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私はこう考える【イラク戦争について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


2003/03/20 朝日新聞朝刊
失うものの大きさ イラク攻撃秒読み
論説主幹・若宮啓文
 
 イラク戦争の始まる日は、21世紀に長く記憶される日となるかも知れない。米国がひとり国際秩序を仕切るという、20世紀と違った世界の構造があらわになった日としてである。
 いや、下手をすれば、世界の混乱に予想外のひきがねを引く日にならないとも限らない。米国は勝っても栄誉を失うことにならないか。そんな重大な瀬戸際に、いま世界は立っている。
 01年9月11日に米国を惨劇が襲った1週間後、いち早くワシントンにかけつけた外国首脳は、誰あろうシラク仏大統領だった。ホワイトハウスで抱き合う両大統領。「全面的に米国と連帯する」と対テロ戦に決意を語ったシラク氏は、世界の空気を代弁してもいた。
 それからちょうど1年半。なりふり構わずイラク攻撃に進むブッシュ氏に対し、今度はそれを制する側の代表をシラク氏が演じた。この皮肉な巡り合わせはまた、いまの世界を象徴している。
 「我々には永続する盟友もないし、永遠の敵もない。国家利益だけが永遠だ」とは、19世紀の英国外相・パーマストン卿の言葉だ。開戦反対の国々にはさまざまな利害打算もあろう。だが、長年の仲間だった仏独を追い込んだのは、他ならぬ米国の独りよがりである。
 20世紀、米国は多くの戦争をした。行き過ぎや失敗もあったが、全体主義の支配から世界を解放した。共産主義の脅威とも対峙(たいじ)し、自由と民主主義のシンボルとして20世紀に輝きを放った。
 だが、今度の戦争はどうか。米国が世界でこれほど孤立しつつ強行した戦争を知らない。自国のカーター元大統領すら「文明国の歴史の中でほとんど前例のない行動」だと警告を発した。
 もちろん、それなりの理由はある。テロの芽は早く摘まなければならない。イラクは湾岸戦争にも懲りない危険な国だ。9・11を真珠湾攻撃になぞらえ、フセイン大統領をヒトラーに重ね合わせるブッシュ氏にとって、これは21世紀における正義の戦争に他ならない。
 米国は強い。テロが横行し、イラクや北朝鮮のような国が存在する中、米国は頼もしい世界の警察官には違いない。
 だが、その強さがあだとなる。米国だけが強すぎる。他の国が束になってもかなわない軍事力をもち、それを誇示する。経済も文化や情報も世界を席巻する。世界の秩序は自分たちが作るという過剰な自負が、新たな敵を育んでもいる。
 単独でもイラクをたたくとの意気込みは、広くアラブ諸国の反米感情まで刺激してやまない。宗教対立をあおってしまえば、どんな結果を生むか。米国は友好国もへきえきさせる困った警察官でもある。体を張った仏独の抵抗は、そんな米国の一極支配に対する強い拒否の意思表示だった。
 小泉首相は違った。逆風のなか、それでも米国を選んだのだ。国際政治は力の世界だ。強者には寄り添っておく方が得だ。そんな割り切り方がうかがえる。答えはこれしかない、と。
 しかし、戦争は殺し合いを当たり前にする人間の最も悲惨な営みだ。シュレーダー独首相は「イラクの独裁者の脅威は、罪のない多くの人々を間違いなく殺す戦争を正当化できるほどか」と、国民に命の重さを語った。ドイツと同様、前世紀に悔やみきれない体験をもつ日本にして、小泉氏のこだわりの薄さは何なのだろう。
 日本は危うい戦争に向かう米国の背中を押した。それは、米国の一極支配に世界を委ねることへの賛成票でもある。失うものは余りにも大きい。
 
 
 
 
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