2003/03/22 朝日新聞朝刊
これが本当の同盟か 米国支持(社説)
イラクに対する米英の攻撃が進むなか、小泉首相は国会審議や記者会見で、米国への支持を明確に表明した。
「政治家として一番大事なのは、二度と戦争を起こさないこと」と語ったのは首相である。昨年の靖国神社参拝後の言葉だ。
だが、この間、戦争が起きないようにどれだけの努力をしたのか。同盟国の間でさえ判断が大きく割れるなかで開戦に踏み切った米国への支持を、淡々と説く首相は自分のこの言葉を忘れたのだろうか。
この数カ月間、首相は「仮定の質問には答えられない」「国際政治は複雑怪奇」「その場の雰囲気で決める」と、きちんとした説明を避け続けた。戦争が始まった途端、待ちかまえていたような支持表明だ。
「日本は一切、武力行使をしない。戦闘行為に参加しない」と言う。だから、支持しても問題ないのだと言わんばかりだ。そんな首相の態度からは、戦争支持という結論に至る苦しみや悩みはうかがえない。
多くの国民も、フセイン大統領が国連決議を無視し、査察に非協力的であることが問題の原因であることは承知している。
だからといって、なぜいま戦争なのか。明確な国連決議もないのになぜ米国を支持するのか。首相の説明は相変わらず、こうした疑問に正面から答えていない。
首相は日米安保の重要性を前面に出し、「米国は日本にとって最も信頼できる同盟国だ。日本も米国にとって信頼に足る同盟国でありたい」と繰り返す。
北朝鮮問題を意識してのことだろう。わからないでもないが、ここには大きな矛盾と深刻な問題が潜んでいる。
米国は、フセイン大統領がいる間は大量破壊兵器問題は解決できないとして、イラクの政権転覆を正当化した。これは、米国が問題ありと判断した国は、強大な軍事力で政権を倒しても構わないという論理だ。
首相はそれも支持した。
では、米国がこの理屈を、核兵器開発の疑いが強い北朝鮮にも使ったらどうなるのか。そうなった場合、日本や韓国は深刻な影響を受ける。今回の米国の軍事行動を支える論理を容認することがはらむ深刻さを、首相は考えたのだろうか。
そもそも、イラク戦争で米国を支持しなければ揺らいでしまうほど、日米関係は脆弱(ぜいじゃく)なものなのか。政府は周辺事態法制定や対テロ戦争での米国への協力などで、日米安保はかつてないほど強化されたと誇っていた。それは間違いだったのか。
米国と強固な同盟関係にあるカナダは、国連でのイラク問題をめぐる調整が土壇場を迎えた段階で、平和的解決のため独自の仲介案を提案した。それが不首尾に終わると、「外国の政権交代のための戦争はいつの時代でも望ましいものではない」として、米国支持を見送った。
本当の信頼関係があればこそ、相手にものを言うことができるのだ。
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