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第12章
教材を使おう
SSTで使う教材
 この章には28種類の教材が紹介してあります。それぞれの現場で教材をお作りになる時の参考になればと思い、寮生にとって役に立ちそうなテーマを選んでみました。そのまま使っていただく場合にはコピーしやすいように、大体が1頁毎になっています。
 教材のなかには、一目瞭然、ねらいがはっきりしているものもありますが、それぞれの教材について少し解説をつけました。
 
 最近の若い人は「すみません」という時でも頭がほとんど、下がっていないことが少なくありません。すまない気持ちがないわけではないので、年輩の人や頭をさげる状況によっては、本人の気持ちが伝わるようにしっかりと教えてあげるといいでしょう。
 考えるポイントは認知の領域です。その考えがしっかりしていると行動が伴います。少し、自分たちで「おじぎ」の意味について話し合ってから練習しましょう。いろいろな年代の方達が一緒に暮らしている寮生活のなかこそ、社会に出る前のいい練習の場であることを伝えましょう。
 
 これは人気の高い練習課題であり、楽しみながら自信をつけてあげることができます。どのポイントに注意して話すか、それを確認して、意識的に話しをしてもらいましょう。
 1分とか3分の砂時計を用いて、時間の長さを意識してもらい、テーマをきめてスピーチをしてもらうこともできます。
 
 これが苦手の寮生は少なくないですね。世の中は助け合いで成り立っているのだ、お互い様なのだから、このスキルを身につけよう、と励ましてください。とくに職員を相手にこの練習をしてもいいよ、と練習相手になってあげるといいでしょう。相手が聞く気になっているコミュニケーションのサインをゴーサインといいます。聞く気がないサインをノーゴーサインといいます。
 頼み事をしていて、相手が聞く気がないというサインをだしていたら、さっと切り上げるやり方が大切です。
 
 寮の中でも意識して、これを実践し、互いに協力出来る関係ができるといいですね。社会のなかでも実行する機会が待ち受けているので、寮にいる間から、練習できるといいですね。
 
 大体の人は練習が必要ではありませんが、年輩者のなかには電話に馴染みのない環境で育った人も少なくないので、個別SSTのときに教えてあげると良いでしょう。また、チャレンジ課題で、外から寮の事務所にかける練習をすることもいいでしょう。テレフォンカードを更生保護婦人会の方々から寄付してもらうといいかも知れません。
 
 これは少年を対象に考えてみましたが、保護司さんだけでなく、保護観察官とのコミュニケーションにも応用できるでしょう。いろいろな言い方がある、と気づいてもらうのがねらいの一つです。
 
 これも少年を対象に考えました。多くの少年は席を譲ってもいいけれど、断られると恥をかくという考え(認知)をもっています。この認知を変えると気持ちよく席を譲り、たとえ断られても、さわやかな気持ちでいることができます。この資料は認知行動療法的な知識を持っていると使いやすいと思いますが、あまりむずかしくないので、少年と個別SSTやグループSSTで話し合い、行動練習を試みて下さい。
 
 このようなストレスの高い状況に対処するスキルを持っていると、生活がしやすくなります。自分にあった返事を、参加者の智恵ももらいながら、一緒に探すといいでしょう。
 
 SSTを子どもっぽい、と思っている人にいい練習課題です。世の中にはいろいろな考えの人がいます。自分の考えを伝えようとするとき、相手を尊重しながら、話し合っていかなければなりません。日常的なコミュニケーシヨンにも順序があるのだということを理解できるといいですね。
 
 この母と子の会話はある更生保護施設を利用した女性が、実際に行なった会話の一部を紹介しています。「愛ちゃん、ご飯、ちゃんと食べてる?」「うん」「まあ、そう!えらいねえ。お母さん、嬉しいなあ。愛ちゃん、どんどん大きくなってるもんね」などとお母さんの嬉しい気持ちを言葉にするといいでしょうね。自分の気持ちを伝えるよい練習になります。
 
 これは感情が高まってきてあぶないときの対処法です。自分の身体の変化に敏感になって、落ち着いて行動できるように、このタイムのとりかたを日頃から練習しておくといいでしょう。
 
 電話をかける時にはこの紙を参考にして、自分なりのメモを作り、それをそばにおいてかけると失敗がなくていいでしょう。
 
 職員も喜んで協力することを伝えましょう。
 
 就職先によって、何がきかれるか、つまり何を重視するかは、まったく異なります。自分の就職先について予想される質問に備えておきましょう。
 
 雇用先によっては、自分の事業所の都合の悪いことはなるべく伏せておく、というところもあります。しかし、聞かれると虚偽の説明はできませんので、返事をしてくれます。その返事によってはこちらも果たして、就職すべきものか、考え直さなくてはならないということもあるわけです。失礼のないように、聞きただすべき事は聞いいていいのですから、いい聞き方を練習しましょう。
 
