日本財団 図書館


第3章
SSTを導入し、立ち上げるまでの準備
 SSTを施設で立ち上げるには、それなりの準備作業が必要です。その手順を以下にあげました。あてはまるところを参考にして下さい。
 
1. 準備の手順
1)文献によってSSTの理論を学ぶ
 巻末に少し文献をあげておきました。多くは精神科の患者さんを対象にしたものですが、理論を学ぶには参考になるでしょう。寮生にとって本当に役に立つという根拠を理論的に説明できるようになりましょう。
 
2)SSTの研修に参加する
 SSTの研修は保護局や保護観察所が行なうもののほかに民間の諸団体が行なっているものがあります。民間で行なうSST研修会は必ずしも、更生保護の領域ばかりではないかも知れませんが、SSTそのものを知るには、よい勉強になりますし、他分野の働きを知るよい機会となるでしょう。
 SST普及協会という全国団体には、医師、看護師、社会福祉士や精神保健福祉士などのソーシャルワーカー、臨床心理士、作業療法士などの会員が多いのですが、学校教員、司法の関係者も参加し始めています。この協会はニューズレターを出しており、インターネットでも研修のお知らせをしていますので、参考にして下さい。
 筆者の勤務する東京のルーテル学院大学では年に数回、SST一日ワークショップを開催し、定員22名のうち、4名分の更生保護施設職員などに対する奨学金を設けています。先着順ですので、今年度の計画については以下にお問い合わせの上、早めにお申し込み下さい。
 
ルーテル学院大学社会福祉研究室
電話:0422−31−7920
FAX:0422−34−4481
(月〜金 9時から夕方5時まで)
 
3)SSTを施設に導入するか、どうかを関係職員間で検討する
 職員が気を揃えチームでSSTを実行していかなければ、成功はむずかしいです。
 すべての職員が率直に話し合い、いろいろなプログラム活動のなかで、自分の施設では何を優先させるべきかを検討してきめましょう。
 
4)施設で実施できそうなSSTの指導形態を検討する
 SSTには個人SST(ひとりSST)とグループSSTがあります。こちらをご参照下さい。個人SSTとグループSSTの二つを組み合わせて行なうと効果的ですが、まず、どれか一つというときには、どの形態にするかをきめます。
 グループSSTには個人課題方式と集団課題方式があります。一人ひとりの希望する練習課題をとりあげていくものが個人課題方式で、基本訓練モデルとも言われます。
 集団課題方式は、あらかじめ職員が寮生の学習すべきスキルの領域をきめておき、(たとえば、就労準備のスキルなど)その領域での学習を順番に教えるためにカリキュラムを作り、教材を駆使して学習を進める方法です。これをモジュール(一揃いという意味)といいます。
 日本には、集精神障害者のためにアメリカで作られたモジュールが翻訳され、テーマ毎に指導者の手引き書、参加者の教材、ビデオなどが、一揃いで販売されています。
 更生保護施設では全員が就労に関するスキルの習得が必要なので、就労のモジュールで指導していくのがよさそうですが、グループにメンバーが途中で入ったり、途中で抜けていくという構造なので、厳密な意味でのモジュールは難しいでしょう。しかし、大体は就労関係のスキル学習をすると決めておき、部分的に集団課題、部分的に個人課題という二つのやり方を組み合わせるといいのではないかと思います。そのため、就労の教材をたくさん入れてあります。
 
5)施設内勉強会を開く
 時間を設け、この小冊子を教材に短時間でも意見の交換をなさることをお薦めします。
 
6)県内、県外のSST実施施設で実際のSSTの様子を見学する
 どの施設がSSTを実施しているかについては保護局更生保護振興課やSST運営委員会の運営委員である敬和園施設長高橋和雄氏にお問い合わせ下さい。また少年院でも活発にSSTをやっているところがありますので、それについては矯正局教育課にお問い合わせ下さい。
 医療機関などの見学については筆者にご連絡下さい。
 
前田ケイ(ルーテル学院大学社会福祉研究室)
大学FAX:0422−34−4481
メールアドレス:kmaeda@luther.ac.jp
 
7)理事会の理解と支持をとりつける
 理事の理解、支持は重要なステップです。具体的な説明資料を揃えましょう。
 
8)対象となる寮生を決定する
 施設の規模、職員の数等によって実施にはいろいろな決め方があります。どれにもメリットとデメリットがありますので、よく検討して決められるといいでしょう。
決め方の例:(1)全員が出席することを義務付ける
(2)初めて入所してきた人のみ、回数を決めて出席を義務付け(3回など)、その後は任意にする
(3)出席はそれぞれの意志にまかせ、任意とする
(4)初めの1回だけは見学とする、後の人は原則として出席、止むを得ず、欠席のときは必ず、職員に前もって届け出る
(5)その他
 
