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はしがき
 この指導書は船舶電気装備業務に従事し特に設計業務をされる方を対象とし、電気理論、電源計画など設計に必要な計算方法を広範囲にわたり記述したもので、いわば電気公式集である。
 したがって、なお一層詳細に勉強したい方は他の専門図書を参考としてもらいたい。
 なお、大切と思われる個所はアンダーラインを引いてありますので特に留意して記憶にとめてもらいたい。
 本書は競艇の交付金による日本財団の助成金を受けて作成したものである。
 
1. 電気理論
1・1 電流・電圧・抵抗
1・1・1 電流の大きさ
Q:電気量クーロン〔C〕、t:時間秒〔s〕、I:電流アンペア〔A〕
〔例題〕5秒間に60〔C〕の電気量が移動すれば、何〔A〕の電流が流れるか。
 
1・1・2 電圧の大きさ
Q:電気量クーロン〔C〕、J:仕事量ジュール〔J〕、V:電圧ボルト〔V〕
〔例題〕電圧差のある2点間を1〔C〕の電気量が移動したとき200〔J〕の仕事をしたという、この2点間の電位差は何〔V〕か。
 
1・1・3 電力(1秒間当りの電気の仕事)
P=V1=I2R〔W〕又は〔J/s〕
P:電力ワット〔W〕、R:電気抵抗オーム〔Ω〕
〔例題〕1. ある抵抗器に150〔V〕の電圧を加えたら、10〔A〕の電流が流れたという、これにはいくらの電力が消費されるか。
〔解〕P=150×10=1,500〔W〕又は1.5〔kW〕
〔例題〕2. 100〔Ω〕の抵抗器に流れた電流は5〔A〕であった。この電力は何〔W〕か、又は何〔kW〕か。
〔解〕P=52×100=25×100=2,500〔W〕又は2.5〔kW〕
 
1・1・4 電力量(ある時間内の電気の仕事)
Pt=VIt〔Ws〕又はWs=J/s×t=〔J〕
Pt:電力量、ワット秒〔Ws〕、t:秒〔s〕
60×60×J=1〔Wh〕・・・ワット時
キロワット時〔kWh〕=1,000×Wh
〔例題〕600〔W〕の電熱量を10時間使ったときの電力量は何〔kWh〕か。
 
1・1・5 ジュール熱
H=P×t=I2R×t〔J〕
H:ジュール熱ジュール〔J〕(t秒間に発生する熱量をいう)、t:秒〔s〕
1〔Wh〕=3.6×103〔J〕、1〔kWh〕= 103〔Wh〕=3.6×106〔J〕
〔例題〕600〔W〕の電熱器を10時間使った時の電力量は何〔J〕か。
〔解〕H=600×10×3.6×103 =2.16×107〔J〕
 
