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第10章
SST参加への抵抗を減らすために
 SST参加に抵抗をする寮生はいます。寮生は規則として全員が参加するのか、それとも任意なのか、特定の課題を持っている人たちが選ばれて参加するのか、寮内で慎重に方針を検討して、明確なルールを決めましょう。
 参加への抵抗を減らす工夫を考えてみました。
 
 抵抗は「普通のこと」「当然のこと」と考えましょう。たとえば、足を怪我してリハビリテーションのために歩行訓練が必要だとわかっている場合でも、痛い、めんどうだ、時間がない、疲れる、理学療法士さんと気が合わない、など、いろいろな理由から抵抗感が生まれます。合理的な理由もあれば、不合理な理由もありますが、自分のためになることがわかっていても、抵抗は生じるものです。
 「人の助けが必要だからここで生活しているのだ」「SSTが役に立つのに抵抗するのはよくあることだ」と受けとめましょう。
 
 あらゆる行動は目的をもっています。抵抗にも合理的な理由があり、こちらの努力で抵抗を減らすことができるかも知れませんから、できるだけ、なぜ、抵抗が生じているかについて理解してみましょう。
 グループSSTを行なうときの抵抗に焦点をあてますと、以下のような原因が考えられるかもしれません。
 
1)職員に抵抗している
 
例:「職員にアレコレ言われるのがいやだ」
「○〇職員がやるのなら行かない」
 
2)一緒にいるグループメンバーに抵抗をしている
 
例:「人付き合いは面倒だ」
「グループにでると緊張するのでいやだ」
「○○さん(特定の気に入らない寮生)がいるので、同じ席にはいたくない」
 
3)SSTの学習内容ややり方に抵抗している
 
例:「自分は何でも出来るのに、こんな幼稚園のような練習は全く必要がない」
「人の前で何かをやるのはイヤだ」
「誰にも知られたくないのに、自分のことをしゃべらせられるのはイヤだ」
「勉強は昔から嫌いだ。むずかしいことはごめんだよ」
「恥はかきたくない」
「職員やほかの寮生に馬鹿にされるかもしれないのでイヤだ」
「あんなことをやったって、役に立たない」
「何のために集められるのか、よくわからない」
 
4)時間の使い方、場所に関する抵抗
 
「外出して、いろいろ見たいものがあるのに、時間をとられるのは心外だ」
「仕事で疲れているので、寝ていたい。寝るのは勝手だろう」
「好きなラジオ番組が聞けなくなるのでイヤだ」
「あんなせまい部屋に詰め込まれているのはイヤだ」
「椅子を片付けさせられたりするのがイヤだ」
 
 このように原因がわかると次に打つ手がわかってくるでしょう。
 
 職員は寮生がSSTに抵抗をみせるとき、自分自身がどのような言葉を心のなかで言っているのか、チェックしてみることが大事です。瞬間的に心で言っている言葉なので、認知療法では「自己会話」といっています。SSTを日本に紹介したリバーマンという精神科医は抵抗する参加者に立ち向かっていくのは「深くて湿った砂地を走るようなもの」といっています。どこの国の人でも同じ苦労をしているのですね。
 職員が「自分は本当はSSTをやりたくないのに」とか「自分が寮生だったら、来ないだろう」とか「抵抗する寮生には勝てない」などという自己会話を心のなかでしていれば、ほかの言葉に置き換える必要があります。
 寮生の抵抗は攻撃的、批判的、嘲笑的発言や課題から逸脱した発言などに現れます。また、不参加、無視、無反応、非協力的態度、遠い席に座るなどの非言語的なコミュニケーションにも現れます。SSTの会合に臨む前に、そのような場面を想像して見て、自分自身の反応をチェックし、望ましい言葉を心のなかで言ってみる、自分の指導で寮生が楽しく参加しているなどのイメージを心に思い浮べてみます。これはご存じのようにスポーツの試合にのぞむ運動選手に対して行なわれるイメージトレーニングによる認知的・行動的改善法を応用したものです。寮生にも役に立ちますが、まず、職員が自分自身で体験してみましょう。
 
1)参加者の一人ひとりに、その人にあった声かけをします
 
2)活発で熱意が伝わる行動をとります
 
例:(1)はっきりとした大きな声を出す
(2)一本調子でなく、声の調子に変化を持たせる
(3)椅子に座ったままでなく体を動かし、利用者の傍に行ったり離れたりする
(4)手を使って話す など
 
