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3・3・6 磁気コンパス
(1)磁気コンパスに対する影響と装備条件
 コンパス(羅針儀ともいう)は船舶設備規程第146条の18及び146条の19により、特に認められた船舶以外は、装備を義務づけられている基本的な航海用具である。磁気コンパスは地球磁気によって働く受動的な計器であるため、磁気コンパスの周囲の磁性体あるいは電気装置が発生する磁界の影響を避ける必要がある。これに関して船舶設備規程第257条に「磁気コンパスに近接する電路、電気機械及び電気器具は、これに有害な磁気作用を及ぼさないように配置しなければならない」と規定している。さらに航海用レーダーの性能基準を規定している第146条の13の第2項第一号に「磁気コンパスに対する最小安全距離を表示したものであること」と定め、磁気コンパスに対する影響を排除するように配慮してある。
 IMOでは、すべての大洋航行船舶に一定の性能をもつ磁気コンパスの装備を義務化している。さらに、その性能を維持するための装備条件が検討され、磁気コンパスは、船体構造物及び電気装置の影響の少ない位置に装備することが要求されている。
(2)磁気コンパスの安全距離の定義と測定法
 磁気コンパスの安全距離とは、ISO勧告R694の定義によれば「磁気装置あるいは電気装置が磁気コンパスに与える影響を除去するか、あるいは大幅に減少させるために必要な最小距離で、磁気コンパスボウルの中心から各装置の最接近点までの距離」をいう。
 ISOの磁気コンパス安全距離の測定法には、通常の地球磁場内で測定するA方法(Method A)と、減磁場の中で測定するB方法(Method B)とがあり、いずれかの方法で測定した値を磁気コンパスの安全距離と定義する。
(3)航海用レーダーと磁気コンパスの安全距離の検査
 第一回定期検査の検査項目には「磁気コンパスに対し、その航海用レーダーに示されている安全距離が保たれていること。ただし、当該安全距離が保たれていない場合であっても、航海用レーダーを設置したことによって磁気コンパスに与える誤差が、当該レーダーに電源を入れた状態と電源を切った状態にかゝわらず軽微(自動衝突予防援助装置及び自動操舵装置に電源を入れた状態と電源を切った状態とのいずれの状態においても、これらの装置及び航海用レーダーによる誤差が、あわせて0.5度以内を標準とする。)なものであれば、安全距離を保っていることとして差し支えない。」とあって、磁気コンパスに対する安全距離を検査することになっている。
 このため、磁気コンパスの自差修正は、レーダーの装備が完了してから実施する必要がある。
 
3・4 船舶安全法によるレーダーの検査
 船舶の定期検査や中間検査の際に、船舶設備規程によって設置の義務づけられている船舶のレーダーと自動衝突予防援助設置は、船舶検査官による船上での検査の対象となる。また、これらの船ではレーダーを改造したり、あるいは換装した場合などには、その内容によっては臨時検査の対象となる。
 なお、型式承認を受けていない型式のレーダーを設置する場合には、そのレーダーはあらかじめ製造工場等において予備検査を受けて合格しているものでなければならい。
 これらの検査についての法令は、船舶安全法の第5条から第25条までと、船舶安全施行規則の第14条から第46条の2までにあり、ここでは省略するが、その概要及び注意すべき事項は次のとおりである。
 
3・4・1 船舶検査の種類
 船舶安全法による船舶検査は、次のように大別されている。
(1)定期検査
 船舶を初めて航行の用に供するとき、又は船舶検査証書の有効期間が満了したとき船舶の構造、設備等の全般にわたって行われる精密な検査である。定期検査に合格した船舶に対しては、航行区域(漁船の場合は従業制限)、最大とう載人員、有効期間等を記載した船舶検査証書が管海官庁から交付される。船舶検査証書の有効期間は原則として5年と定められているが、旅客船を除き、平水区域を航行区域とする船舶、又は総トン数20トン未満の船舶であって危険物ばら積船、特殊船及びボイラーを有する船舶以外の船舶については6年と定められている。(法第5条)
(2)中間検査
 定期検査と定期検査の中間において、船舶の構造、設備等の全般にわたって行われる簡易な検査であって、第1種中間検査と第2種中間検査及び第3種中間検査の3種類がある。
 中間検査の種類と、これを受けるべき時期等については、施行規則第18条に規定されている。
イ 中間検査の種類
 次表は、中間検査の種類等をまとめたものである。
 
