日本財団 図書館

共通ヘッダを読みとばす


Top > 社会科学 > 政治 > 成果物情報

私はこう考える【イラク戦争について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


2003/01/03 朝日新聞朝刊
緊張続く世界、今年は 総局長5人が展望
 
 「対テロ戦争」を引きずったまま、大量破壊兵器をめぐる新たな緊張が、中東で朝鮮半島で、高まっている。今年、世界はどう動くのか。海外各地域の5人の総局長が展望する。
○若返る指導体制に注目 中国総局長・五十川倫義
 戦争に、テロに、大量破壊兵器に世界が揺れるなか、中国共産党の党員たちはいまひたすら、「16大精神」を学んでいる。
 昨年11月の第16回党大会で確認した党の歩むべき道筋を幹部から末端まで、しっかりと身につける活動を展開中なのだ。20年までに国内総生産(GDP)を00年の4倍にし、すべての国民がゆとりのある生活ができるようにすることを目標にする。そうすれば、中国はもっと豊かで安定し、20年先も共産党政権は揺るがない、と考える。
 だが、その道のりは平坦(へいたん)ではない。党大会で私営企業経営者の入党を認めたが、今後、私有経済はますます膨れる。「資本家」と大勢の貧しい労働者、農民、失業者をまとめていけるかどうか。
 今年は、そんな新しい時代のかじをとる国家と政府の指導体制を決める重要な年となる。
 指導者選出は春の全国人民代表大会(国会)で行われる。元首の国家主席は、江沢民・党中央軍事委員会主席(76)から胡錦涛総書記(60)に移り、首相は、朱鎔基氏(74)から温家宝副首相(60)に代わる見通しだ。いずれも、10歳以上も若返る。
 当面は軍のトップを続けると見られる江氏が存在感を示すだろうが、そのもとで、第4世代と言われる胡氏、温氏がどれだけ実力を発揮していけるかが焦点の一つだ。党務を握る曽慶紅・党政治局常務委員(63)らも絡み、新指導体制は固まっていきそうだ。
 新体制の外交も注目されるが、基本的には国際社会の動向と歩調を合わせると見られる。米国に対しても、牽制(けんせい)しつつ協力する立場をとるだろう。米英のイラク攻撃には慎重な対応を求めるが、ひとり反対に回ることは考えにくい。だが、隣国の北朝鮮の核問題については、徹底して平和解決を訴えるだろう。
 世界の多極化、東アジアの一体化も一段と進め、平和友好条約25周年を迎える日本との関係もさらに発展させていきたい考えのようだ。
 台湾は04年の総統選に向けて与野党の動きが活発になる。国民党と親民党が手を握り、民進党の陳水扁総統の再選を阻むか。中国は野党の攻勢に期待を寄せて注視する。
○「孤独な帝国」か、協調か アメリカ総局長・西村陽一
 「兵を出せと言うのはたやすい。しかし、決断の責任を負うのは1人しかいない。この私だ。イラクに兵を送るとすれば、(イラクの兵器から)より多くの命を救うためには軍事行動しかない、と私が決めたときだ」
 年の瀬のブッシュ大統領の言葉である。年明けの大統領は、イラクを討つかどうかの重い決断に直面する。
 イラク攻撃は、ならず者国家への先制攻撃や、その「民主化」のための積極介入をうたう新ドクトリンの適用第1号となる。攻撃される危険は迫っていないのに、「自国民を救う」名目で戦争に踏み切れば、軍事力行使の敷居をぐんと下げる前例をつくる。戦後の混乱やイスラム世界の反発が広がれば、「9・11」後の国際秩序は、米国の覇権を揺るがしかねない新たな不安定期に入るだろう。本調子ではない米国経済がさらなる打撃を受ける可能性もある。
 米国は、蛇が獲物を締め上げるようにイラクへの圧力を強めていく。1月下旬ごろには、中核となる兵力の現地展開もほぼ整う。イラクが自分から深刻な危機を誘発する失態を犯せば、戦争は避けられない。しかし、決定的な不正の証拠が出てこないままだと、それでも戦争に突入するか、戦争を先送りして、封じ込めや査察を辛抱強く続けるか、の岐路に立たされる。
 米政権の内外には、新保守主義の潮流が渦巻いている。「フセイン征伐」を踏み台に、中東全域の秩序を塗り替えたいと考える勢力だ。先送りの機運が少しでも生まれれば、彼らは「米国の敗北」として反発し、大統領を単独行動主義へと突き動かす圧力が強まっていくだろう。
 北朝鮮やイランの核問題が同時に浮上したことは、不拡散政策もまた、岐路に立たされていることを物語る。圧倒的な軍事力を自由に使えるようにしておきたい米国は、軍備管理の条約や合意に縛られるのを嫌ってきた。「悪の枢軸」ごとに対応は違う、とあれこれ説明する前に、包括的な不拡散体制づくりに本腰を入れるべき時が来ている。
 イラク、北朝鮮、各地に飛び火したテロ。多くの戦線を抱えた米国は、「孤独な帝国」の本格的な一歩を踏み出すのか、国際社会との協調に足場を置き直すのか。03年の世界を左右する大統領の最も重い決断は、この点にある。
○「大欧州」再定義が焦点 ヨーロッパ総局長・外岡秀俊
 ユーロの導入に始まり、10カ国の新規拡大で締めくくった欧州連合(EU)。02年はまさに、「大欧州誕生」を予告する一年だった。
 03年はその膨張に合わせ、「欧州」を再定義する作業が最大の焦点だ。ジスカールデスタン元仏大統領が議長を務める諮問会議は、6月にも欧州憲法草案をまとめる。仏独は外相を代表に送り、主導権を握ろうと結束した。米国寄りの政策をとる英国はどう影響力を発揮するか。虚々実々の駆け引きが続きそうだ。
 だが欧州統合には、別の側面がある。社会学者ダニエル・ベル氏がいうように、国民国家は「大きな問題を解決するには小さすぎ、小さな問題を解決するには大きすぎる」。欧州統合は、その国民国家の限界を、超国家という枠組みで突破しようとする壮大な実験だろう。とすれば「欧州統合は、グローバリゼーションに対する解決策」(ノエル・ルノワール仏欧州問題相)という見方に説得力がある。