3)抵抗を予告しておきます
 
例:「はじめてのことだし、知らない人が多いから、緊張するかも知れませんね」
「なんだか、幼稚園みたいなことをやっているなあ、と思うかもしれないが、これが案外役に立つので、初めのうちはどんなものか、見てて下さい」
 
4)抵抗を受け入れます
 
 笑顔で相手の言葉を聞き、寮生の考えや感情を受容していることが伝わるようにします。
 
例:「知らない人ばかりのなかに入っていくのは緊張するよね。職員の○○さんが隣に座りますから、大丈夫ですよ」
「そうだよね。寝てたいよね。今日の練習は就職面接なので、君の役に立つと思って部屋まで迎えにきたんだよ」
 
 受容とは相手に賛成することではありませんが、相手がそう考えていることを受け入れることです。寮生の行動に関わらず、あくまでも寮生に善意を持ち続ける態度が受容です。
 
5)「円内見学」という役割をつくります
 
例:「今日はみんなの輪の中にいても何もいわないで、ただ座っているだけの円内見学というのにしますか?」
 
6)一番、動機づけのある人から練習を始めます
 
例:誰が一番動機づけがあるかを知るために、筆者はときどき「尺度法」という技法を使います。たとえば、自分のコミュニケーション能力を0から10までにわけて考えると自分は何点だと思うか、点数の順番に一列の線の上に並んでもらいます。次にその点数を何点にあげたいか、あげたい点数のところに動いてもらいます。その移動した点数の一差の番大きい人が、一番動機が高いということになります。若い人は先輩に遠慮していて発言を控えているときがありますが、尺度法を応用すると、若い人が選ばれても他の寮生の抵抗は少ないといえます。
 黙って座っているよりもグループが活性化します。
 
 ある時、グループから離れ、椅子の背もたれに首をのせて全身を長く伸ばしたままの姿勢をとっている中年の寮生がいました。自分のコミュニケーションを自分で評価する「点数化」の技法を使い、右端は100点、左端は0点にして、それぞれの寮生に自分のコミュニケーション能力を評価してもらいました。その抵抗を見せていた寮生は、点数ゼロのところに立ちました。
 自分のコミュニケーション能力は50点、しかし、それを練習して100点にあげたいという若い人が一番動機が高いことがわかりましたので、彼から練習することになりました。「職場で指示を受ける」という課題の練習相手に、その抵抗していた人が上司役に選ばれました。彼は「室内装飾の仕事ならわかるよ」と言って、指示を出す上司の役割を上手にとれました。
 練習した若者と職員に感謝されて、その人には笑顔が浮かび、席にもどった時には、キチンと椅子に腰掛けて、グループに参加する態度になっていました。
 
7)ロールプレイへの羞恥心は当然と伝えます
 
例:「寸劇みたいなことはちょっと照れますよね。これがイヤだいう人はけっこういます。無理にしなくてもパスでいいですよ」
 
8)本人の練習の代役をたてます
 
 ロールプレイに抵抗する寮生には他の人が本人の練習の「代役」をするのを観察してもらってもいいでしょう。代役は職員がしてもいいし、他の寮生に協力してもらってもいいでしょう。
 
9)相手役をするとことからロールプレイに慣れてもらいます
 
 ロールプレイによる自分の練習は避けて、他の人の相手役をするところからロールプレイに馴染んでもらうこともできます。
 
10)サブ・グループに分けます
 
 グループ全体を二人組、三人組などの小さなサブ・グループに分けて、練習を同時平行的に行ない、一人だけが注目をあびなくてもいいように工夫します。これは参加度を高めるよい方法です。参加する度合いが高いと満足度も大きくなることはいろいろな研究から明白になっています。
 
11)寮生からフィードバックをもらう
 
 職員のSSTのウオーミングアップ、説明、練習の進め方、指導の仕方などについて、たびたび、参加者からのフィードバックをもらうようにしましょう。グループ外の時間に気楽に聞いてもいいでしょう。職員が自分の指導に対する評価を寮生から喜んで聞き、自分の仕事を改善したいという熱意を持つことはすばらしいことです。このような「開かれた態度」は寮生との信頼関係を強くします。
 