○船舶安全法の中間検査の種類
中間検査の種類 第1種中間検査 第2種中間検査 第3種中間検査
対象船舶 ・旅客船
・内航貨物船及び漁船
・高速船等
外航貨物船
検査対象施設 ・法第2条第1項
注)各号に掲げる事項
・*法第2条第1項
注)第1号、第2号、第4号から6号まで、第9号から第3号までに掲げる事項
・*法第2条第1項
注)第1号から第5号、第7号、第8号、第11号から第13号までに掲げる事項
・満載喫水線 ・満載喫水線
・無線電信等 ・無線電信等
検査の性格 ・船体の上架が必要な検査 ・条約上の年次検査及び中間検査を含む検査
・毎年行う必要があり、効力の確認を中心とする簡易な検査
・浮上中でも受検可能なもの
・条約上の船底検査を含む検査
・5年に2回行うもので船底外板の検査及び機関等の開放検査並びに居住、衛生設備の検査を含む検査
・船体の上架が必要なもの
*:法第2条第1項は船舶安全法第2条(船舶の所要施設)における施設すべきもののことで次の各号をいう。
1.船体 2.機関 3.帆装 4.排水設備
5.操舵、繋船及び揚錨の設備 6.救命及び消防の設備 7.居住設備
8.衛生設備 9.航海用具(GMDSS設備、レーダー等を含む)
10.危険物その他の特殊貨物の積付設備 11.荷役その他の作業の設備
12.電気設備 13.前各号のほか国土交通大臣において特に定むる事項
 
ロ 中間検査の時期
 次に施行規則第18条第2項の表を掲げる。
 
○船舶検査証書の有効期間が5年の船舶
区分 種類 時期
1 国際航海に従事する旅客船(総トン数5トン未満のもの並びに原子力船及び高速船を除く。) 第1種中間検査 検査基準日の3月前から検査基準日までの間
2 原子力船 第1種中間検査 定期検査又は第1種中間検査に合格した日から起算して12月を経過する日
3 旅客船(総トン数5トン未満のものを除く。)潜水船、水中翼船及び長さ6メートル以上のエアクッション艇であって前2号左欄に掲げる船舶以外のもの並びに高速船 第1種中間検査 検査基準日の前後3月以内
4 国際航海に従事する長さ24メートル以上の船舶(前3号左欄に掲げる船舶及び施行規則第1条第2項第1号の船舶(もっぱら漁ろうに従事する船舶)を除く。) 第2種中間検査 検査基準日の前後3月以内
第3種中間検査 定期検査又は第3種中間検査に合格した日からその日から起算して36月を経過する日までの間
5 潜水設備を有する船舶(前各号左欄に掲げる船舶を除く。) 第1種中間検査 船舶検査証書の有効期間の起算日から21月を経過する日から39月を経過すそ日までの間
第2種中間検査(潜水設備に係るものに限る。) 検査基準日の前後3月以内(ただし、その時期に第1種中間検査を受ける場合を除く。)
6 その他の船舶 第1種中間検査 船舶検査証書の有効期間の起算日から21月を経過する日から39月を経過する日までの間
備考
1 この表において「高速船」とは、管海官庁が1974年の海上における人命の安全のための国際条約附属書第10章第1規則に規定する高速船コードに従って指示するところにより当該船舶が法第2条第1項に掲げる事項を施設している旨及び当該船舶に係る航行上の条件が、第13条の5第2項の規定により記入された船舶検査証書を受有する船舶をいう。
2 この表において「検査基準日」とは、船舶検査証書の有効期間が満了する日に相当する毎年の日をいう。
 
