2003/04/03 朝日新聞朝刊
これで世界は治まらぬ ネオコン(社説)
「ジョンソン政権がベトナムで1年かけてやったことを、ブッシュ政権はイラクで1週間でやりとげた。政府の計画に対する国民の不信を広げさせたのだ」
ワシントン・ポスト紙のコラムがそう指摘したように、イラク戦争は、米国民が信じていたような展開ではなくなっている。
バグダッドをめざす米英軍が、激しく抵抗するイラクの精鋭部隊に大規模な攻撃をかけ、開戦後最大の地上戦が続く。
イラクの民衆の犠牲が増えるに従って、アラブ・イスラム世界の反米感情は日々燃え広がっている。この戦争で「100人のビンラディンが生まれるだろう」と述べたのは、エジプトの親米政権を率いるムバラク大統領だ。
米英軍がフセイン政権を倒したところで、中東地域は安定するどころか、ますます不安定になりそうな様相だ。
当初の楽観的な見通しに狂いが出たことで、ブッシュ政権内で、チェイニー副大統領、ラムズフェルド国防長官、ウォルフォウィッツ米国防副長官の3氏と、他の人々との間の亀裂が深まっていると、多くの米メディアが報じている。
同じ共和党でも、国連決議に基づいて多国籍軍を組織し、アラブ諸国の支持も得て行われた湾岸戦争を是とする人々にとっては、ラムズフェルド氏らの言いなりになっているブッシュ大統領は危なくて見ていられない、というところだろう。
対イラク主戦論を唱えてきたこの3氏の考え方に色濃く見えるのが、「ネオコン(ネオ・コンサバティズムの略)」と呼ばれる新保守主義である。
米国の保守主義には、世界のことにかかわりたがらない孤立主義の伝統がある。
ところが新保守主義は、戦争という手段に訴えてでも、民主主義と経済自由主義を世界に広める、それは超大国としての歴史的な使命なのだと主張する。
中心となっているワシントンのシンクタンクが97年に設立された時の趣意書には、この3氏も名を連ねている。
軍の近代化。米国に敵対する外国の政権の打倒。国際社会のなかの米国の特異な役割の自覚。このシンクタンクが掲げる目標は、そのまま現政権に重なる。
ブッシュ大統領は、20世紀初頭の米国で帝国主義的な政策を進めたセオドア・ルーズベルト大統領を尊敬しているという。新保守主義を受け入れる素地がもともとあったのかも知れない。
とくに9・11のテロ以降「悪の枢軸」演説からイラク戦争への道筋は「ネオコン」の考えをそのまま実践したかのようだ。
だが、いかに圧倒的な力があろうと、歴史も宗教も全く異なる国々に米国の価値を押しつけようとする独善と傲慢(ごうまん)さは、欧州諸国との同盟さえ危うくしている。
このまま進めば、中東の平和も、米国の安全も、世界の繁栄も遠のく。
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