2003/01/15 朝日新聞朝刊
欧州指導者ら世論反映、米と距離 イラク攻撃、回避・延期に傾く
米国にはつき合わざるをえない、とあきらめムードだった欧州各国やEU(欧州連合)の指導者が、イラク攻撃回避や延期に傾く発言を強めている。国連査察が進んでも大量破壊兵器開発の明確な証拠はまだ出ない。米英はイラク周辺地域への兵力を増派しているが、欧州の世論は「米国の戦争」に反発を強めるばかり。指導者たちの発言はその反映だ。(国際面に関係記事)
○仏紙「欧州人は戦争反対」
「軍は、あらゆる事態に備えよ」(7日)
「武力頼みはすべてが失敗した時」(9日)
「米国が対応を変えなければテロはますますのさばる」(13日)
イラク攻撃へのシラク仏大統領の口調は、1月に入って日に日に和平路線に傾斜した。次々と出る世論調査結果と歩調を合わせるかのようだ。
9日発表の仏パリジャン紙の調査では、66%が対イラク武力介入に反対。賛成は24%で、昨夏の32%から大きく後退した。同日のフィガロ紙でも戦争反対が77%、仏ジュルナル・デュ・ディマンシュ紙が12日公表した調査も76%に上った。
野党が「安保理では米国に拒否権で対抗せよ」(社会党のラング元国民教育相)と主張すると、大統領はイラク問題の討議を議会に働きかけた。国内論議の高まりを米国を牽制(けんせい)する外交の追い風ととらえているようだ。
15日付の有力紙・ルモンドは「欧州人は戦争に反対」との見出しを1面トップに掲げ、「世論に押され、各国政府は時間をかせごうとしている」と書いた。
13日、ロンドンの英首相官邸での記者会見で、ブレア首相の顔が一瞬、紅潮した。「必要がないのに兵を戦地へ送ったりはしない」
「湾岸へ赴く空母の兵士の母に、どんな言葉をかけるのか」と問われた時だった。米国と歩調を合わせてきた首相への批判は与党・労働党を中心に強まるばかりだ。
56年のスエズ動乱を教訓に、武力行使を急がぬよう、進言する与党議員もいる。この時は十分な支持を得られないままエジプトへ派兵した結果、当時のイーデン政権が退陣に追い込まれた。
(パリ=国末憲人 ロンドン=福田伸生)
○独首相、決議対応は綱渡り
ドイツでは、与党・社民党内の和平推進派であるウィチョレクツォイル経済協力・開発相が独紙で「イラク戦争反対」を改めて強調した。
昨年の総選挙で「対イラク戦不参加」を公約にしたシュレーダー首相だが、武力介入を視野に入れた新たな安保理決議案への対応は綱渡りだ。賛成すれば支持者への裏切り、反対すれば対米関係はさらに悪化する。このところ領空通過や基地使用で米国に譲歩してきた政府・与党内で、反戦派の期待がふくらんでいる。
イラク問題で共同歩調がとれないままだったEUも動きだした。
プロディ欧州委員長は10日、EU議長国のギリシャを訪れ、「戦争が不可避と決まったわけではない」と述べた。
同国のシミティス首相は、2月初旬にも、中東7カ国にEU代表団を出し、戦争回避も視野に仲介外交に乗り出す。
ここへ来て戦争反対の世論が強まったのは、イラクでの国連査察が順調に進んでいる上、結局米英のいう大量破壊兵器保有の証拠が見つかっていないからだ。
ただ欧州の指導者たちが和戦両にらみの構えを崩したわけではない。
国連安保理には常任理事国の英仏のほか、新年からドイツも非常任理事国として加わった。欧州が存在感を増すとはいえ、対決姿勢を強めれば米国を独自行動に走らせる懸念もある。戦争回避は依然、容易ではない。
こうした状況から「回避」は無理でも「先送り」なら可能かもしれないとの見方が浮上してきた。仏ルポワン誌は最新号で「攻撃は秋まで延びるのでは」との観測を掲載した。
(ベルリン=古山順一 ブリュッセル=久田貴志子)
【写真説明】
13日、官邸で記者会見するブレア英首相=AP
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