12)楽しくなるために工夫する
 
 楽しいと学習が進みます。SSTの展開がマンネリ化しないように、創造性と意外性がある楽しい時間になるように、職員は他の人たちの協力も求めながら工夫しましょう。
 
 ここでちょっと、告白です。筆者はSSTを初めて15年になりますが、はじめはなかなか、正のフィードバックが十分できませんでした。その人の出来ているところよりは、問題点ばかりに目がむいている自分に気が付きませんでした。
 いまでは、少しだけ、変わってきたと思います。SSTをやってきたおかげで、人間として少しは成長したかな、と思っています。人のいいところを見付けたとしても、それを態度や言葉で伝えることはやさしくはありません。男性職員は女性職員よりももっと、苦労なさることでしょう。しかし、カラオケで自分が歌える歌をたくさん持っていると、みんなで楽しめるように、人を誉める言葉のレパートリーをたくさん持っているとSSTも一層楽しくなります。この小冊子を読んで下さる皆様にここで「ほめ言葉の花束」を差し上げたいと思います。
 
 
容姿や服装など
☆かっこいい!
☆きれいな人だね
☆すごい美人だね
☆センスが抜群だね
☆きまってるね!
☆いかしてる!
☆すてきだね
☆スタイルがいいなあ
☆しぶいね
☆男前だね
☆立派!!どんな言葉も足りないけど
☆りりしいね
☆似合ってるね
☆一段ときれいですね
☆いい笑顔ですね!
☆笑顔が魅力的ですね
☆一度会ったら忘れられない人ですね
☆今日の洋服、とてもよく似合って、ステキね
 
健康
☆輝いてるね
☆健康、そのものですね
☆タフですね
☆丈夫だね
☆いつも、溌刺としているね
☆元気だね
☆いい顔色してるね
☆エネルギーのかたまりみたい!
☆張り切っているね
☆若々しいですね
☆達者ですね
☆イキイキしてますね
☆声がきれいですネ
☆いつも、元気もらっちゃうな
 
性格や態度や生き方
☆可愛いね
☆素直だね
☆明るい人だなあ
☆暖かい人だね
☆こまやかだね
☆優しいね
☆あいさつがさわやかだね
☆おおらかだね
☆この世にこんなすばらしい人がいるんですね
☆前向きですばらしい!
☆面倒みがいいね
☆我慢強い人だね
☆辛抱強い人だね
☆粘り強いですね
☆気長な人だね
☆面白い人!
☆ユーモアのセンスがすごい!
☆賢いなあ
☆頭がいいね
☆お利口さんだね
☆魅力的な人ですね
☆男らしくて渋い!
☆強い人だね
☆頼りがいがあるね
☆たのもしいね
☆たくましいなあ
☆思いやり、そのものだ
☆積極的だね
☆よくできた人だね
☆よく気がつくね
☆気配りが抜群だね
☆信念があって立派ですね
☆しっかりしていらっしゃる!
☆みんなに好かれてるもんね
☆一緒にいて安心するよ。
☆また、すぐ、会いたくなる人だなあ
 
持っている能力や取り組んだこと
☆さすが!
☆うまい!
☆すごいね
☆エライ!
☆たいしたもんだ!
☆いいね!
☆光ってるよ
☆みんなのお手本だね
☆お手柄だね
☆よっ!日本一!
☆勝ったね
☆上手だね
☆よくやったね!
☆頑張ったね
☆努力の結果だね
☆さすがだね
☆器用だね
☆力持ちだね
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☆きれい好きだね
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☆抜群ですね
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☆えらいな。誰もかなわないよ
☆一所懸命だね
☆仕事が早いね
☆てきぱきしてるね
☆初めてとは思えないね
☆あなたらしくていいね
☆君ならできると思ったよ
☆そんな人もいるんだ!
☆天才とはあなたのことですよね
☆将来がすごく楽しみ!
☆歴史を作ったね
☆感動そのものです
☆ワンダーフル!
☆話題がすごく豊富ですね
☆百科事典みたいな人ですね
☆一緒にご飯食べるとおいしくなるなあ
☆最後まで話を聞いてくれて。ありがとう
☆ご飯、おいしそうに食べてくれるね







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