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私はこう考える【イラク戦争について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


2003/03/03 朝日新聞朝刊
米欧同盟、深刻な岐路 イラク攻撃巡り対立激化
 
 イラク攻撃までの時間を計る砂時計の砂が、残りわずかになっている。仏独が砂時計を逆さにして最後の巻き返しを試みれば、米国はそれをまたひっくり返して、時間切れの宣告をしようとする。国連を舞台に米欧の亀裂は一段と広がり、大西洋を隔てた同盟は深刻な岐路に立たされている。
(アメリカ総局長・西村陽一 ヨーロッパ総局長・外岡秀俊)
●「世界観の衝突」根底に
 「国連安保理が真っ二つに割れた。米英と仏独は別の世界の言葉を話しているようだ」
 米英が新決議案を出した2月24日、国連の担当者が嘆いた。
 「査察は無意味だ。イラクに決議を守る意思がないのは明白だ」と米英が言えば、仏独は「査察が有効なことが明らかになった」と、その強化を打ち出す。国連がここまで割れたのは冷戦以来のことだ。
 オルブライト前米国務長官が語った。「米国に反欧感情が生まれ、欧州が反米的になったことはこれまでにもあった。最悪なのはこれが同時に起きることだ。私たちがいま目にしているのが、まさにそれなのだ」
 分裂の種は冷戦の終わりとともにまかれた。
 米国の新保守主義の論客、ロバート・ケーガン氏はこう指摘する。「冷戦の終わりによって『西側』のまとまりを保つ必要性が薄れ、米国の外交は『正常』に戻った。それは国際世論や同盟国の声にあまり耳を傾けず、より大きな行動の自由を確保することを意味していた。欧州にとっても、大事なのは『西側』ではなく、『欧州』そのものになった」
 欧州は軍事力に背を向け、法や規則、国家を超えた交渉や協力に支えられた抑制的な世界をめざす。これに対して米国は、国際法はあてにならないものとみなし、真の安全保障や自由秩序の構築は軍事力の保有と行使にかかっていると考えている――。対立の奥底には、力をめぐるそんな考え方の違いや世界観の衝突が横たわっている、とケーガン氏はいう。
 英国にある欧州改革センターのスティーブン・エバーツ研究員はこう述べた。「欧州には永遠の勝者も、永遠の敗者もない。たゆまぬ話し合いと妥協の繰り返しで統合を進めてきた。軍事力も時に必要だが、最終的な問題の解決にはならない。国際法と多国間の枠組みが最重要と考えている」
 根本的な価値観のぶつかり合いに、同時多発テロ後の互いの脅威認識の落差が重なって、今日のイラク論争の対立軸がつくられている。
●欧州内も進む分裂
 エバーツ氏は「実際には二つの分裂が同時進行している」とも語る。「米欧の分裂」にとどまらない「欧州内の分裂」である。
 「二つの分裂」を鮮明にしたのが、ラムズフェルド米国防長官の発言だった。
 「(米国に反対している)仏独だけが欧州ではない。あれは古い欧州だ」。両国の神経を逆なでしたこの言葉には、中東欧に広がる「新しい欧州」に手をのばし、ここを欧州に対する影響力の新たな重心として活用したい、という米国の考えが顔をのぞかせている。
 米国で新旧の欧州が意識されたのは、イラク問題が初めてではない。国際刑事裁判所(ICC)=メモ(1)=に反対するブッシュ政権が、米兵をICCに引き渡さない2国間協定を最初に結んだ相手は、ルーマニアだった。ルーマニアは、ICCを推進する欧州連合(EU)に対するくさびの役割を担わされた。
 また、「古い欧州」のドイツにある米軍基地を削減し、もっと中東に近いルーマニアやブルガリアなどに移転する構想も、米政権の内外で検討されている。「新しい欧州」は、米軍の機動力を高めるための新たな軍事インフラとして位置づけられている。
 米側があえて新旧の違いを際だたせようとする背景には、「仏独を中心とする欧州はもはや重要ではないと考える米国の新保守主義」の影がある。ニューヨーク・タイムズ紙はそんな見方を紹介した。
 イラクをめぐる対立でこの考えはさらに強固になったようだ。新保守主義陣営の総帥、リチャード・パール米国防政策諮問委員長は最近の講演で語った。「仏には、EUを米国への対抗勢力にしたいという狙いがある。米仏はよき同盟関係にあったが、対抗勢力という考えが出ては、もう同盟とはいえない」
