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第7章
ウオーミングアップ活動の意義と目的
1. ウオーミングアップの意義
 ウオーミングアップとは本来の課題に導入するための準備です。そのための活動をウオーミングアップ活動といいます。ウオーミングアップで一番馴染みがあるのはスポーツの「準備運動」でしょう。
 利用者の多くはグループにも、SSTにも、リーダーにも慣れていないので、ゆっくり、丁寧に、楽しく、SSTへの準備を整えましょう。
 
 SSTグループのためのウオーミングアップの目的は以下の通りです。
 
1)グループをできるだけ、リラックスした雰囲気にする
2)メンバーの身体的な動きを活発にし、いきいきした感情を呼び起こす
3)メンバーの気持ちを一つのことに集中させ、グループとしてのまとまりを強くする
4)リーダーに親しみを持ってもらう
5)グループの活動に新鮮さをもたらす
6)SSTにむけて練習への動機づけを強める
7)SSTの結果を応用し、練習の結果を強化する機会にする
8)活動をしているメンバーの様子をよく観察して、メンバーの社会的行動能力を判断する
 
 メンバーがウオームアップするためには、まず、リーダー自身がSSTに対する準備をし、セッションに向けてウオーミングアップをすることが必要です。
 自分でも「さあ、楽しもう」とその活動に気持ちを集中させ、楽しい期待を持ちましょう。たとえスムーズにいかなくても、他の職員がカバーしてくれる、メンバーが助けてくれるSSTは役に立つと「この方法」を信頼しましょう。
 
 特別なウオーミングアップ活動をすることがいつも必要だとは限りません。
 みんなが席につくまで世間話をする、見学者や新人を職員がみんなに紹介する、それだけで、雰囲気がリラックスしたら、もう特別な活動はいらないかも知れません。わずか1時間の貴重な練習の時間をフルに活用するために、よい計画をたてましょう。
 
 ウオーミングアップ活動が必要でないのは、次のような場合です。
 
1)みんながSSTグループのメンバーに馴染みを持っている時
2)具体的な練習課題を持って集まっている人が2人以上いる時
3)特別に「真剣な」練習課題をする(被害者の関係者にあやまるなど)希望がでているときなど
4)共通の練習課題を展開するのに、いろいろやることがあり、時間がかかりそうな時
 
 多くの更生保護施設の寮生は大人なので、子供扱いは禁物です。心にゆとりがなければ、ゲームなどのウオーミングアップ活動を楽しむことはできません。たとえ、楽しそうな様子だと、職員が思っていても「馬鹿にされている」とか「あれが苦痛だった」という意見を陰できくことがないわけではありません。
 「体をほぐすためのちょっとした体操」とか、二人組になって、相手と「自分の好きな食物について」話すとか、季節の話題を取り上げて「春といえば、のあとに自分の考えや気持ちをちょっと話して下さい」などは好評だったウオーミングアップ活動です。
 「人の前で話す」ことが苦手な寮生が多いので、「インスタントスピーチ」というウオーミングアップ活動を一つ、具体的に紹介しておきます。
 人はみな違いますし、グループも毎回違うので、いつも同じウオーミングアップ活動が成功するとは限りません。参加者の意見やフィードバックをもらうことを心がけましょう。
 
 「SSTウオーミングアップ活動集」という本があります。これには60種類のウオーミングアップ活動が紹介されています。精神障害者のグループ活動のために書かれましたが、応用を考えると、更生保護施設でも活用できるものがいっぱいありますので、ぜひ、お手元に置かれることをおすすめします。巻末の参考図書一覧表をご覧ください。
 
ウオーミングアップ活動の例
 ほとんどの寮生は、人の前で話をすることが苦手です。楽しく、人の前で話をすることに慣れる目的で、次のようなウオーミングアップ活動はどうでしょうか?練習課題があまり出ていない時に、これをすると、これ自体がSSTの練習になります。職員にとっても寮生の経験、気持ち、考えなどがわかって有益です。職員はユーモア精神を発揮した、楽しいスピーチのモデリング(お手本)をするために、一番先に話します。
 
インスタントスピーチ
 
◇ねらい:
 メンバーが即興的なスピーチをすることによって、自発性や創造性をひきだすことができます。「利用者」という、固定した役割にとらわれず、参加者のいろいろな思いや経験を聞くことができ、相互理解が深まります。
 
◇用意:
 人数分の小さな紙とボールペンなど
 
◇やりかた:
 リーダー「今日はインスタント・スピーチというのをやってみましょうか。みなさんに一つの話のテーマ、題を紙に書いてもらいます。バラ、とか、ラーメンとか、猫とか、トラックとか、名詞ですね。何でもいいです。それをテーマにして、みんなの前で話をするという練習です。これは映画俳優だったチャーリー・チャップリンという人がいつも旅先で練習していた方法だそうです。人の前で、どんなテーマでも即興的にスピーチできるように、努力していたんですね。」
 
1. 「さあ、わたしたちも練習してみましょう。まず紙を1枚づつ、お配りします。その紙にスピーチの題になる言葉を一つ書いてください。例えば、リンゴ、ふるさと、祭り、何でもいいですよ」(リーダーとコリーダーはみんなに紙とボールペンを配ります。)
 
2. みんなが書き終えた頃をみはからって、紙を集めます。集めた紙をまぜて、誰が書いたものかが、わからないようにします。リーダーは紙を裏返しにして手に持ち、それぞれのメンバーに好きな紙をひいてもらいます。
 
3. 「ではみなさん、どんなテーマが手元にきましたか? そのテーマについて、ひとこと、インスタントでスピーチをお願いします。いい練習になりますね」
 
4. 「まず、私から話します。私のテーマはラーメンです。私はラーメンにバターを入れたものが大好きです。お店に行ったときには、50円払って、バターをトッピングしてもらいます。おいしいので、みなさんもやってみてください」(拍手)
 
5. 「次は誰のスピーチでしょうか?」(と続けていきます。)







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