 統合が深まれば、国や民族の伝統は揺らぎ、難民排斥や国家の威信回復という誘惑が頭をもたげる。民意が反映されず、「EU官僚が政策を決める」という不満は今後も欧州にくすぶり、極右台頭の素地となろう。いわゆる「民主主義の赤字」を解消する以外に、打開策はない。
 新規10カ国の総計に等しい人口を抱えるトルコのEU加入は、その意味での結節点だ。イスラム国家受け入れには、民意が排外に転化しない制度改革が欠かせないからだ。
 イラク問題は欧州が直面するもう一つの難問だ。91年湾岸戦争は古典的な戦争だった。99年対ユーゴ空爆は「人道介入の戦争」といわれた。では懸念される武力衝突はどうか。マイケル・ハワード元英内相は「セキュリティー(安全)のための戦争」という。
 米国は意識の上で戦時下にあり、軍事力での「脅威」撃破を急ぐ。だが「法の支配」と「国際協調」をEU統合の原理としてきた欧州は、むき出しの力の衝突が大混乱に向かうことを恐れている。
 グローバリゼーションは「暴力の民営化」としてのテロを生み、米国は既成の国際法撤廃という反テロ「規制緩和」を主張する。欧州が直面する問題は、日本と同じだ。米国に向き合う参考として、欧州を見守る一年になりそうだ。
○対立溶解「寛容さ」カギ アジア総局長・宇佐波雄策
 かつてはカシミール、スリランカなど紛争地におおむね限られていたテロは、グローバル化し、場所を選ばない。攻撃対象も無差別化、過激化するばかりだ。いつも、どこにいても気をぬけぬ陰気な時代になった。交通・通信の発達によるグローバル化の利便とは逆に世界中の人間が互いに相手を信じられない疑心暗鬼時代に入りつつある。この趨勢(すうせい)は新年も続くだろう。
 過去1年にテロが多く発生した地はアルカイダやタリバーン残党が潜むアフガニスタンからパキスタン、さらにインドにかけての西南アジアが圧倒的に多かった。しかし、昨秋にバリ島で豪州人らが大量爆殺されたテロで、それまで比較的平穏だった東南アジアも安閑としていられなくなった。
 特にアルカイダとのからみで、米英や豪州が警戒姿勢を崩さないのはアジア域内で勢力拡大を図るイスラム原理主義の過激派である。「本来イスラム教は寛容な宗教だ」と教徒自身がよくいう。
 インドネシアやマレーシアのイスラム教徒はその典型だった。中東の厳格なイスラム教徒とは、コーランの解釈、食生活などでもずいぶんと隔たりがあった。「まあいいじゃないか」というような寛容さ、アジア風の「あいまいさ」の伝統が域内での異教徒との対立を避けてきた。多民族、多宗教の地域で長い歴史が培った共存の知恵でもあった。
 しかし、グローバル化が営利優先主義を掲げて世界を統一的価値に塗りつぶすように、原理主義のグローバル化もローカルの独自性を一切認めない。このような異なるふたつの価値観の相克が世界を対立に駆り立て、憎悪の種がまかれているように思える。それでもアジアでは欧米に比べ、まだどこか人間の性善説を信じる楽天的な空気が強い。
 確かにテロは怖いが、テロに振り回されてばかりでアジアが動いているのではない。単純にイスラム教徒を敵視するばかりでは、問題の根本解決にはならず、逆に穏健なイスラム教徒を過激主義に追い立てる危険性がある。長い間アジアの非近代性の特質、欠点でもあった物事を徹底的に追いつめない「あいまいさ」や「融通無碍(ゆうずうむげ)」の新たな価値の見直し、その復権が、今の世界の極度の対立構造を将来的に溶解させるひとつのヒントになるかもしれない。
○嵐の前?米次第と息潜め 中東アフリカ総局長・川上泰徳
 中東は米国の出方に息を潜めている。ブッシュ政権が対イラク戦争を始めてフセイン政権が崩壊すれば、イラクと周辺地域の混乱は避けられない。強権崩壊で生まれる巨大な真空を、何が埋めるのか。米の傀儡(かいらい)政権か、イスラム勢力の台頭か、新たな独裁制か。その推移によってサウジアラビアを含む湾岸の安全保障のあり方も、無残に崩れた中東和平の行方も大きく変わってくる。
 年末にロンドンに集まった反体制各派は「フセイン後」の暫定政権設立で合意した。しかし、これまで何ら影響力を持ち得なかった彼らが米軍に続いて首都に入っても、混乱を収拾し、政権を運営できるかどうかは大きな疑問だ。
 封殺されていた政治的自由を求める動きが噴き出すだろう。誰もがまず自分の自由の実現を求めれば、熾烈(しれつ)な政治闘争となる。反体制派はすでに分裂を抱え込んでいる。
 フセイン政権の独裁は国民の無知の上に成立しているのではない。イラク人はアラブ世界でも高い教育や文化のレベルを有する。かつて欧米の列強の恣意(しい)的な国境の線引きに由来する現在の国際秩序の中で、強権体制は四分五裂しかねない国を無理やり維持する不幸な装置にも見える。
 周辺国が恐れるのは、北部のクルド人と、南部のシーア派イスラム教徒が分離独立を求め、イラクが分裂することだ。トルコは既にクルド人の動きに警戒を強めている。シーア派が動いて、イランと連携すれば、同じくシーア派住民を抱えるサウジやバーレーンの政治的安定を脅かす。
 これまでフセイン政権の強権支配に、トルコやサウジなど周辺国とともに米国も、地域の安定を頼ってきた。同政権がイラン・イラク戦争中の88年にクルド地域に毒ガスを使用して約5千人のクルド人を虐殺した時、米国はほとんど沈黙していた。
 さらに中東の強権体制はフセイン政権だけではない。サウジやエジプトなど親米国家も含め、政治的安定は反対派を抑え込む強権体制で保たれ、米国の覇権もその構造の上に乗っている。アラブ民衆に親米の強権はよく、反米の強権は悪いという論理は通じない。民衆の世論はイラクであれ、エジプトであれ、こぞって反米色が強い。力を振りかざす米国を前に中東に不気味な嵐の予感が広がっている。
 