1・1・6 カロリー
H:熱量カロリー〔cal〕、t:秒〔s〕
1,000cal=1kcal
 また1〔g〕の水野温度を1〔℃〕だけ上がるのに必要な熱量を1〔cal〕といい、4.186〔J〕に等しい。(重要なジュール法則)
〔例題〕1. 100〔V〕用1〔kW〕の電熱器を30分間使った時に発生する熱量は何〔cal〕か。
 また、その熱量の80〔%〕が有効に利用されるとすれば、0〔℃〕の水5〔l〕の温度を何度上げられるか。
〔解〕H=0.24×1,000×1,800=432,000〔cal〕=432〔kcal〕
 また
(注)1. 水の場合、1気圧のもとでは、4℃の水の密度は最大で0.999972〔g/cm3〕であるから、cm、gの単位では密度と比重とが殆ど同一である。実際には温度によって密度は僅かに変わるけれども、今後は計算の簡単化のため、水1〔cc〕は1〔g〕と考えて計算する。
2. 1,000〔cc〕=1リットル〔l〕であるから、水1〔l〕は1〔kg〕(重)となる。
〔例題〕2. 100〔l〕の5〔℃〕である水を2時間で55〔℃〕に温度上昇させるのに必要な100〔V〕投込形電熱器の抵抗値を求めよ。熱効率は90〔%〕とする。
〔解〕発生有効熱量:H1〔kcal〕、消費電力P〔kW〕、通電時間t〔h〕、効率ηとし、
また1〔cal〕=4.186〔J〕
1〔kcal〕=4,186〔J〕
1〔kWh〕 =3.6×106〔J〕
から
H1=860P・t・η =860×P×2×0.9 = 1,548P〔kcal〕
 100〔l〕の水を5〔℃〕から55〔℃〕に上げるための熱量H2
H2=100×(55−5)=5,000〔kcal〕
題意から H1=H2
1,548P=5,000
また、供給電圧 V=100〔V〕、抵抗R〔Ω〕とすれば
〔例題〕3. 風呂桶に15〔℃〕の水を200〔l〕入れ、2時間15分かかって42〔℃〕の温度に温めた、何〔kW〕の電熱器が必要か、ただし電熱器の効率は85〔%〕とする。
〔解〕200〔l〕の水を15〔℃〕から42〔℃〕まで温めるための熱量H1
 H1=200×(42−15)=5,400〔kcal〕、電熱器の容量をP〔kW〕とすれば、
 2時間15分=2.25時間で85〔%〕の効率を持つ電熱器の利用できる熱量H2は次のようになる。
また、1〔kWh〕=860〔kcal〕であるから
H2=860×η×P×t=860×0.85×P×2.25
またH1=H2であるところから
5,400 = 860×0.85×P×2.25
よって
(小数点3桁以下省略)
それ故 3〜3.5〔kW〕の電熱器を使用する。
 
1・1・7 オームの法則
上図の電気回路で次の関係がある。
〔例題〕1. 電気アイロンを100〔V〕の電灯線に接続したら、2.5〔A〕の電流が流れたという。この電気アイロンの抵抗は何〔Ω〕か。
〔解〕
〔例題〕2. 抵抗Rが20〔Ω〕の導体に5〔A〕の直流が流れているとき、この導体の両端間の電位差は何〔V〕か。
〔解〕 V=RI=20×5=100〔V〕
〔例題〕3. 抵抗Rが20〔Ω〕の電気回路の両端に200〔V〕の直流電圧を加えたとき、回路に流れる電流は何〔A〕か。
〔解〕
1・1・8 電気抵抗、抵抗率、導電率
 
(拡大画面:32KB)
 
1・1・9 温度による抵抗の変化
RT=RO(1+αOT) 〔Ω〕・・・(1) (一般の場合)
RT=Rt{1+αt(T−αt)} 〔Ω〕・・・(2) (一般の場合)
RT,RO,Rtt:それぞれ温度T,0,t〔℃〕における抵抗〔Ω〕
αO,αt:それぞれ温度0,t〔℃〕における抵抗の温度係数〔Ω/℃〕
 
(拡大画面:17KB)
 
1・1・10 抵抗の変化を利用した温度測定
(一般の場合)
θ:温度上昇〔℃〕、T:熱状態の最終温度〔℃〕、
t:冷状態の当初の温度〔℃〕、RT:T〔℃〕における抵抗〔Ω〕
Rt:t〔℃〕における抵抗〔Ω〕
αt:t〔℃〕における抵抗の温度係数〔Ω/℃〕
(銅線の場合)
θ’:熱状態での温度上昇〔℃〕、t2:熱状態の銅線温度〔℃〕、
ta:温度試験の最初の基準周囲温度〔℃〕、t1:冷状態の銅線温度〔℃〕
R1:冷状態の銅線抵抗(当初の抵抗)〔Ω〕
R2:熱状態の銅線抵抗(最終抵抗)〔Ω〕
〔例題〕運転開始前の発電機の巻線の抵抗を測定したら、周囲温度20〔℃〕の時0.25〔Ω〕であった。次に運転を開始し、しばらくの後停止し、直ちに抵抗測定したら0.295〔Ω〕であった。巻線の温度はいくらになったか、また巻線の温度上昇はいくらか。
 
(拡大画面:3KB)
 
〔解〕ta=20〔℃〕、R2=0.295〔Ω〕、R1=0.25〔Ω〕、t1=ta=20℃とする。
巻線の温度=20+45.9=65.9〔℃〕
巻線の温度上昇=45.9〔℃〕







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