9)関係職員間で具体的な指導上の構造を検討し、大体の案をつくる
(1)実施曜日:いつにするか?
(2)開始時間と終了時間は?
(3)プログラム活動は?
 SSTだけなのか、途中または終了時にコーヒータイムをとるのかなど
(4)担当スタッフは誰か?
 ほかに協力を依頼できる学生などのボランティアがいるか?
(5)グループメンバーの数:
 何人の寮生の参加を見込んだらいいか?
(6)場所:どの部屋で実施するか?
(7)どのような方法で実施するか?
 (個人SSTとグループSSTを組み合わせる等)
(8)教材購入等、SSTのための予算はあるか?
 
10)メンバーの選出または募集方法を検討する
例:(1)入所面接時に必ず説明する(SST説明用文書の例はこちらを参照のこと)
(2)保護局で作ったビデオを見てもらう
(3)1回目は見学のつもりで、SSTの会合にきてもらうなど
 
11)関係者の理解を促し、周知をはかり、協力を依頼する
例:保護観察所、保護司さん、BBS、福祉事務所ワーカー等、その他の関係機関・団体の担当に連絡する必要はあるか?
 
12)メンバーを決め、必要ならば再度、個人面接を行い、アセスメントの資料を用意しておく
 アセスメントについてはこちらをご参照下さい。
 
13)当面のSST実施目標を決定する、それに従って適切な練習問題を予想し、アンケートや教材、セッション用のポスターなどを作成しておく
SSTのためのポスター(例)
 
I:よいコミュニケーション
1. 視線を合わせる
2. 手を使って表現する
3. 身をのり出して話をする
4. はっきりと大きな声で
5. 明るい表情
6. 話の内容が適切
 
II:SST参加のルール
1. いつでも練習から抜けて見学することができます
2. いやな時は「パス」できます
3. 人のよいところをほめましょう
4. よい練習ができるように、他の人を助けましょう
5. 質問はいつでも、どうぞ
6. 席をはずすときはちょっと断ってから
 
III:SSTの順序
1. 練習することをきめる
2. 場面をつくって一回目の練習をする必要ならば、お手本をみる
3. よいところをほめる
4. さらによくする点を考える
5. 必要ならばお手本をみる
6. もう一度練習をする
7. よいところをほめる
8. チャレンジしてみる課題をきめる(宿題)
9. 実際の場面で実行してみる
10. 次回に結果を報告する
 
 これらのポスターを手書きにするのもいいでしょうし、印刷したものは3枚ひと組み2千円で下記に注文すると購入できます。送料は別です。
 
〒057−0022
北海道浦河郡浦河町築地3−5−21
べてるの家 事務局
電話:0146−22−5612
FAX:0146−22−4707
 
14)関係職員で開始期におけるSSTセッションの展開の仕方を相談し、誰がどの役割をするかを決めておく。
 初回は特に重要なので、次頁を参考にして下さい。
 
初回SSTのポイント
 
(1)楽しい、リラックスできるウォーミングアップを考える
 
 ウォーミングアップについてはこちらをご覧ください。
 
(2)終わりにお茶の時間をもったりする
 
(3)やさしい、ためになる共通練習課題を意識して選ぶ
例:☆グループのなかで自己紹介する
☆人の前で話をする
☆就職面接を受ける
 
(4)プログラム展開の流れと時間の配分を計画し、当日、流れをあらかじめ板書しておく
 
 
15)予定参加者と開始の日時を決め、他の職員にも知らせる
 職員間の情報の共有は特に大事です。SST担当以外の職員から寮生が練習したことが実際の役にたっているのか、どんな練習課題が本人に必要なのかという情報をもらうだけでなく、本人を動機づけ、出席を励まし、練習した行動が実行された時にすかさず、ほめて、本人の行動を強化してもらうために職員のチームワークが欠かせないからです。
 
16)記録用紙などを検討し、作成する
 
17)会場を決め、担当職員で当日の打ち合せをし、必要ならばリハーサルをしておく







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION