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第3章 まとめ及び今後の課題
3.1 まとめ
(1)最低水面高低モデルの検証・評価
 潮高補正に必要な基本水準標及び関連する既存データの収集・解析を行い、世界測地系に準拠した楕円体上の高さを正確に表す最低水面高低モデルを開発し、高低マップの作成を行った。
 最低水面高低モデルを作成するためには平均水面モデル及びZ0モデルを作成しなければならない。平均水面モデルは、基本水準標地点の平均水面楕円体高を用いるとともに、Geoid2000の情報を加えて作成した。一方、Z0モデルは、瀬戸内海123点のZ0データを用いるとともに瀬戸内海潮汐調和定数シミュレーション結果を加えて作成した。これらを合わせて作成した最低水面高低モデルは、灘中央部の島嶼が存在しない場所においてにおいて比較対照とする情報がないく、その精度の実態は完全には明らかになっていないものの、沿岸の基本水準標地点において、計測データと整合性がとれている。
 
(2)最低水面高低モデルによる潮高改正の可能性の評価
 燧灘実験結果では、今治の近くの海域においては、潮高改正量は、K−GPS測位と最低水面モデルを用いた結果と潮汐観測結果にずれが認められるが、魚島側の海域で明らかにK−GPS測位に大きな誤差が認められないところでは、両者は一致している。
 燧灘実験および今治港から宇品港までの海域実験は、広範囲の海域にわたるものである。従来の潮高改正では、このような実験を行うにあたり、2ヶ所以上の験潮所データを使用しなければならない。このような実験海域では験潮所の距離が離れていることから、正確な潮高値を得ることが困難である。本研究の最低水面モデルを用いた潮高改正は、これらの問題点を解決し、広範囲にわたる海域の潮高改正を有効で効率的に行うことができることが示された。播磨灘等で一部、多少の差が認められる場合もあるが、周防灘、広島湾等においても従来の潮高改正と一致する潮高改正量が得られていることから、この手法が今後、広い範囲で利用が可能となる可能性が十分ある。
 
(3)マルチビームデジタル音響測深機データの編集、処理技術の開発研究
 デジタル音響測深機データの処理プログラムおよび誤差判別及びデータ編集プログラムを開発した。
 デジタル音響測深機データの処理プログラムでは、一般に使用されている浅海用処理ソフトウェアで作成した水深の段彩図に各種処理を施したのちになおも残る水深値の境界に表われる櫛の歯状パターンまたは蛇行パターンに対して、適切な処理を行う方法を検討し、処理プログラムを作成した。検討したものは動揺データおよびK−GPS測位による測量船の楕円体高データを使用した処理の機能を持つプログラムの開発である。特にK−GPS測位による楕円体高データを使用した処理では、蛇行パターンの長周期の振動に対して有効な処理結果を得ることができた。
 誤差判別及びデータ編集プログラムでは、マルチビームデジタルデータに含まれるスパイク状ノイズの除去方法について検討し、処理プログラムを作成した。本年度は、2次曲面方程式で表現することのできない人工物や浚渫などによる段差がある場所で水深データの誤差判別を実施するために、位置が重なり合う2測線を使用して処理を実施した。結果、水深10m以浅においてノイズであるか否かを判定する機能の向上を測ることができ、約1.8×1.8×1.1mの人工物の識別を行うことができた。
 
3.2 今後の課題
(1)最低水面高低モデルの検証・評価
 本年度までに収集した基本水準標のGPS測量による楕円体高データのうち、約5%のデータがモデル計算を実施する際に使用できなかった。この原因としては、平均水面決定後の経年変化があげられる。使用した基本水準標地点において平均水面値の決定に年代の開きがある。このため、験潮観測後の経年変化を各種データから算出し、補正を実施した。今後各地のモデルを作成するためには、基本水準標に関するデータ取得及び観測をさらに密に行う必要がある。
 作成したモデルは、基本水準標の測量結果にジオイドモデルを加味している。特に、灘のような広い海域の中央部における評価の方法を確立するにはさらなる研究を必要とする。このためには、調査船等による注意深いK−GPS測位などをもとにした実測評価を実施する必要があると考えられる。
 
(2)最低水面高低モデルによる潮高改正の可能性の評価
 GPSデータに船体の動揺を加味した海面の楕円体高についてはキネマティック方式の処理であっても高さ方向に10cm程度の振幅がある結果となっている。ただし、動揺データについては、調査船の重心等に概算値を用いているなどの問題点があり、改良の余地がある。
 従来の潮高改正を、K−GPS測位結果からを最低水面モデルを引く潮高改正と比較した結果、概ね一致するが、播磨灘においては、K−GPS測位の結果と潮汐観測結果に約15cmの較差が認められ、モデルがまだ完全では可能性があると考えられる。その他では、K−GPS測位結果と潮汐観測結果は一致しており、K−GPS測位を正確に行うことにより、最低水面モデルを用いた潮高改正の有効性を示している。今後この処理についてさらにモデル及び測位の精度と安定性を向上させることにより、最低水面高低モデルを用いた効率的な潮高改正の実用化が可能である。特に、K−GPS測位は、現行のシステムに加え、EUによるガリレオ衛星や日本による準天頂衛星の整備など、今後の発展が見込まれている。
 
(3)マルチビームデジタル音響測深機データの編集、処理技術の開発研究
 デジタル音響測深機データの処理プログラムでは、K−GPS測位による楕円体高データを使用することにより低周波の上下振動パターンを処理することができた。しかし、高周波部分が処理できていないという課題点もあきらかになった。本文に示したようにK−GPS測位は、5Hz〜20Hzで収録することが可能であるため、高周波成分を収録することができる。しかし、例えばPOS/MV動揺センサーでは、最大100Hzでデータを収録することが可能である。より高精度で処理を実施するためには、高周波で収録したデータを使用する必要がある。従って、お互いの有効な周波数成分をと取り出し、すなわち高周波成分は動揺データを、低周波成分はK−GPS測位の楕円体高データを使用して処理するプログラムを検討する必要がある。
 誤差判別及びデータ編集プログラムは、処理可能なデータについて、2測線に共通に存在する人工物の重複の程度とその位置精度に依存する。今回水深10m以浅においては、重複の程度が大きかったため、有効な処理を行うことができたが、水深が深くなった場合、2測線に含まれる人工物の位置精度が悪くなり、お互いの人工物が重複しなくなる可能性がある。この場合、重複条件のパラメータを大きくとれば処理可能となるが、それに比例してノイズも有効データと判断してしまう可能性が高くなる。従って、正常に処理を実施するためには、GPS測位結果とマルチビームデジタルデータの精度を考慮しつつ有効水深値を検討し、水深に対する重複条件のパラメータの設定値を求める必要がある。
 
参考文献
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