 よくいわれているオアシスを改めて考えてみました。
 
 いろいろな状況に応じていろいろなあいさつがあること、状況の認知と適切な行動、これこそ、認知行動的トレーニングのよい練習課題です。指導に当たっては、職員がいいあいさつをあらかじめ考えておくことが大切です。SSTには指導者自身のソーシャルスキルが問われるゆえんです。
 
 遅刻の電話をすると怒鳴られるのがイヤで仕事をやめてしまったという少年がいました。日頃の信頼関係が大切なのですが、どんな理由にせよ、遅刻の連絡はストレスがかかるもの。練習のし甲斐がある課題です。
 
 成人施設の寮生の多くは電話を受けるような職場にはいかないかも知れませんが、女子少年には必要な課題かも知れませんので、入れておきました。
 
 このような順序で円滑にやりたいものですね。いろいろな職場での指示の出し方、受け方を実際にグループのなかでやってみると、世の中が広く見られて興味が深まります。
 
 職員から見て、気配りがもっと欲しい寮生もいるでしょう。改めて自分の職場での協力が必要な状況を考えることによって、初めて、いまの寮の生活にも思いがいたることもあるでしょう。一緒に話し合えば、いろいろな職場の現状がわかって、自分が自立していく社会に対する理解が深まるでしょう。
 
 これは人気の高い課題の一つです。お酒への誘いは典型的ですが、住まいの前まで車で送ってあげる、といわれて冷や汗がでた寮生もいます。断るという対人行動は非常に一般的でストレスがかかる場合が多いので、練習効果があがります。
 
 本人は理由として「腎臓を悪くした」を選びました。嘘を教えて良いのですか、という質問に私はこう答えます。「これは本人が選んだ<対処技能>で、こちらから押しつけたものではありません。嘘か本当か、という二分法でなく、世の中には一つの問いに対していろいろな返事の仕方がある。私たちは状況、状況に応じて、答えを選んで返事をしている。もし、前歴を明かして、偏見もなく、すぐ、採用してくれるような社会ならば、対処方法を考えなくてもいいかも知れないが、厳しい社会に生きて行くにはいろいろな対処レパートリーがなくては生活していけない。問題解決法的に考えを進めて、相手の権利を侵害するような行動でないかぎり、本人がこの答えを選んだのだから、ちっともかまわないと思います。」
 
 これは少年を意識して用意した教材です。長岡市にある新潟少年学園で、似た課題を熱心に練習していたのを見学したことがあります。その経験をもとに書き直してありますが、現実の生活の中で、このようなスキルを必要と感じている少年もいるかもしれません。
 
 カッとなりやすい自分、すぐ切れてしまう自分を直したい少年や成人は少なくないでしょう。むずかしい課題ですが、これも認知と行動のスキルを増すことによって、いまよりは対処しやすくなる練習課題です。1回ばかりでなく、何度も状況を変えて練習するといいでしょうね。矯正教育と保護の連携が必要です。
 
 この多様なあやまる状況は筆者の勤務する大学の学生達からの情報に基づいています。若者がアルバイト先で経験した「あやまる状況」を参考にしてください。なかなか、みんな苦労しているなあ、ということがよく分かります。グループで話し合いをし、状況を選んで練習するときは、27を参考にして下さい。
 
 素直にあやまれる自分になりたい、でもあやまれないという人のほうが、あやまることのできる人より多いのでは?これもいい練習です。SSTは教習所のようなところ。安心して、いろいろ試してみよう、と励まして下さい。
 
 少しでもお金を貯め、経済的に余裕をつくるには工夫が必要です。でも、リサイクルショップを知らない寮生がいます。職員が地域の情報に通じ、生活のノウハウをいろいろ教えてあげることができなくてなりませんね。
 
 最後に場面カードについて説明します。場面カードは、このような場面を寮生のために考えてカードにし、その場面を実際にやってもらい、よくできているところ、改善すべきところをフィードバックしてあげます。
 場面カードは時にはロールプレイテストといって、自分が実際にいま、必要としている課題でないとしても、日頃のスキルを試してみるという意味で、アセスメント(事前評価)にもなりますし、しばらく参加して何回かのちに同じ場面カードでやってみて、スキルが上がっているとすると練習の成果があったといえるので事後評価の目的にも使われることがあります。
 ただし、ここにあげた場面カードはそれほど、厳密に研究して作ったものではないので、練習課題がマンネリ化してきたとき、気分変化に使ってもらえばいいかなと思ってあげてあります。行動変化を厳密に研究するには、寮生のSSTの参加回数はあまりにも少ないので、難しいところです。ご自分の地域にふさわしい場面カードを工夫なさって下さい。







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