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私はこう考える【イラク戦争について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


2002/12/12 朝日新聞朝刊
@moscow 石油はワイルドカード(日本@世界)
船橋洋一
 
 モスクワですっかりお世話になった運転手のQさんは、ロシアのガソリン代がこのほど1リットルにつき1ルーブル値上がりしたことに不満たらたらである。
 「値上げの理由を政府は国民にまったく説明しない。しかもさらに4、5ルーブルの値上げを計画しているらしい」
 そう言って顔を後ろに向けようとしたところで警官に止められた。50ルーブル紙幣をそっと渡して放免だ。しばらく走ってから「あれでヤツの今日の昼飯代が出たというわけさ」
 ひどい交通渋滞だ。誰も彼もが交差点に突っ込んでくる。第4位の大手石油会社、チューメン・オイルのクークス社長との面会も遅れそうになった。
 「ロシアの石油産業は目覚ましい回復を遂げた。民営化と市場の勝利だ。5〜7年後には日産900万バレルの生産量となるだろう」とあくまで強気である。
 チューメン・オイルやユコスなど新興民営石油企業がロシアのオイルパワーの原動力だ。原油生産量でサウジアラビア、米国に次ぎ3位、輸出量ではサウジアラビア、ノルウェーに次ぎ3位である。1日300万バレルの輸出量は「供給市場を多角化することで世界経済の安定要素」とクークス氏は言う。
 チューメン・オイルはこの夏から米国への原油輸出を始めた。欧州から世界へと原油輸出先を拡大したいロシアと、中東、とくにサウジアラビアへの石油依存度を減らしたい米国との利害が一致する。9・11後の米ロの新しい戦略協力関係の要素に石油が加わってきた。
 
 ロシアはまた中国と石油をめぐる協力関係を強化しつつある。ユコスと中国国営企業は東シベリアから大慶までのパイプライン建設計画を進めている。中国がロシア原油の安定供給のためロシアの民間石油会社に資本参加する動きも始まった。ロシアは中国に石油を輸出し、中国はロシアに資本を輸出する。両者の利害が重なり合う。
 しかし、国際石油政治においては協力とは競争の同義語でもある。
 ロシアには米国の資金や技術への依存を警戒する向きもある。他方、米国はロシアの法制度の不備――交通巡査が交通切符をちらつかせて袖の下をせしめる類も含め――への不信から投資になお慎重だ。なかでも気まぐれな税制が壁である。
 “イラク戦争後”でも米ロは複雑な駆け引きを始めている。
 ロシアはイラクに石油権益を持っている。「ロシアのイラク政策のおおかたは石油利権の配慮だ」とプーチン大統領に助言する立場にある戦略問題の専門家は言う。「コソボなどにPKO(平和維持活動)を派遣するならイラクに派遣するべきだ」
 ロシア国内には米国がここに親米政権をうち立て、イラクの石油を支配し、増産し、国際石油価格を押し下げ、ロシアを押さえつけようとしているのではないか、との疑いが消えない。
 もっとも、ユコスの“お雇い”米国人であるミザモアCFOは「国際石油価格が急激に下がれば米国の石油会社も大変だ。石油に敏感なブッシュ政権が自国の石油会社が沈んでしまうような低価格を望んでいるわけがない」と一笑に付しつつ、「この種の陰謀理論はロシアの不安感の表れ」と見る。
 
 プーチンの「強いロシア」も高支持率も、石油価格が1バレル30ドルあたりで高止まりしているからこそ可能なのだ。ロシアは財政も外交も油の上に浮かんでいる。それだけに原油価格の急落を内心深く恐れている。
 ロシアの石油は、世界の政治・経済が安定させるかも知れないが、逆により不安定にさせる危険も秘めている。それはどちらにも大化けしうるワイルドカードなのである。  このゲームの胴元は新興民営石油企業である。
 「石油マンが口を開けば、プーチンは耳を傾ける」と久しぶりに会った元経済閣僚は言った。「石油産業はロシアで政治的に最強だが、民営企業の躍進で石油産業はいまもっとも市場原理が働いている分野でもある。プーチンは市場の言うことを聞かなければならないのだ」
 権力だけでなく市場も巻き込んだ石油政治の新たなゲームが始まったようだ。
 Qさんがぼやいたガソリン価格の値上がりも実はこうしたゲームの産物でもある。どの石油会社も外貨を稼ぐことのできる輸出に精を出し、国内向けの生産には熱が入らない。政府は彼らに国内生産を促すため値上げをせざるを得ない。
 だが、それは経済弱者をさらに苛(さいな)み、社会を不安定にしかねない。ロシアの石油は政治にとってのワイルドカードでもある。ロシアはそれを上手に切ることができるだろうか。
(本社コラムニスト yfunabashi@clubAA.com)
 
 
 
 
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