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2.2 電源装置
2.2.1 概要
 電源装置の設計に際しては、船舶の適用法規、用途、負荷の種類、容量等を十分考慮し必要な電力を効率的に十分供給できるよう計画しなければならない。
 小型船舶の電源装置については、小型船舶安全規則第85条(JCI細則)に電源装置に対する最低要件が次のように定められている。
(1)沿海区域(限定沿海区域(注1)を除く。)を航行区域とする船舶にあっては、充電装置付きの発電機及び航行中に点灯するすべての航海灯に対し16時間以上給電できる蓄電池よりなること。ただし、蓄電池の容量は、夜間の航行時間を考慮して適宜減少してもさしつかえない。
(2)限定沿海区域又は平水区域を航行区域とする船舶にあっては、重要負荷(注2)に対し十分な容量の電力で給電できる能力を有するほか、いかなる場合でも航行中に点灯するすべての航海灯に対し6時間の給電能力を有する蓄電池よりなること。
注1. 限定沿海区域とは、平水区域から当該小型船舶の最強速力で2時間以内に往復できる区域に限定された沿海区域をいう。
注2. 重要負荷とは、小型船舶の推進、排水その他の安全性に直接関係のある補助設備をいい、次のような設備に使用するものである。
(1)冷却水ポンプ、潤滑油ポンプ、燃料油移送ポンプ、空気圧縮機等推進機関の運転に直接又は間接的に関係をもった設備。
(2)セルモータ
(3)操だ設備
(4)ビルジポンプ
(5)船灯
(6)揚錨設備
(7)係船設備
(8)無線設備
 また、小型漁船の電源装置については、小型漁船安全規則第43条(電気設備についての小型船舶安全規則の準用)(JCI細則)に電源装置に対する最低要件が次のように定められている。
(1)第2種小型漁船にあっては、充電装置付きの発電機及び航行中に点灯するすべての航海灯に対して12時間以上給電できる蓄電池よりなること。
(2)第1種小型漁船にあっては、充電装置付きの発電機及び航行中に点灯するすべての航海灯に対して6時間以上給電できる蓄電池よりなること。
 ただし、航海灯、セルモータ及び小容量の室内灯等を使用するものにあっては、蓄電池のみでさしつかえない。
 この場合、蓄電池の容量は、航海灯への6時間の給電の外にそれらに必要な十分な容量とすること。
(1)発電機の型式
 交流発電機の励磁方式は、励磁電流を供給する方法により他励,自励,ブラシレスの3種類に大別される。
 他励方式は、図2.2.1のように励磁電流の供給を発電機本体とは別個の直流発電機から受けるものである。この方式は小形発電機には採用されない。
 自励方式は、図2.2.2のように発電機本体が自ら発生した交流電力の一部を取り出し、これを本体とは別個に設けた自励装置に入れ直流に変換した後励磁電流として供給するものである。
 ブラシレス方式は、発電機本体と同一軸上に回転電機子型の交流発電機(交流励磁機)と整流器を装着し、これにより変換した直流電流を励磁電流として供給するもので、ブラシやスリップリングを必要としない。(図2.2.3参照)
小型船舶等には小型化、保守点検が容易なブラシレス方式の発電機が多く採用されている。
 
図2.2.1 他励式交流発電機の一例
 
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図2.2.2 自励式交流発電機の一列(左)
図2.2.3 ブラシレス交流発電機の一例(右)
 
 直流発電機は、界磁巻線の種類により自励発電機と他励発電機に大別されるが舶用の場合一般に自励発電機が採用されている。
 自励発電機は電機子に生じた起電力で界磁電流を流すもので、電機子と界磁の接続の仕方によって分巻発電機、直巻発電機、複巻発電機に分類される。複巻発電機は分巻、直巻の2つの界磁巻線を備えたもので、両巻線の磁束が加わるように接続した和動巻線と差し引くように接続した差動巻線とがある。
 直流発電機は蓄電池充電用には分巻発電機が適しているが、一般には負荷変動による電圧変動の少ない和動複巻発電機が採用される。
 発電機の絶縁の耐熱クラスについては、従来A又はBが多く採用されたが、近年小型軽量の発電機としてFが使用されるようになっている。
 発電機には交流式と直流式があり、使用される電気機器の種類によりいずれか又は両方が使用される。小型船の場合は直流電源が使用されることが多く、又その需要電力も少ない。通常、主機始動用電動機に直流電源が使用されていることがほとんどであるため、主機付きの発電機で蓄電池を充電し、この蓄電池で賄われているのが普通である。しかし、需要電力が多い場合、この方式では能力的に不十分である。元来、主機付きの発電機は主機始動モーター用の蓄電池を充電するためのものであり、他への供給電力としての十分な能力は持っていないと考えるべきである。もし多くの電力を必要とするようならば、機関メーカーに変更の可能性を事前に確認した上で、当該発電機の容量を可能な範囲で大きくするか、又は別に発電機を備える等の処置をしておいたほうがよい。併せて、主機の低回転域では回転数が低いと発電機で充電しないことがあるので、蓄電池の容量を含めて注意をしておく必要がある。
 発電機は定格出力の約10%の余裕を保って運転されるのが一般的に効率がよいといえる。
 発電機の定格は、特殊な場合を除き一般には全負荷連続定格のものを使用する。
 発電機の容量及び台数は、通常は次の(3)電力調査表に述べるように船内のすべての電力消費機器(電動機、照明、電熱器等)の需要電力(入力)を航海中、出入港中、荷役中、漁撈中等の運航状態ごとに算定し、負荷変動の状態等も考慮して決定する。
 所要需要電力を推定する場合には、それぞれの補機等の運転条件を充分に把握することが必要で、そのためには船舶の運航状態でそれぞれの装置がどのような運転状態であるかを検討し、所要電力(入力)を推定するための手段として各運転状態における負荷を連続運転負荷(主機潤滑油電動ポンプ、通風機等連続して使用される負荷)と断続運転負荷(ビルジポンプ、雑用水ポンプ等連続して使用されない負荷)に区分し、次式によって所要電力の計算を行う。
PG=ΣPC+xΣP1
ここで
 
