch(進軍)が多く、invasion(侵入)を使った新聞もあった。
 中国共産党機関紙の人民日報の見出しは「米英2度目の攻撃を開始 イラク軍奮起、反撃進攻」。本文で「米英軍はクウェート・イラク国境を越え、イラク南部に向けた地上攻撃を始めた」と書いた。
●「進攻」「侵攻」 割れた日本
 「進攻」か、「侵攻」か。米英軍がクウェートからイラクに攻め入った地上戦をめぐり、日本の新聞各紙や通信社は言葉の選び方が異なっていた(いずれも東京で発行された最終版から)。
 3月21日付の1面の主見出しをみると、読売新聞は「地上軍も進攻態勢」。産経新聞は「米、地上軍にも攻撃命令」で、22日付朝刊は「首都へ1万軍用車進撃」と見出しをとり、記事本文で進入や進攻も使った。
 朝日新聞は21日付の主見出しが「米、イラク大規模侵攻へ」。毎日新聞は「イラク南部で油田炎上」と見出しでうたい、本文で「イラクへの地上侵攻と本格空爆が近いとの見方が強まっている」。
 共同通信は21日付朝刊用に配信した記事の見出しを「米軍がクウェートから進撃」とした。
 読売新聞東京本社広報部は「米英軍が攻撃しつつ前進している状況を客観的に表現すれば、『進撃』『進攻』が最も妥当」という。
 産経新聞の前田徹外信部長は「野心に基づいた侵略戦争ではない。『進攻』としたのは、そうした認識を明確にするため」と説明した。
 毎日新聞の中井良則外信部長は「米英軍は他国の領土を侵していると認識している。進攻には他国を侵すという意味合いがない」と指摘。朝日新聞の亘理信雄外報部長も「主権国家に他国の軍隊が攻め入った。国連安保理の明確な武力行使容認決議もとっておらず、侵攻と言うべきだ」。
 共同通信の塚越敏彦編集局次長は「『侵攻』か『進攻』かは、世論を二分している問題で、価値判断を伴う言葉を配信先に押しつけるのは不適切と判断した」という。
 広辞苑は、進攻について「進んで行って攻撃すること。進撃」、侵攻を「他国または他の領土を攻めおかすこと。侵犯」と記している。
(佐藤純)
◇誤報の構造 兵器の知識乏しい、部隊情報を丸のみ
 「みなさん、臨時ニュースです」。14日、CNNのキャスターが早口で告げた。米陸軍第101空挺(くうてい)師団に従軍している記者が衛星中継画面に現れた。「師団の司令官によると、疑惑の施設が見つかったそうです」
 その司令官がインタビューに答えた。「11個の軍用コンテナが地面に埋まっていた。生物兵器、化学兵器の両方に使える施設だ。近くには弾薬工場もあった。この発見は、イラクが大量破壊兵器の保有を否定してきた事実と矛盾する」
 あとを引き取った記者は「今回の発見は、イラクが可動式の生物化学兵器工場を持っているという米政府の主張と正確に一致します」。
 翌日、CNNは「コンテナは生物化学兵器とは関係なかった」と訂正した。だが、その扱いは目立たなかった。この記者は1週間前にも「ドラム缶に神経ガスの反応が出た」と臨時ニュースで伝えていた。数日後、単なる殺虫剤だったことが分かった。
 大量破壊兵器の発見は米国にとって「戦争の大義」を裏付ける。米メディアの従軍記者たちは、関連する情報を何度か報じてきた。しかし、23日夕現在、明白な証拠は見つかっていない。
 誤報ともいえる未確認情報の報道が相次いだことについて、ジョージ・ワシントン大のウィリアム・アダムス教授(メディア論)は「前線部隊に記者が従軍していたから起きた」と説明する。生物化学兵器の知識がなく、素人に等しい部隊から得た情報がそのまま流れてしまったのだ。
 しかし、ニューヨーク・タイムズ紙とCBSテレビの共同世論調査(15日発表)によると、イラクの大量破壊兵器保有を信じる米国人は依然、81%にのぼる。
(ワシントン=村山知博)
◇副首相亡命/シーア派蜂起・・・ 情報戦に使われた?
 刺激的なニュースが駆けめぐった後、誤報と判明するパターンはほかでも繰り返された。
 開戦前日の3月19日、「アジズ副首相が亡命のうわさ」と主要通信社が配信した。米テレビはラマダン副大統領が「3月20日の空爆で死亡した」と報じた。3月25日、BBCは英軍高官の話として「バスラでイスラム教シーア派が蜂起」と報道した。
 どれもイラク側に不利な内容で、伝えられた直後に米英当局は「調査中」といなすことが多かった。フセイン政権内部に混乱を呼び起こす情報戦の一端ではないか、との見方も出た。
●取材記者ら15人死亡 行方不明は2人
 国際ジャーナリスト連盟によると、イラク戦争で死亡したメディア関係者は記者、カメラマン、通訳ら計15人(16日現在)。原因は英米側の誤爆、誤射が5。イラク側の砲撃、地雷、襲撃が5。車両事故3、病気1、建物からの転落1。
 所属報道機関の国別でみると、英5、米2、スペイン2、アルゼンチン2、豪州、ドイツ、カタール、マレーシア各1。ほかに行方不明者が2人いる。
●各国の報道陣、延べ3600人超 空爆後もイラクに200〜300人
 開戦直前、世界のメディアはイラクを囲む国々に集まった。米英軍や各国政府に登録した人数から推計すると、少なくとも延べ約3600人を超えた。
 内訳は地上軍の拠点クウェートに約2100人、前線司令部があるカタールに約800人、バグダッドへ足の便が良いヨルダンに約700人。ほかにシリア、イラン、反政府クルド人組織が支配するイラク北部に入った報道陣もいた。
 カタールの首都ドーハの米軍基地に設けられたメディアセンターは、米コンサルタントが会見場を設営した。演壇には精密誘導爆弾による爆撃の模様などを鮮明に映し出す大型スクリーンが置かれた。
 定例会見は米東部時間午前7時に合わせて現地の午後3時。ワシントンが夏時間になった4月上旬からは1時間繰り上げられ、「米国中心」の印象が強かった。
 空爆開始後もイラク国内に残ったジャーナリストは200人から300人といわれる。
(ドーハ=久田貴志子)
■取材陣の死者
ベトナム戦争 63人
アフガン戦争 8人
湾岸戦争 0人
今回 15人
※国境なき記者団、ジャーナリスト保護委員会、国際ジャーナリスト連盟調べ
■従軍記者の報道をどう思うか?
公正で客観的 81%
部隊に肩入れしすぎ 7%
部隊に批判的すぎる 7%
分からない、答えず 5%
※米国の約900人を対象にした4月上旬のPEW調査センターの世論調査から
 
 「検証 大統領の戦争」の今シリーズ(21日付から4回)はおわります。
(コラージュ・岩泉祥子/The Asahi Shimbun)
 
 
 
 
※ この記事は、著者と発行元の許諾を得て転載したものです。著者と発行元に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど、著者と発行元の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。








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