2002/11/15 朝日新聞朝刊
イラクは潔く協力せよ 国連決議受諾(社説)
イラクが大量破壊兵器の査察と廃棄を決めた国連決議を受諾した。
アナン国連事務総長にあてた書簡で、イラクは「我々は決められた期限内に査察団を受け入れる用意がある」と述べた。
イラクの国連大使は受諾について「条件や留保は何もない」といっており、国連査察は4年ぶりに再開される見通しだ。
安保理の全会一致の決議であるうえ、アラブ連盟も受諾を促したため、フセイン大統領も拒否できなかったのだろう。事態が査察再開という平和的な方向で動き始めたことをひとまず歓迎したい。
しかしイラクの書簡が、米英ばかりか、その圧力に屈したとして他の安保理諸国をも批判したのは遺憾である。湾岸戦争以来数々の国連決議に違反し、国連査察を妨害して、問題をこじらせてきた責任が感じられない姿勢と言わざるを得ない。
今回の決議で、査察を担う国連監視検証査察委員会(UNMOVIC)のブリクス委員長と国際原子力機関(IAEA)のエルバラダイ事務局長は、過去の査察よりはるかに強力な権限を与えられた。
査察は、製造施設や証拠物質の発見だけでなく、計画や開発に携わった技術者に対する面接や、米国をはじめとする偵察衛星の情報など、幅広い分野にわたる。
抜き打ち査察も可能になった。イラク側が繰り返してきた査察直前の資料隠しなどは、もうできない仕組みだ。フセイン大統領はそのことを肝に銘じ、潔く査察団に全面協力しなければならない。
ただ、イラクが求めるイスラム暦への配慮は必要だ。イスラム諸国では、来月初旬まで神聖な断食月が続く。宗教心を侵害するようなことをしてはなるまい。とはいえ、イラクがこれを査察妨害の口実にすることはもちろん許されない。
肝心なのは、イラクが核兵器と生物化学兵器について、これまで進めてきた計画をすべて明らかにし、隠匿している疑いが濃いこれらの兵器を全廃することだ。
イラクは今回の書簡で、生物化学兵器に関する疑惑を否定している。しかし、フセイン政権には80年代に化学兵器を対イラン戦や国内クルド人弾圧に使用し、核兵器工場まで造った過去がある。書簡で述べられたイラクの主張はとても信じられない。
再開される査察は、イラクが大量破壊兵器に依存する軍事的野望を本当に放棄したかどうかを検証する最後の機会である。そのことを自覚して、大転換を図るようフセイン大統領にいま一度念を押したい。
一方、ブッシュ米大統領には、対イラク戦争の可能性や戦後処理のシナリオについて声高に語ることを慎んでもらいたい。安保理決議はフセイン政権打倒を目指したものではなく、あくまでもイラクの大量破壊兵器を廃棄することが目的である。
いまはイラクを挑発するのではなく、安保理決議の完全履行を見守る時だ。
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