 一極支配を固定化したい米国は、米国の覇権を受け入れる「新しい欧州」と、仏独を中心とする「古い欧州」とに割れた方が都合がいいと考えているのではないか――。「古い欧州」にはそう映る。米国への脅威感はますます募ることになる。
 一方、仏独が再接近する力学も、イラク危機の前からあった。これが目立ったのは昨秋からだ。
 EUと北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大=メモ(2)=で欧州の重心は独に移る。このため、仏は独に警戒を強め、距離を置いてきた。しかし、独は景気後退により政権が弱体化。一方でシラク仏政権は再選で基盤を強化し、両国の均衡は釣り合った。
 ここに、仏独枢軸で欧州の主導権を握ろうという動きと、米国の後ろ盾で発言力を確保しようとする英国とがぶつかる図式ができあがった。「新旧対立」の断層としてくっきり表れた「仏独対英」の対立構造といえる。
●世界秩序の再編、仏の決断が焦点
 「ブッシュ政権は、欧州は自分で問題を解決する力がなく、最後は米国が単独でも解決するという立場だ。だが多くの国は、今回のイラク戦争の大義にも結果にも、不信の目を向けている」
 ロンドン・スクール・オブ・エコノミックスのスパイロス・エコノミデス教授が述べた。
 米英は安保理の可決条件である9カ国の多数派を形成し、仏ロ中に拒否権を行使させないよう迫る作戦だ。仏が拒否権を使えば、米国の単独行動主義はさらに強まり、国連の権威は弱まる。仏が土壇場で態度を翻し、国連支持のもとに作戦に加われば、独は取り残される。最後は仏の決断にかかっている。教授はそう分析した。
 「米一極構造の最初の深刻な裂け目」(米コラムニストのチャールズ・クラウトハマー氏)がどのような世界秩序の再編につながるかは、予断を許さない。
 確かなのは、戦後の秩序を支えてきた米国の軍事力と欧州の外交力の結合が破綻(はたん)するのは、だれにとっても失敗を意味する、ということだろう。
◆存在揺らぐNATO 米、しだいに距離
 「イラクをめぐる米欧対立の犠牲者はNATOだろう」。米ブルッキングズ研究所のフィリップ・ゴードン主任研究員はこう語った。
 NATOのイズメイ初代事務総長(英国)は、同盟の役割を「アメリカを取り込み、ロシアを締め出し、ドイツを抑え込む」とまとめた。だがソ連は崩壊し、独は軍事的に脅威ではなくなった。最後の意義である米欧のきずなも、米国にとってもはや魅力的なものではない。
 「史上最も偉大な軍事同盟」(マケイン米上院議員)といわれたNATOの最初の揺らぎは、ブッシュ政権の成立前、民主党クリントン政権時の99年のコソボ紛争=メモ(3)=だった。
 参加したNATO軍の中身は米軍が圧倒的だった。欧州は攻撃を軍事目標に限定しようとした。米国にはこれが足手まといに映り、「この戦争が示したのは米欧が共に戦うことがいかに難しいかという点だった」(ケーガン氏)との評価を残した。
 01年の同時多発テロでは、NATOが初めて集団的自衛権の条項を引用した。しかし、米国はアフガニスタン攻撃にあたって加盟国に個別に支援を仰いでいる。
 今回は、軍事的には単独で振る舞える米英が求めた「政治的支持」を、NATOは最後まで渋った。「米国はNATOに頼ることに懐疑的になっていたが、今度の迷走でますます距離をとるようになるかもしれない」とゴードン氏はいう。
 
<メモ>
(1) 国際刑事裁判所
ルワンダやボスニアで起きたような大量虐殺や戦争犯罪などを裁く常設の機関。国連の下に設置する条約が02年7月に発効した。米ブッシュ政権は前政権がした署名を撤回し、国連の平和維持活動(PKO)に参加する自国兵士らを訴追対象から外すよう求めている。
(2) 東方拡大
15カ国で構成されるEUに04年5月、ポーランド、チェコなど中東欧10カ国が新たに加盟する。07年ごろにはルーマニアやブルガリア、さらにその後、トルコや旧ユーゴ諸国の参加も検討されている。NATOも東方拡大を続ける。旧ソ連・東欧が組織したワルシャワ条約機構の解体後、中東欧諸国は相次いで加盟を希望。04年に加盟国は26カ国となる。
(3) ユーゴスラビア連邦(当時)セルビア共和国コソボ自治州で98年、多数派のアルバニア系住民とセルビア人との対立が激化。欧米主要国はユーゴ軍・セルビア治安部隊の撤退などを求めたが拒否されたため、NATOは国連安保理の承認を得ないまま99年3月24日、ユーゴ空爆を開始した。
 
 
 
 
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