○船舶検査証書の有効期間が6年の船舶
区分 種類 時期
旅客船を除き平水区域を航行する船舶又は総トン数20トン未満の船舶(危険物ばら積船、特殊船及びボイラーを有する船舶を除く) 第1種中間検査 船舶検査証書の有効期間の起算日から33月を経過する日から39月を経過する日までの間
 
(3)臨時検査
 臨時検査は、法第2条第1項各号に掲げる事項(航海用具や電気設備など)又は無線電信等について、船舶の堪航性又は人命の安全の保持に影響を及ぼすおそれのある改造などを行うときに行う検査(法第5条第1項第3号)で、次のような改造又は修理を行うときには、臨時検査を申請しなければならない(施行規則第19条)。
船舶に固定して施設されるものの新設、増設、位置の変更又は性能もしくは形式の異なるものとの取替え
法第4条第1項の規定により施設する無線電信等の取替え
船舶設備規程第302条の6に規定する危険場所(引火性液体のタンク、ポンプ室その他の引火性液体が漏洩し又は蓄積するおそれのある場所)に布設している電路の変更又は取替えの作業
(4)臨時航行検査
 臨時航行検査は、船舶検査証書を受有しない船舶を臨時に航行の用に供するときに行われる検査で、次のような場合に行われる。
日本船舶を所有することができない者に譲渡する目的でこれを外国に回航するとき。
船舶を改造し整備し若しくは解撤するため、又は法による検査若しくは検定若しくは船舶法の積量の測度を受けるため、これをその所要の場所に回航するとき。
船舶検査証書を受有しない船舶をやむを得ない理由によって臨時に航行の用に供するとき。
(5)特別検査
 特別検査は、国土交通大臣が一定の範囲の船舶について事故が著しく生じている等により、その材料、構造、設備又は性能が法第2条第1項の命令に適合しないおそれがあると認める場合に、これらの船舶について特別検査を受ける旨を公示して、一定の期間を定めて特別に行う検査である。この場合、検査を受けるべき船舶の範囲、検査を受けるべき事項、検査を受ける場合の準備等について公示される。
(6)製造検査
 製造検査は、法第5条の検査の適用がある船舶のうち、船の長さが30メートル以上の船舶(注)の製造者に対し強制されている検査であり、船体、機関及び排水設備の設計、材料及び工事並びに満載喫水線を表示する船舶については、満載喫水線を定めるのに必要な事項に関し、船舶の製造に着手した当初から完成時までの間において、その工程に従って、精密に検査をするものである。製造検査においては材料試験、圧力試験及び機関の陸上運転が行われる。
注:次にあげる船舶を除く。
平水区域のみを航行する船舶であって旅客船、危険物ばら積船及び特殊船以外のもの。
推進機関及び帆装を有しない船舶。(危険物ばら積船、特殊船、推進機関を有する他の船舶に引かれ、又は押されて人の運送の用に供するもの及び係留船を除く。)
外国の国籍を取得する目的で製造に着手した後、日本の国籍を取得する目的で製造することとなった船舶であって管海官庁が認めるもの。
(7)予備検査
 船舶安全法第*6条第3項の規定によって、施行規則第22条に係る船舶用物件については、これを備え付ける船舶が特定している以前でも、製造者、修繕者等の申請によって、あらかじめ検査を受けておくことができる制度である。
 航海用レーダーは、予備検査の対象物件として船舶安全法施行規則第22条に規定されている
 型式承認を受けていない型式のレーダーを、法定備品として義務船舶に装備するような場合に本制度が利用できる。
 

*:法2条第1項各号物件(111〜112頁参照)を、船舶特定前に受検可能とする条文のこと。







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