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2003/03/23 朝日新聞朝刊
情け容赦ない男のリスト(風 ワシントンから)
西村陽一
「あれほど情け容赦ない男は見たことがない・・・。もっとも、これはほめ言葉として言っているんだが」
ラムズフェルド米国防長官の剛腕ぶりについて、キッシンジャー元国務長官がこんな感想を漏らしたことがある。
イラク戦争の開戦以来、ラムズフェルド氏は、容赦のない言葉を吐き続けている。「サダム・フセイン体制は余命いくばくもない」「イラクの兵や将校は、滅び行く政権のために死にたいのか」「この戦争は、戦力、範囲、規模ともに、これまでに例を見ないものとなる」
めがねの奥から記者団を射抜く視線は、その先にフセイン大統領を見据えているかのようだ。米国のテレビは21日、画面を真ん中で割り、赤々と炎上するバグダッドと、短く警告を発するラムズフェルド氏の二つの映像を並べた。イラク市民を恐怖のどん底にたたきつけた情け容赦のない空爆の無機質な映像は、隣の国防長官の冷酷さをいっそう際だたせた。
開戦前、ラムズフェルド氏の舌鋒(ぜっぽう)は欧州に向いていた。
「仏独は古い欧州だ」「ドイツはキューバやリビアなどとともに戦争になっても何もしないだろう」「英国が戦争でどんな役割を果たせるのか、わからない」。欧州を怒らせるたびに、一部の米政府当局者や識者から「あの人を黙らせてくれ」と悲鳴があがるのを聞いた。
「あなたは政権の厄介者か」。英BBCの記者は、最近の長官会見をこんな質問で締めくくった。長官はこともなげに答えた。「違うね。大統領もそう思っていない。私の言っていることは、大統領や国務長官の言っていることと大変似ている」
表向きはちっとも似ていない。しかし、手加減を知らない一連の問題発言は、ブッシュ政権内にくすぶる不満や本音を、時にはあえて、時にはうっかりと代弁したものといえる。
ラムズフェルド語録のほかに、4、5ページの「ラムズフェルド・リスト」なるものがある。長官が昨年の9、10月ごろから書き始め、加筆してきた。
本人によれば、そこには「大量破壊兵器による反撃」「近隣(イスラエル)へのミサイル発射」「混乱や無秩序に乗じた内乱」「自国民への化学兵器使用」「要塞(ようさい)化されたバグダッドでの市街戦」「油田放火」「(ダム決壊による)洪水」といった項目が並んでいる。いずれもイラク戦争のなかで想定される最悪の事態である。
「油田放火」はすでに現実のものとなった。「多数の民間人の犠牲」「捕虜米兵を使った人間の盾」などもリストには含まれているのかもしれない。
イラクに「衝撃と恐怖」を植え付ける徹底した空爆が始まった開戦3日目、ベトナム戦争当時のマクナマラ氏以来の「強力国防長官」といわれるラムズフェルド氏は、自信に満ちた表情をしていた。しかし、「ラムズフェルド・リスト」がさらに一つ二つと現実のものになれば、イラク国民と米国にとって、悪夢以外の何物でもない。
(アメリカ総局長)
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