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私はこう考える【イラク戦争について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


2003/02/06 朝日新聞朝刊
@brussels 欧州の反米主義(日本@世界)
船橋洋一
 
 ブリュッセルで開かれたある国際会議に出席した後、参加者とともにEU(欧州連合)とNATO(北大西洋条約機構)の政策責任者と懇談した。
 いずれも話はイラク問題から欧州における反米主義の高まりへと向かった。
 「欧州の反米感情はこれまでになく強い。欧米関係の先行きをとても心配している」とEUの外交政策担当者は語った。
 親米派として知られる彼も、今度の米国のイラク戦争にはついていけないようだ。
 「米国はテロに対する戦いをきちんと仕上げるべきで、イラクにまで突っ込んでいく必要はないと思うのだが・・・」
 「いまの米国に対するさまざまな懸念のうち最大のものは、先制攻撃正当論だ。それを認めればインド、パキスタンもそれを要求するに違いない」
 「ただ、米国でも反欧州主義が広がっているようだ。本当に困ったことだ」。表情が豊かな彼らしく、いかにも困ったという顔つきをしてみせる。
 
 米国内には「イラク戦争などうまくいきっこない」と公言するシラク仏大統領や先の総選挙で反イラク戦争と反米を争点とし、当選したシュレーダー独首相に対する不快感が強い。その2人が米国の一極支配に対抗すべく欧州の独自路線をうたい上げている。欧州統合にカツを入れるため米国をだしに使っている、と米国はけげんな面持ちだ。ラムズフェルド国防長官が独仏のような国々を「古くさい欧州」と呼んだのもそうした不信感に根ざしている。
 ウォールストリート・ジャーナル紙(2月4日付)にこんな読者の手紙が載っていた。
 「自分の首都も守れず、ナチスに明け渡したくせに。ビシー政権はナチスがユダヤ人を逮捕するのを手助けしたくせに。イラクの原子炉開発、つまり核開発に手を貸したくせに。こんな国のために世界大戦では、ここで1万人近い米国兵が死んだのだ。恥知らずのフランスよ、せめて黙ってろ」
 ナチス・ドイツとビシー・フランスの野合に対する義憤を下敷きにした独仏枢軸への攻撃的嫌悪感をにじませている。
 もっとも、シラク大統領はここへ来てイラク攻撃もやむなしとの姿勢を見せ始めている。独仏枢軸の足場は早くもぐらつき始めたかに見える。
 欧州の反米主義の根っこは、冷戦後、あらわになった米国の一極構造とそこから生み出されてくる米国の一国主義である。
 この間、湾岸戦争、ボスニア・コソボ戦争、アフガニスタン戦争と、欧米間の軍事力の格差が急速に拡大した。欧州の裏庭で起こったバルカンの民族浄化を欧州は自らの力では食い止めることが出来ず、米国に頼らざるを得なかった。欧州ができないから米国がやらざるを得ない。そこに一国主義の土壌がある。欧州は自らの城の中では、欧州文明は紛争を軍事力によって解決する野蛮に最終的に別れを告げた、死刑制度を維持しているような野蛮な米国とはわけが違う、と自負していた。それだけに、バルカンや中東における安全保障面での無力感と挫折感がこたえる。
 欧米関係は往々にして中東をめぐって激しく緊張する。国々はどれほど文明の度合いを増そうが、地政学や石油からなかなか自由になれない。
 NATO本部での懇談では、参加者の間から「サダム・フセイン」後の安定とイスラエル・パレスチナ和平を促進し、中東の新秩序を築くため、NATOをイスラエル・パレスチナに派遣するべきではないかとの質問が出た。先方は「NATOと言っても、イスラエルは欧州が入ることは拒否するだろうし、パレスチナは米国が入ることに抵抗するだろう」と答えた。
 反米主義の構造を形作る両者間のさまざまな格差の中には、軍事力の能力差にとどまらず、国際政治における軍事力というパワーに対する認識差がある。外交が力を発揮するには時に軍事力の後ろ盾が必要な場合もある。国連の今回のイラク査察も、結局はこの地域一帯における米国の軍事力が存在してこそ可能なのである。国連にそれを執行するだけの力はまだない。その冷厳な現実を欧州は改めて思い知らされている。
 
 EU本部での懇談では次のようなやりとりがあった。
 「反欧州主義など、米国にはそれほど見られない。米国民はそれほど欧州のことに関心はないのだから」
 「まさにそこが問題なのだ。それは欧州が米国に関心を持っているほど米国は欧州に関心を持っていない、ということなのだから」
 好きも嫌いも片思い。欧州の不機嫌さは募る一方である。
(本社コラムニスト yfunabaship@clubAA.com)
 
 
 
 
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