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2.3.2 誤差判別及びデータ編集プログラムの開発・作成
 マルチビーム測深データの誤差にはデータ取得時の不良データ判別における誤処理の問題があり、その中で、スパイク状ノイズの除去方法については、近年各種の手法が提案されているが、どれも長所短所があり、確実に処理できるものはない。そこで、誤差判別及びデータ編集プログラムとして確実に処理可能なものを目指し、人工物や浚渫などによる段差がある場所での水深データの誤差判別方法を検討した。
 昨年までに作成した誤差判別用データ編集プログラムであるロバスト推定手法は、取得データに対し1測線ごとに測線内の水深データから、海底面を3次元空間における2次曲面方程式にモデル化し、推定したモデルからはずれた水深データを定量的に分別して、これを不良データとして除去を実施している。この方法では、人工物や浚渫などによる高低差の著しい場所では、海底面モデル内に高低差の著しい所を表現できず、段差部分を不良データと判別し除去してしまうことがある。この現象を解消し、海底地形本来のデータとするために前年度までに作成したロバスト推定手法を拡張し、隣り合った2測線から重なり合う部分を抽出し、各々の測線から海底面モデルを作成し、片側測線だけでは不良データと判別していた高低差の著しい段差のある部分の水深データを、求めるべき水深データとして、良好データと判別する方法について開発した。
 
(1)プログラムの開発手順
 本年度は、昨年度作成したロバスト推定手法をもとに、隣り合った2測線から重なり合う部分を判別する手法について検討し、プログラムの開発を実施した。
 2測線を使用した不良データ判別処理の流れを下図に示す。
 
図109 不良データ判別処理の流れ
 
a)海底面のモデル化と1次不良データ判別
 使用するマルチビームデータの種類及び対象とする海域の水深値をもとに海底面のセルサイズを決定し、調査測線ごとにロバスト推定手法を用いて海底面をモデル化する。このとき、セルサイズは、ユーザーが設定する。
 測線ごとに、モデルによる水深値と測量した水深値から残差を求め、残差が大きいデータを不良データとして判別する。良好データと不良データを区別する残差の値は、ユーザーが設定する。
b)水深データ重複部分の抽出と2次不良データ判別
 隣り合う2測線の水深データから、位置が重複する部分を抽出する。
 測線ごとに実施した1次不良データ判別により不良データと判別されたデータ部分について、それぞれの重複部分の位置と水深値を比較する。この際位置及び水深値に対し同一地点であるという判別を行うための許容範囲を設定する。各測線内で不良データと判断されたデータが、ここで設定した許容範囲内である時には良好データと判別する。位置と水深値の許容範囲は、ユーザーが設定する。
c)不良データ除去
 測線ごとの1次不良データ判別によって不良データであると判別された水深データのうち2次不良データ判別によって良好データであると判別された水深データを除いたものを不良データとして除去する。
 
(2)プログラムの試行結果
 上記で作成した2測線を使用した不良データ判別プログラムの試行結果を示す。
 使用したマルチビーム測深データは平成14年11月15日に実施した名古屋港測量実験で取得したものである。測深機はSeabat8101を用い、3個の人工構造物を海底に沈めて測量を実施した。使用したターゲットの例を図110に示す。
 
(1.8×1.8×0.6mのフレーム製台の上にベニア板を敷き、高さ50cm及び30cmの箱を設置した。)
図110 ターゲットの例
 
a)海底面のモデル化と1次不良データ判別
 使用データは、ターゲット付近において重なり合う測線を有する「測線1」と「測線2」である。不良データを除去する前の水深データから作成した水深図を図111に示す。図中に示した3ヶ所の赤丸の部分がターゲットである。
 
(拡大画面:74KB)
 
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図111. 不良データ除去前の水深図(上:測線1、下:測線2)
 
 これらのデータに対して、1次不良データ判別として、ロバスト推定処理を行う。ロバスト推定手法で用いる海底面をモデル化するセルサイズはユーザーが任意に設定することができるが、ここで用いたデータに対しては、浅海用マルチビーム測深データにおいて一般的に効率良く不良データ除去の処理を行うことができる0.3秒とした。一方、海底に設置したターゲットのサイズは、1.8×1.8mである。この設定値はターゲットのサイズにくらべてモデル化する海底面のセルサイズが大きい。このため、ターゲット及びその周辺の海底を2次曲面方程式で表現することができず、不良データとして除去してしまう可能性がある。
 
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不良データ除去前
 
(拡大画面:41KB)
ロバスト推定処理後
図112. ピングデータ表示。
 
 この設定値をもとに、ロバスト推定処理前と処理後のピングデータを図112に示す。不良データ除去前に見えていたターゲットと思われる突起物が、処理後の表示では除去されている。また、ロバスト推定処理後の水深図を図113に示す。これらの図から、不良データ除去前で見えていたターゲットが不良データとして除去されているのがわかる。
 
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図113 ロバスト推定処理後の水深図。(上:測線1、下:測線2)
 
b)水深データ重複部分の抽出と2次不良データ判別
 上記で処理した1次不良データ判別データをもとに、2次不良データ判別として、2測線を使用した不良データの判別処理を行なった。ここでは、1次不良データ判別で、不良データと判定されたターゲットが、良好データとして復元するかどうかを試みた。
 測線1と測線2の水深データ重複部分の比較を行う条件は、ターゲットのサイズと高さを考慮し、位置の差を0.5m以内、水深値の差を0.1m以内と設定した。
 2測線を使用した不良データ判別処理後の水深図を図101に示す。この図から、1次不良データ判別によって、不良データと判定されていたターゲットが、この処理を実施することにより良好データと判断され水深値を表示している。
 
(拡大画面:70KB)
図114 2測線を使用した不良データ判別処理後の水深図。
 
 また、これから、ターゲットの形状と、ターゲット上に設置した箱を正確に識別することができている。
 これらから、本処理手法は、Seabat8101データに対して、水深10m以浅において、位置約30cm、高さ約20cmの精度で、人工物を識別することができるといえる。







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