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私はこう考える【イラク戦争について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


2003/03/27 朝日新聞朝刊
@washington 小泉とネオコン(日本@世界)
船橋洋一
 
 北朝鮮の金正日労働党総書記が40日以上も公に顔を見せない。平壌で何かが起こっているのだろうか。
 イラク戦争の開戦の日、米国はサダム・フセインの居どころにトマホーク巡航ミサイルをぶち込んだ。「どこにも逃げ隠れできない」状態に独裁者を追い込み、誰かが自分の動静を敵に内報しているに違いない、との偏執狂的猜疑(さいぎ)心を高じさせる心理作戦でもある。サダム・フセインより金正日の方が余計に過敏に反応してしまったのかどうか。
 
 小泉純一郎首相はイラク戦争支持に「まったく迷いはなかった」そうだが、ますます高まる北朝鮮の脅威、とくに核脅威を前に日米同盟をいささかもゆるがせには出来ないという配慮もそこにはあるのだろう。
 今回の米国のイラク戦争は、サダム・フセインの大量破壊兵器の脅威を先制攻撃によって取り除く摘出手術とともに、将来とも変な気を起こさせないように体制転換という臓器移植まで執刀する荒療治である。
 その処方箋(せん)を書いたのはネオコンと呼ばれる米国の新保守主義者たちだ。彼らは、イラクにとどまらず、同じく「悪の枢軸」を構成する北朝鮮とイランを次の体制転換の標的に置く。イラク戦争に勝つことが、北朝鮮の核開発を思いとどまらせる最大の圧力になると信じ込んでいるふしがある。
 北朝鮮が「恐れ入りました。もうバカなまねはしません」と核開発を断念するのであればまことに結構な話だが、おそらくそうはなるまい。むしろ逆だ。核を持たなかったからイラクは米国に侵略された、だから核開発を急がなければならない、と覚悟を決めたかもしれない。米国のイラク攻撃が、北朝鮮の核信仰をさらに高める結果になったとすれば、日本の安全保障にとってもゆゆしきことである。
 だいいち、この先制攻撃論と体制転換論がくせ者だ。
 それらは9・11テロ後、冷戦時代の抑止力ではテロのような新たな脅威に対応できない、との切迫感から唱えられ始めた。
 しかし、日米同盟の役割の一つはまさしくこの抑止力によって北朝鮮の脅威を抑え込むことにある。なのに外ならぬ米国がそれを効かない、効かない、と声高に言えば、抑止力そのものをそぐ恐れがある。同時に、北朝鮮の脅威を単なる「冷戦の残滓(ざんし)」として抑止力一本で封じ込めようとするのも無理がある。北朝鮮が保有する大量破壊兵器の拡散、とくにテロリストへの流出は米軍と基地で守りを固めても防げない。
 
 ネオコンの中には、北朝鮮の核施設を軍事攻撃するべきだとの声がある。ブッシュ政権は現在は北朝鮮に対してはあくまで外交努力で解決するとの立場を崩してはいないが、イラク戦争がうまくいけば軍事的外科手術論が強まるかもしれない。すでに米軍基地を38度線近くからもっと南に移し、米兵を北朝鮮の“人質状態”から解放し、軍事作戦をしやすくせよとの主張が強まっている。それによって北朝鮮にさらに圧力をかけようとの計算もある。
 ただ、それには韓国が頑強に反対するだろうし、日本でも「巻き込まれる」ことへの恐怖感が高まるだろう。そうなれば、日米同盟、米韓同盟が激しくきしむ危険がある。
 逆に、イラク戦争がうまくいかない場合は、米国の威信が傷つく。その場合、北朝鮮がさらに挑発してくる恐れもある。
 イラク戦争を北朝鮮に対する軍事作戦の前哨戦のように扱い、それに備えて日米同盟の再強化を言い立てることには慎重でなければならない。
 北朝鮮の核危機を軍事的に除去するために日米同盟を強化することにのみ目を向けるのではなく、それを平和的に解決するために日米同盟を活用することにもっと腐心するべきである。
 イラク戦争を仕掛けたネオコンが北朝鮮政策をも牛耳ることになるのではないかと、米国の北朝鮮専門家は警戒している。議会証言で「北朝鮮との直接の対話の必要」を強調したアーミテージ国務副長官でさえ、「余計なことを言うんじゃない」とホワイトハウスからたしなめられたほど、ネオコンは影響力を増している。
 「大統領はネオコンに包囲されてしまった。コイズミからブッシュに働きかけてもらう以外ない」と専門家の一人は言った。大統領に、朝鮮半島の危機の深刻さとともに北東アジア国際政治の機微を説き、北朝鮮の核開発をやめさせるための米朝の話し合いと、それを包み込むような形での多角的な枠組みづくりを促すには、もはや小泉首相をおいて他にいない、という切羽詰まった訴えである。
(本社コラムニスト yfunabashi@clubAA.com)
 
 
 
 
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