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私はこう考える【イラク戦争について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


2002/10/03 朝日新聞朝刊
@tokyo 米国の友人への手紙(日本@世界)
船橋洋一
 
親愛なる m
 ワシントンでの夕食はとても有益な意見交換の場でした。貴兄が私と同様、米国のイラク戦争を深く心配していることが分かりました。ただ、その後会った人々は共和党、民主党を問わずほとんど、米国がイラクと戦争することを所与として話をしていました。国連の再査察はイラクを攻撃するための地ならしに使われるだけなのでしょうか。あの時うまく説明できなかった私の懸念をいまさら陳述しても始まらないのかもしれません。それでも米国の友人として言わずにはおれないのです。
 
 サダム・フセインが大量破壊兵器による脅威を国際社会に与え続けていることは否めません。クルド族をはじめ虐殺の前科もあります。大量破壊兵器を使わせないためには究極的には「体制変革」しかないのかもしれません。南アの核開発を止めたのも結局は体制変革でした。
 しかし、それはあくまで「究極的」のことで、いまは向こう半年の話をしているのです。
 湾岸戦争と違って、今度はバグダッドでの市街戦となるでしょう。多数の一般市民が巻き添えで犠牲となるでしょう。米軍も相当の犠牲は覚悟しなければなりません。それでも軍事的には勝利するでしょうが、問題は「その翌日から」です。どうやってイラクの国づくりをするのか。
 米政府部内では二つのシナリオについて検討しているようです。一つは軍部がサダム・フセインの下で最後まで戦う場合、もう一つは軍部が反旗を翻す場合。どちらに転ぶにしても占領は長期、本格的にならざるをえないでしょう。第2次世界大戦後の日本占領の際の「マッカーサー・モデル」などが参考例として挙げられていますが、あの占領は6年8カ月にわたりました。天皇を安定の象徴とし、要とすることができました。それでも駐留米兵は1946年の45万人を最多に、その後も10万人を下りませんでした。しかも、イラクでは過去20年間、シーア派やクルド族に対する多くの虐殺があり、「その翌日から」、血で血を洗う復讐(ふくしゅう)戦が勃発(ぼっぱつ)する危険があります。
 9・11テロの背後にサダム・フセインの手が伸びていたかどうかは証明されていません。イラクが大量破壊兵器を米国に対して使用する「切迫した脅威」があるかどうかも疑問です。「住所不定のテロリストには抑止力は効かない。やられた時はおしまいだ」というので「先制攻撃」ドクトリンを振りかざしてイラクを攻撃した場合、インドもパキスタンもそれを権利として主張するでしょう。過去半世紀、米国が中心になって形作ってきた国際秩序は崩壊していくでしょう。
 9・11テロは戦争であり犯罪であり、従って軍事と治安の双方の対象となりました。今後、大量破壊兵器が拡散すれば「技術と過激主義の交差による深刻な危険」(ブッシュ大統領のウエストポイント演説)が生まれ、テロとの戦いはさらに戦争の性格を帯びることになるでしょう。ただ、軍事突出の対テロ全面戦争では、テロリズムの挑戦に対応するのは難しいと思います。治安、インテリジェンス、経済開発、教育などを含む多面的な取り組みが必要です。
 
 サダム・フセインを「抑止できない敵」と見なして先制攻撃の標的にするのはもっと解せません。彼は湾岸戦争の際、生物化学兵器を多国籍軍に対して使わなかったという意味で「抑止された敵」でした。狂信的なテロリストたちとは異なる「抑止されうる脅威」ととらえるべきではないでしょうか。
 彼が話の分かる男であることを言おうとしているのではありません。湾岸危機・戦争の際、他国を侵略し、多数の市民を殺しただけでなく300人以上の日本人を人質にとったことも私たちは忘れていません。
 しかし、われわれはいま湾岸戦争の延長戦を戦っているのではないのです。まずは9・11対テロ戦争に勝利し、アフガニスタンの国づくりを軌道に乗せることが先決です。それが終わらないうちに新たな戦争を行うのは得策ではありません。
 戦争の怖さは目的が正義のためであったとしても恐怖と復讐を招きやすいということです。米国が軍事的過剰反応をすると戦争が戦争を呼び込む恐れもあります。イスラエル、パキスタン、イラン・・・米国は長期的な国益に即してイラク戦争の得失をよく考えてほしいのです。
 いまの米国では「恐怖心に訴える政治」がすべてに優先している、イラク戦争反対論を正面から議論しにくい「物言えば唇寒し」の状態だ、と貴兄が嘆いていたことが気になります。
憂慮する友人 y
(本社コラムニスト yfunabashi@clubAA.com)
 
 
 
 
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