PG :船の各状態における総合需要電力
PC :連続運転負荷の需要電力
Pi :断続運転負荷の需要電力
x :1/不等率
 
 前式においてΣPCは、主機潤滑油電動ポンプ、通風機等連続して使用される負荷(連続運転負荷)の各需要電力(入力)の総和であり、ΣP1は、ビルポンプ、雑用水ポンプ等連続して使用されない負荷(断続運転負荷)の各需要電力(入力)の総和となる。
 例えば、付録1−9の小型漁船の電力調査表(例)(交流用)において航海中の連続運転負荷の需要電力ΣPCは6.3kWであり、断続運転負荷の合計需要電力ΣP1は0.8kWとなる。
〈不等率〉
 ビルジポンプ、雑用水ポンプ等の断続運転負荷の個々の需要電力は同時に起こるものでなく、その発生は時間的差がある。従って、断続運転負荷のうち同時に運転される可能性のある負荷の各需要電力の和(総合最大需要電力)を推定する必要があり、その決定には次に定義される不等率が考慮される。
 
 不等率=各断続運転負荷の最大需要電力の和/総合最大需要電力
 
 総合最大需要電力は断続運転負荷のうち同時に運転される可能性のある負荷の各需要電力の和であるから不等率は1より大であるのが通例である。従って、前式のxΣP1は断続運転負荷のうち同時に運転されることが予想される負荷の需要電力の和(断続運転負荷需要電力)となる。
 不等率の決定には船舶の運転状況を正確に把握しなければならないが、xΣPiの代わりに断続運転負荷のうち最大出力の電動機及びこれと同時に運転されることが予想される負荷を加算する方が妥当な場合が多い。また、小型船の場合は電力消費機器の数が少ないので、不等率を1として需要電力を算定する場合が多い。
〈需要率〉
 負荷の需要電力は、その機器の種類及び使用方法などによって決まり、各々の負荷電力の算定には一般に需要率が考慮される。需要率は、その設備の使用状態における最大需要電力と定格出力に対する入力の割合をいい、次によってあらわされる。
 
需要率=需要電力/定格出力に対する入力×100%
 
 需要電力は定格出力に対する入力より小さいことが多いが、これは電動機のように余裕をみて容量を選定しているのが通例であり、また、全負荷に近い状態で使われているものばかりでなく、軽負荷の状態で使われているものもあることが多いからである。
 需要率は船の運転状態によって異なるが、一般に次の値が採用されている。
 
一般補機など 60〜90%
操舵機 20〜30%
電熱器 50〜100%
一般電灯  
航海中 70〜80%
作業中 60〜70%
停泊中 50〜60%
投光器など 100%
 
 電力調査表は、前記のように船舶の運航状態ごとに各負荷の所要電力(入力)を算定し、これに需要率、不等率を考慮して作成される。(付録1−4及び1−9を参照)
 発電機の駆動方法としては、専用の補機によるものと主機によるものがある。やはり専用の補機駆動の方が望ましいが、種々の制約条件の中で主機駆動が採用されることも多い。主機駆動には、機関前にクラッチを介して発電機を直結する方式と、前部取出し軸からベルトなどを介して駆動する方法がある。図2.2.4に主機駆動による例を示す。
 
図2.2.4 主機駆動による動力取出し方法(例)
 
 主機駆動方式は、主機の回転数が変動すれば、それに応じて発電機の出力も変動するという欠点がある。直流発電機の場合は、発電機メーカーが指定した回転数の範囲に入るようプーリー比を決めることにより、安定した出力を得ることができる。しかし通常最高回転数で合せるため、低回転域では発電しないことがあり注意が必要である。この点を除けば直流発電機については特に問題はない。
 しかし交流発電機の場合は主機の回転数の変動に伴い出力、周波数が変動する。このため小型船で交流発電機を主機駆動とする場合、あまり一般的ではないが主機の回転数を一定に保った状態でのみ使用するか又は定周波装置を装備するか、いずれかの方法が取られる。しかし主機の回転数を一定に保った状態で発電機を駆動することは、可変ピッチプロペラを装備する等特殊な用途以外では困難なことが多い。
 定周波装置とは主機駆動発電機の出力周波数を一定に保つためのものである。具体的な定周波装置としてはM−Gセット(電動発電機セット)を用いたもの、サイリスタインバータを用いたもの、電磁カップリングなどの発電機への入力回転数変換装置を用いたものなどがある。
 小型船の場合はサイリスタインバータを用いたものが一般的である。サイリスタインバータには自励式と他励式の2種類があり、主に自励式が使用されている。その機構は、主機駆動発電機の交流出力を整流器により一度直流に変換し、その後この直流をサイリスタインバータによって再度交流に変換して供給するものである。
 この方式を使用した定周波装置は、出力側の波形が矩形波となっているため使用する負荷側で、正弦波が必要とされる場合、正弦波フィルターを装備してやる必要がある(家電製品を使用する時は必要)。と同時に定周波装置により、変圧器に給電した場合、変圧器の電源投入時に、過大な突入電流が流れるため、これを防止するためのリミッタ等を装備してやる必要がある。







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