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私はこう考える【イラク戦争について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


2003/04/03 朝日新聞朝刊
@new york 米国は新たな帝国か(日本@世界)
船橋洋一
 
 イラク戦争が思ったほど簡単に終わりそうにないことに米国民はいら立ちを強めているが、70%以上の国民は依然、「ブッシュの戦争」を支持している。
 ブッシュ政権は、アフガニスタン戦争を「不朽の自由」作戦、今度は「イラクの自由」作戦と呼んでいる。戦争は、自由を守るためであり、報復や石油のためではない、との意味を込めている。具体的な戦争目的については、サダム・フセイン体制の大量破壊兵器の脅威を取り除き、将来に悔いを残さないためと説明している。
 しかし、他国民を自由にするために戦争をするというのなら、北朝鮮をはじめ世界中で米国は戦争しなければならなくなる。そんなはずはない。
 イラク戦争についてはイラクの石油確保、イスラエルの安全保障、中東一帯への民主化の拡大、などの動機も米内外から指摘されている。
 ABC理論というのもある。「クリントン以外なら何でも」(anything but Clinton)の頭文字を取ったものだ。ブッシュ政権はクリントン政権のような「社会福祉外交」はしない、軍事力に物言わせ、米国の力を見せつけて物事にけじめをつける、と筋肉を誇示する傾向にある。
 米国は新たな帝国へと歩みだしつつある、いや、米国は世界の平和定着と人道介入のためその役割を担うべきだ、それを前提として外交を進めるべきだ、といった意見も米国内には出始めている。かつての「米帝」批判とは違う帝国容認論である。
 
 もっとも、米国民は自分の国が帝国呼ばわりされることを嫌う。神学者のラインホールド・ニーバーはかつて「自らが帝国主義であるとの認識を死にものぐるいで避けようとする」米国の性格について語ったことがあるが、ブッシュ大統領も「米国は拡張する帝国は持たないし、確立するユートピアも持たない」(ウエストポイント演説)と述べている。このほどワシントンで会ったホワイトハウスの高官はこの話になると「米国民は植民地を求めないし、それを持たない。欧州列強のかつての帝国とは全く違う」と米帝国論をムキになって否定した。ラムズフェルド国防長官の言う「古くさい欧州」と一緒にされては困ると言わんばかりだ。
 たしかに米国の世界への拡張は領土や植民地目当てではないし、米国には英帝国のような植民地官僚・帝国官僚はいない。ただ、米国は世界130カ国に757カ所の軍事施設を持っているし、国防総省140万人の職員・軍人のうち24万7千人が海外に勤務・駐留している。同盟と基地を世界中に張り巡らしている。
 イラク戦後、米帝国は渋々世界に参画させられてきた「ためらう帝国」から、野心に満ちた「はやる帝国」へと孵化(ふか)するかもしれない。戦後、国連を表に立てて「国づくり」を進めるにしても、米国は軍、治安、情報などの核心部分は握って、放さないだろう。イラク戦争そのものは石油のために戦われたのではなかったとしても、戦後は石油をめぐる各国間の戦いとなる可能性が強い。
 
 ネオコン(新保守主義者)たちは、イラクにおける親米政権を軸とする中東の新たな支配体制構築を夢想し、「自由、民主主義、市場原理」という自らの価値観を世界大に広げることに熱中している。
 おそらく、強国と帝国の違いの一つは、強国が他国の外交における行動を変えさせようとするだけなのに対して、帝国は他国の内政における行動までを変えようとすることにある。この点、ブッシュ政権の「体制転換」路線は立派な帝国ドクトリンと言えるだろう。
 怖いのはそこに潜む認識の死角である。どの国も歴史と地理の制約から逃れられない。自由と民主主義と市場原理をそこに強引に持ち込んでも、それで大量破壊兵器が消えるわけでも、戦争がなくなるわけでもない。国は生身である。例えば、隣のイランは民主主義国になったとしてもその安全保障上の脅威感を克服しないことには核開発をあきらめないだろう。
 イラクを皮切りに民主化ドミノを追求するあまり、「はやる帝国」の最前線が伸びきってしまい、それが帝国の基盤を突き崩すことになりかねない。その一方で、イラクの国づくりに失敗するようだと逆に米国は世界嫌いになり、内向きの孤立主義的な方向へと振れる恐れもある。
 米国民をイラク戦争へと駆り立てた深層心理は、9・11テロがもたらした恐怖感である。新たな帝国は世界を安定させる前に、帝国中心の心理的、戦略的動揺によって世界を不安定にしている。
(本社コラムニスト column@asahi.com)
 
 
 
 
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