2.2.2 K−GPSデータと潮汐データの比較
最低水面モデルを使用したK−GPS測位による潮高と潮位観測結果の比較を、燧灘実験及び今治港〜宇品港において実施した。また、初年度に実施した播磨灘、安芸灘、周防灘実験と、昨年度に実施した柱島南方実験の結果についても同様に比較を行った。
(1)燧灘実験での潮位観測
データ収録に合わせて、今治と魚島の2ケ所で潮高データを取得した。潮高を図62、潮高差を図63に示す。
図62:今治と魚島の潮高(潮位観測結果)
図63:今治と魚島の潮高差。
今治、魚島間は約30kmあり潮時差及び潮高差が存在する。潮高差は、−15cmから45cmまで変化している。このため、潮高改正を行う場合に、今治と魚島のどちらか一方の潮高データを使用することはできない。また、調査海域を2分割し、潮高改正を行うと、境界において潮高改正後の水深値が不連続になってしまう。そこで、水深値ができるだけ不連続にならないように、下図に示すように、調査海域を6海域に分割して、今治と魚島の実測潮高データから、各海域の潮高値を計算から求め、その潮高値を用いて潮高改正を行うこととした。
図64. 分割した海域。
1)潮時差と潮高比の計算
今治と魚島の潮高は、潮高が極大になる時刻が異なり、また、振幅も異なっている。そこで、魚島に対する今治の潮時差と潮高比を求めた。
魚島の潮高を基準とし、今治と魚島における潮高の極大値の時刻差を求め、魚島に対する今治の潮時差を求めた。その結果、魚島に対する今治の潮時差は−10分であった。潮高の極大時刻を合わせた今治と魚島の潮高を図65に示す。図66は今治と魚島の実測潮高から、調査海域のZ0である200cmを減算したものである。これにより、縦軸のゼロが振幅の中心、すなわち平均水面となるためこれらの潮高の相関を取ることによって、振幅の縮尺比である魚島に対する今治の潮高比を求めることができる。
図65. 潮高の極大時刻を合わせた今治と魚島の潮高
図66. 島と今治の潮高の相関
次に、魚島と今治の潮高の相関から、魚島に対する今治の潮高比を求める。図57に、魚島と今治の潮高の相関図を示す。図中の直線は、最小二乗法により決定したものであり、
Ti(t−10分)−200=0−90x(Tu (t)−200)+10.20(単位:cm) (1)
で与えられる。ここで、Ti(t)は時刻tにおける今治の潮高、Tu(t)は時刻tにおける魚島の潮高である。
これらから、魚島に対する今治の潮時差は−10分、潮高比は0.90とした。
2)潮高計算式の算出
(1)式は、Tu (t)を変数とした場合、魚島の潮高から今治の潮高を求める計算式を表している。今治の実測潮高と、魚島の潮高から(1)式を用いて計算した今治の潮高を図67に示す。実線は今治の実測潮高データ、点線は魚島の実測潮高データから今治の潮高を計算したものである。また、今治の実測潮高データと、魚島の実測潮高データから計算した今治の潮高差を図51に示す。これから、実測値と計算値の潮高の差は±7cmの範囲である。
各海域における潮高の計算式を、魚島もしくは今治の実測潮高から各海域の潮高T(t)を求める計算式として、(1)式をもとにして以下のように定めた。
図67 今治の潮高
図68. 実測潮高と計算した潮高の差
・各海域帯の時刻tにおける潮高T(t)を、魚島の実測潮高データTu (t)から計算する式
T(t−t1 )=a1×(Tu (t)−200)+b1 +200(単位:cm)(2)
・各海域帯の時刻tにおける潮高T(t)を、今治の実測潮高データTi (t)から計算する式
T(t+t2 )={(Ti (t)−200)−b1 }/a2+200(単位:cm)(3)
ここでt1 、a1、b1 、t2 、a2 、b2 は係数であり、海域ごとの値を表25に示す。これらの値は、魚島もしくは今治から各海域帯までの経度方向の距離に比例させ、決定したものである。
表25. 海域帯ごとの潮高を計算する各係数。
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魚島の実測潮高データからの海域帯ごとの潮高を計算する係数 |
今治の実測潮高データから海域帯ごとの潮高を計算する係数 |
海域 |
|
a1 |
b1 |
t2 |
a2 |
b2 |
I |
10分 |
0.9 |
10.2 |
0分 |
1 |
0 |
II |
8 |
0.92 |
8.2 |
2 |
0.98 |
2 |
III |
6 |
0.94 |
6.1 |
4 |
0.96 |
4.1 |
IV |
4 |
0.96 |
4.1 |
6 |
0.94 |
6.1 |