 【写真説明】
 昨年11月の共産党大会で、指導部を紹介する新総書記の胡錦涛氏(左)。右端は新常務委員の温家宝氏=AP
 クウェート北部の砂漠地帯で、イラク戦に備えた訓練に向かう米兵士ら=AP
 コペンハーゲンで昨年12月に開かれたEU首脳会議で記念撮影をする参加各国の首脳ら=AP
 ジャカルタでラマダン(断食月)明けを祝って歌うイスラム教徒の少女たち=AP
 フセイン大統領の肖像画が見おろすバグダッドの市場=AP
 
 
 
 
※ この記事は、著者と発行元の許諾を得て転載したものです。著者と発行元に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど、著者と発行元の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。








サイトに関するご意見・ご質問・お問合せ   サイトマップ   個人情報保護

日本財団会長笹川陽平ブログはこちら



ランキング
注目度とは?
成果物アクセスランキング
47位
(28,647成果物中)

成果物アクセス数
178,877

集計期間:成果物公開〜現在
更新日: 2017年3月25日

関連する他の成果物

1.私はこう考える【北朝鮮について】
2.私はこう考える【中国について】
3.私はこう考える【ダム建設について】
4.私はこう考える【死刑廃止について】
5.私はこう考える【公営競技・ギャンブル】
6.私はこう考える【天皇制について】
7.私はこう考える【国連について】
8.私はこう考える【自衛隊について】
9.私はこう考える【憲法改正について】
10.私はこう考える【教育問題について】
  [ 同じカテゴリの成果物 ]


アンケートにご協力
御願いします

この成果物は
お役に立ちましたか?


とても役に立った
まあまあ
普通
いまいち
全く役に立たなかった


この成果物をどのような
目的でご覧になりましたか?


レポート等の作成の
参考資料として
研究の一助として
関係者として参照した
興味があったので
間違って辿り着いただけ


ご意見・ご感想

ここで入力されたご質問・資料請求には、ご回答できません。






その他・お問い合わせ
ご質問は こちら から