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私はこう考える【イラク戦争について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


2003/03/21 朝日新聞朝刊
宗教戦争にするな イラク攻撃開始(社説)
 
 ついに戦争が始まった。
 湾岸戦争から12年、当時よりもはるかに強力になった米軍のミサイルや精密誘導爆弾が、同じイラクの政治や軍事の拠点を一方的に破壊していく。
 米英軍による攻撃が始まった直後、ブッシュ大統領は演説し、戦争の目的を「イラクを武装解除し、国民を解放し、世界を重大な危険から守るため」と語った。
 これに対してフセイン大統領は「イラク国民は平和を愛し、平和のために戦う」と徹底抗戦を宣言した。
 両者ともテレビを通じて、世界にそれぞれの大義を訴えた。
○民衆の犠牲を最小限に
 テレビは米国の設定した48時間の猶予期限に至る時間の歩みを、カウントダウンの形で流した。米国が仕掛ける戦争には、ゲーム感覚がつきまとう。
 しかし地上では、兵士か市民かを問わず多くの人が死に、傷つき、街が壊れる。いつの戦争でも最大の被害者は、標的とされる支配者ではない。民衆である。
 戦争しなくても大量破壊兵器を廃棄させる可能性が残っていたのに、ブッシュ政権は制止を振り切るように武力行使の道を選んだ。私たちはこの戦争を支持しない。
 だが、戦争は始まった。時計の針は元に戻らない。この現実に立つ時、イラク国民と世界にとって望ましい道は何か。
 なによりも戦争を一刻も早く終わらせること、そして戦争の犠牲者をできる限り少なくすることだ。
 米英軍の攻撃は、軍事的な施設や本来の狙いである大量破壊兵器の関連施設に絞られるべきである。
 ユーゴ空爆やアフガン戦争のように、破壊力の大きいハイテク兵器の実験場にしてはならぬ。安易に使えば、無差別に大量の命を奪うことになる。
 「同盟軍は罪のない人々に被害が及ばないように、あらゆる努力をする」という言葉通り、ブッシュ氏は一般市民の犠牲を極力抑えなければなるまい。
 それはフセイン氏にとっての責務でもある。自衛の戦争だといって、フセイン氏が徹底抗戦を選ぶなら、戦争は長引き、死者は増えるだけだ。
 もとより危険な独裁者である。自分の名誉のために国民を犠牲にするなら、それは自衛の名に値しない。
 まして、万が一にも生物化学兵器を使用することは絶対に許されない。イラク問題の出発点は、大量破壊兵器をめぐる疑惑にあった。実際にそれを使えば、今度は国連が軍事制裁に動くだろう。
 戦火の下で生きる民衆も助けたい。国連は今後6週間以内に千万人が食糧不足になると予測する。米軍は食糧や医薬品の配給を続けるというが、人道的な支援が一日も早く世界から届くようにしたい。
 多くの難民が流れ出すだろう。米英は周辺国と協力してその安全を守るべきだ。
○恐ろしい「文明の衝突」
 湾岸戦争時の大統領だった父親ブッシュ氏は、戦争が「アラブ世界との対決」にならないよう努めたと回顧録に記している。
 この「アラブ世界」がフセイン大統領のテレビ演説に頻繁に登場した。「アラブ諸国は尊厳の源にある。アラブ万歳」と。
 米国が仕掛けた戦争はアラブ・イスラム世界全体に仕掛けた戦争だから、「聖戦」に立ち上がるというのだ。
 戦争が始まった今、アラブ・イスラム世界には、米英軍を中世の「十字軍」の再来とみなす空気がある。「異教徒に対する聖戦」を呼びかけるイスラム指導者もいる。
 ブッシュ氏に色濃い「正義と邪悪」の考え方には、キリスト教原理主義の影響があるといわれている。彼が演説に聖書の言葉を多用することも、そうした見方に拍車をかけている。
 アフガニスタンでの戦争を「十字軍」になぞらえたのもブッシュ氏だ。ブッシュ政権からは、アラブの文化や伝統を無視するかのように「中東の民主化」といった言葉が軽々しく語られる。
 米国の政治学者、サミュエル・ハンチントン氏が「冷戦後、世界はキリスト教やイスラム教などの文明が衝突するようになる」と指摘したことはよく知られる。
 ただでさえ宗教対立を土台としたパレスチナ問題が片づかない中である。イラク戦争の行方によっては、そんな「文明の衝突」の様相が深まる恐れもある。
 ローマ法王がイラク問題の平和的解決を訴えるなど、キリスト教の側からもそれを憂慮する声があがっている。
 ブッシュ氏は開戦演説で「イラク国民とその偉大な文明、宗教に敬意を払う」と、自戒を込めた。この言葉を胸に刻んでもらいたい。21世紀の初頭を宗教戦争の時代にしてはならない。
○早期終戦へ外交を
 戦後のことも、今から考えておかねばならない。
 米国の外交問題評議会の試算によれば、戦後、治安の維持や国境の監視に最大20万人の兵士が数年間は駐留しなければならない。国内の安定と復興の費用は毎年しめて200億ドルにのぼる。大変な数字だ。
 複雑な民族、宗教事情をかかえたイラクを安定させ、「民主化」するのも容易なことではない。国連をはじめ、欧州や日本の手助けがなければ不可能に近い。
 米英両外相が欠席した開戦直前の国連安保理では、戦争に反対した仏独外相らが米国を批判しつつも、人道的支援や戦後の協力を表明した。
 これらの国々と国連のアナン事務総長には、戦争の早期終結に向けた外交努力も期待したいものである。
 
 
 
 
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