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2002/10/10 朝日新聞朝刊
@new york 米一国主義の構造(日本@世界)
船橋洋一
ブッシュ米大統領は7日のシンシナティ演説でイラクの大量破壊兵器について「最悪のことが起こるのを防ぐため米国は待ったなしの義務を果たす」と述べ、イラク戦争も辞さないとの姿勢を改めて強く示した。対テロ戦争もイラク戦争もいまのブッシュ政権の対応は「一国主義」が際だっている。
他国と多角的に協調して事に当たるのではなく米国単独で解決しようとする傾向のことだ。ねばり強く外交努力を続けるのを面倒がり、軍事力で一気にけりをつけようとする気分がこの政権にはことのほか強い。
何が、米国の一国主義を生み出しているのか。
まず、冷戦後の米国の一極構造に伴って生じた米国と同盟国、なかでも欧州との間の軍事力格差である。ボスニアもコソボも米国の軍事力の助けなしに欧州は民族浄化を食い止められなかった。欧州統合に向かう欧州は域内では非軍事化しつつあり、その辺境や域外の大きな紛争に本格介入する態勢にない。そこでの保安官の役割はいや応なしに米国に任される。米一国主義は必要から発明される。
次に、米国と同盟国との間の脅威感格差。米国に対するテロ攻撃は、米国に自分だけが標的になっているとの恐怖感を与え、過剰反応させる結果となった。それに伴って、米国と同盟国・友好国との間に脅威感格差が生まれつつある。同盟国は分かっちゃいないといういら立ちが、自分だけでやるっきゃないという一国主義をもたらす。
大量破壊兵器。核兵器、生物・化学兵器、そしてその運搬手段としてのミサイルの拡散によって、米国が享受してきたこれまでの伝統的な安心感が揺さぶられている。「大量破壊兵器拡散防止を専門にしてきたオタクたちがイラク戦争では最強硬派となっている」とワシントンの軍縮問題専門家は言っていた。彼らは、拡散防止の大義のためには他国の領土も主権も二の次といった態度に傾きやすい。
それから、空軍力の飛躍的向上と死傷者ゼロドクトリン。宇宙衛星から敵の動静を把握し、その脅威を外科手術的に摘出する空軍力を米国は持ちつつある。空軍力だけで相手をたたくことが出来るとなれば、局面打開に軍事力を使いたいという誘惑も、米国だけで処理したいという誘惑も高まる。加えて米兵の死傷者をできるだけゼロにする“きれいな戦争”しか世論は支持しないことも、空軍力重視の背景にはあるだろう。
だが、米国の一国主義はもっと根が深い、とチャールズ・カプチャン・ジョージタウン大学教授は言う。教授とはワシントンで会ったが、「ブッシュ政権の一国主義は、ある日は一国主義、次の日は新孤立主義とめまぐるしい」と言って笑った。つまり、それは「外には出たくない」という感情と「自分のイメージに合わせて世界をつくり変えたい」という気持ちの間を激しく揺れ動いている状態なのだという。そしてその底にポピュリズムがある。「自らが作った機構、仕組みに対しても、それが自らの自由を縛ると感じると、対象が国連だろうと連邦政府だろうとたちまち敵意を持つ」
たしかに対テロ戦争の前から米国は包括的核実験禁止条約(CTBT)、国際刑事裁判所(ICC)、地球温暖化などで我が道を行く“勝手連”を決め込んだ。9・11テロはそうした底だまりの一国主義的情念を噴出させる契機となったのだろう。
続けて、教授はブッシュ政権のイラク戦争計画を手厳しく批判した。
「国連無視。体制変革。先制攻撃、外科手術的空爆、占領、と一国主義的傾向が止まらない。すべて均衡を欠いている。いまの米国はほとんどヒステリー状態だ」
「先制攻撃を野放図に適用していった場合、世界は混沌(こんとん)に突入する。このままでは米国がならずもの国家となってしまう」
ところである国際会議に出席するためニューヨークに立ち寄ったのだが、旧知の外交問題の専門家がこんな話をしていた。
彼を含む外交問題の識者グループはこのほどイラク問題に関してコンドリーザ・ライス大統領補佐官(安全保障問題担当)とホワイトハウスで1時間にわたって議論した。その際、ライス補佐官の方からの質問は一つもなかった。「答えは全部こちらが知っているという態度だ。彼女に限らない。この政権はまったく聞く耳を持たない。40年間、米外交を見てきたが、こんなに独善的な政権は初めてだ」と彼は吐き捨てるように言った。共和党員である。
相手の言い分に聞く耳を持たないブッシュ政権の一国主義は、対内的にも危うい水準に達しつつあるようである。
(本社コラムニスト yfunabashi@clubAA.com)
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