2003/04/04 朝日新聞朝刊
終わりが見えない戦争 開戦2週間(社説)
イラク戦争が始まってから2週間が過ぎた。米英軍はイラク軍に激しい攻撃を加え続けながら、一部はバグダッド郊外に迫っている。
首都での血みどろの市街戦を避ける道はないのか。世界中が祈るような気持ちで戦況を見つめているに違いない。
新たな国連安保理決議なしで米英両国が始めた「イラクの自由作戦」への疑問は、この2週間を見る限り、かえって深まってはいないだろうか。整理してみよう。
<戦争の目的>
過去の国連決議に基づいて大量破壊兵器を廃棄させるというのが開戦の理由とされた。防毒マスクや解毒剤は見つかったが、今のところ、米英が疑っている化学兵器は発見されていない。
ブッシュ大統領の「化学兵器が使われれば我々の勝利だ」という発言は、米国の焦りの表れかもしれない。政権転覆という目的を達成するには、イラク側の無条件降伏か市街戦かという選択肢しかない。
<衝撃と恐怖の作戦>
ハイテク兵器による大規模な空爆でイラク軍が戦意を失い投降する、との筋書きは外れた。フセイン大統領死亡説などの情報戦でもイラク側に動揺が見られず、独裁者を倒せばただちに抵抗が終わるという構図も怪しい。
<民衆の解放>
米英軍をイラクの民衆が歓迎し、体制の転覆を助けるという楽観的な読みも外れたように見える。むしろ、民衆に対する誤射、誤爆がアラブ・イスラム世界に反米感情を広げて、周辺の親米政権を揺さぶっている。
<人道的な支援>
米英軍は、国連の支援が中断した後を受けて、イラクの民衆に食糧や医薬品を配る予定だったが、実効は余りあがっていない。結局、国連の援助再開が決まったものの、戦闘中の大都市での配給は困難で、人道上の危機は深い。
<クルド人問題>
イラク北部で分離独立をめざすクルド人と、それを阻もうとするトルコ。米国は双方に自制を促しているが、軍事紛争に発展し、米英軍を悩ませる新たな要因になる恐れは消えていない。
<戦後>
米国は、イラク人による暫定政権の樹立まで、占領統治と秩序づくりを主導する構えだが、イラクの反体制派は依然これに反発している。英国を含む欧州諸国は国連主導による統治や復興を求め、みぞが埋まる兆しはない。
開戦後、わずかに救いがあるとすれば、油田への被害が予想よりも少なかったことぐらいだろうか。
バグダッドでの市街戦では、間違いなく多くの市民が犠牲になるだろう。イラク側は市街戦を長期化させ、米英軍の犠牲者を増やそうという作戦のように思われる。
イラクの民衆やアラブの人々がこの戦争を解放ではなく侵略だと受け止めてしまったら、大規模な戦闘がやんでもテロやゲリラ活動が続くだろう。
それでは戦争は終わらない。
※ この記事は、著者と発行元の許諾を得て転載したものです。著者と発行元に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど、著者と発行元の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。
|