V |
2 |
0.98 |
2 |
8 |
0.92 |
8.2 |
VI |
0 |
1 |
0 |
10 |
0.9 |
10.2 |
|
(2)式と(3)式による計算結果の例として、海域帯VIの潮高を図69に示す。実線は今治を基準としたもの、点線は魚島を基準としたものである。各潮高の差は、±7cmである。
図69. 海域帯IVの潮高。
表27に示した潮高を計算するための係数について、新居浜と今治の潮汐調和分解成果から検証する。新居浜と今治の潮汐調和分解成果を表26に示す。
表26. 新居浜と今治の潮汐調和分解成果。
験潮所 |
新居浜 |
今治 |
位置 |
33-58N, 199-16E |
34-04N, 133-00E |
分潮 |
振幅(cm) |
遅角(°) |
振幅(cm) |
遅角(°) |
M2 |
110.72 |
319.46 |
101.5 |
314.95 |
S2 |
41.3 |
354 |
36.8 |
346.86 |
|
新居浜を基準港とした場合の、今治との潮時差と潮高比は、
ここで、0を付けたものは標準港に関するもの、Lは東経を時、sは標準時を表す。また、HmとHsはM2とS2分潮の振幅、KmはM2分潮の遅角である。
海域帯VからVIにかけての今治との潮時差と潮高比は、それぞれ8分から10分、0.90から0.92であることから、新居浜を求めた係数はほぼ等しい。
(2)K−GPSデータと潮位の比較
ここでは、最低水面モデルに頼らず、GPS測位・測量と潮汐観測から潮高改正を実施する方策を検討する。本研究では最低水面モデルを用いた潮高改正の方法を検討しているが、現状では信頼できる最低水面モデルが存在しない海域があることから、ここで述べる方法の可能性を検討する。
K−GPS測位で得られた海面の楕円体高から、最低水面の楕円体高を引くと、最低水面上の海面の高さ(潮高)となり、その時刻における潮汐の値と一致するはずである。そこで、調査地点の両端における最低水面楕円体高を求めるとともにその間は内挿で推定し、KGPS測位と合わせて潮高を計算し、前項における潮位観測結果及び計算結果と比較した。
まず、今治と魚島について最低水面楕円体高をGPS測量の結果から、今治:32.59m魚島:33.40mとした。これを、上記で決定した海域帯IとVIの最低水面の楕円体高とする。海域帯IIからVIまでの最低水面の楕円体高は、魚島もしくは今治から各海域帯までの経度方向の距離に比例させて決定した。各海域帯の最低水面の楕円体高を以下に示す。
表27 海域帯ごとの最低水面の楕円体高(単位:m)
海域 |
I |
II |
III |
IV |
V |
VI |
楕円体高 |
32.56 |
32.76 |
32.91 |
33.08 |
33.24 |
33.40 |
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今治及び魚島基準点で求めたK−GPS測位による潮高と、潮汐観測結果による潮高の比較を図69に示す。K−GPS測位結果は海面の楕円体高から内挿で決めた最低水面の楕円体高を引いたものである。曲線は、潮汐観測結果である。これらから、K−GPS測位による結果は潮汐観測結果に比べて、全体的に高い傾向値を示す。
今治基準
魚島基準
図70 |
今治基準点を用いたK−GPS測位と内挿最低水面による潮高と潮汐観測結果による潮高の比較。 |
(3)最低水面モデルによる潮高改正の可能性評価
参考のため、まずにK−GPSデータから潮高値を引いて最低水面を推定し、それとモデルとの比較を行った。基準点データから求めたK−GPS測位結果と最低水面モデルによる最低水面高の比較図を図71に示す。これらから、収録の開始時と終了時には、K−GPS測位結果とモデルにずれが認められるが、全体的には一致している。
続いて、K−GPS測位による測量船の高さから、最低水面モデルによる潮高改正の可能性を評価した。K−GPS測位から得られた海面高から最低水面モデルによる最低水面高を引いた値は、潮汐観測から得られた潮高と等しくなると期待され、水深測量の際の潮高改正量になる。
本年度作成した最低水面モデルを使用し、K−GPS測位結果と潮汐観測結果それぞれから求めた潮高の比較を図72に示す。
図71 |
K−GPS測位を潮汐観測を結合した最低水面の楕円体高推定結果とモデル比較 |
図72 |
K−GPS測位で求めた潮高と潮汐観測結果による潮高の比較。(右:今治基準、左:魚島基準) |
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