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2・3・3 インマルサットシステム関連機器
 インマルサット静止衛星及び海岸地球局を介して陸上又は他の船舶等との間で電話、テレックス、データ等の通信を行うための無線装置である。
(1)インマルサットC型船舶地球局設備/高機能グループ呼出受信機
 インマルサットのインマルサットC型船舶地球局は、原則として無指向性の空中線を使用する軽量、小形の送受信装置で、600bps(ビット毎秒)のテレックスを主とした通信がなされ、音声による電話通信はいまのところ不可能である。
 このインマルサットC装置は後述するEGCの装置との関連で、クラス1から3までの三つの種類の装置がある。クラス1は、メッセージの送受のできる基本的なインマルサットCの装置で、EGCとは無関係な装置である。クラス2は、メッセージの送受信のときの受信はメッセージとEGC装置とが切換えて使用できるものである。クラス3は、独立したEGC受信機をもってメッセージの送受信とEGCとが互いに独立しての動作をすることのできるものである。
 このインマルサットC船舶地球局については、IMO総会の第16会議で決議された性能標準、A.663(16)「直接印刷電信の通信を送信と受信のできるインマルサット標準C船舶地球局の性能基準」がある。以下その要点を示すが、装置の電波的な性能は余り触れていない。
(1)外部の制御器で船舶の識別符号を変更できないこと。
(2)船舶を通常操船する場所及び遭難警報を行うよう指定されたその他の場所から、遭難呼出しを行うことができること。遭難呼出しの開始手段は、操作が容易で、かつ、不注意による作動の保護措置が取られていること。
(3)送信電波による危険の可能性の警告を適切な場所に表示するために、電波の放射レベルが100W/m2、25W/m2、10W/m2である距離を表示するラベルをレドームに貼付すること。その距離がレドーム内のときは表示の必要はない。
(4)通常、船舶の主電源から給電を受けること。更に、代替電源を備えている場合はそれによって、局及びその通常の機能を行うために必要なすべての設備(もし、追尾する空中線を備えるときはそれも含めて)の運用ができること。
(5)一つの電源からもう一つの電源への切換え、又は60秒までの電源の瞬断によって、設備は手動による再始動が必要であってはならず、かつ、メモリに保存した受信通報を消してはいけないこと。
(6)無指向性の空中線を使用するときは、その空中線は、実行可能なときには設備の性能に重大な低下を招かないよう、船首尾方向は−5°以内、左右舷方向に−15°以内に障害物のない位置に取付けること。無指向性の空中線の場合は、特に空中線の1m以内で2°をこえるシャドーセクタを与える物体は、設備の性能を大きく低下させるおそれがある。
(7)安定化装置をもった指向性の空中線を使用するときは、その空中線は、実効可能なときには、設備の性能に重大な低下を招かないよう、水平面下5°の仰角内に障害物のない位置に取付けること。20dB程度の利得をもった(インマルサットAの空中線に近い)指向性の空中線の場合は、特に空中線の10m以内で6°をこえるシャドーセクタを与える物体は、設備の性能を大きく低下させるおそれがある。
 なお、この性能標準の中には、EGCの性能標準については、別に定めるものに適合、となっている。
(2)インマルサットA型船舶地球局設備
 インマルサットAと呼ばれている船舶地球局の設備は、船上装置(Above Deck Equipment)と船内装置(Below Deck Equipment)の二つの部分から構成されている。船上設備は安定台上に取付けられた直径0.85mないし1.2mのパラボラ空中線であって、船の動揺があっても常に衛星に向くようにされている。そして空中線には送信用Lバンド高電力増幅器と受信用のLバンド低雑音増幅器と送受切換え装置が取付けられ、全体が低損失の保護用レドームの中に入っている。
 船内設備は空中線制御装置、通信用周波数変換器、変復調器、回線制御装置、電源などから構成されており、これに電話、テレックス、ファクシミリ、データ端末機等が接続される。
 IMOの総会決議A.608(15)「双方向通信の可能な船舶地球局の性能標準」にはこの船舶地球局の要件が示されている。
 この性能標準は大略次の通りである。
(1)この装置は無線電話と直接印刷電信のできるもので、別に定めた環境条件などの一般要件に適合すること。
(2)外部の制御器で船舶局の識別を変更できないこと。
(3)船舶を通常操船する場所(操舵室)と遭難警報を行うために指定されたその他いかなる場所からも、電話又は直接印刷電信で遭難呼出しを開始し、行うことができること。さらに、無線通信のための部屋(無線室)が設けられる場合には、その部屋に遭難呼出しを開始する手段を備えること。遭難呼出しを開始する手段は、操作が容易であり、かつ、不注意による作動に対する保護の措置が取られていること。
(4)電波による危険の可能性に関する警告を適当な場所に表示するために、放射のレベルが100W/m2、25W/m2、10W/m2である距離を表示するラベルを空中線のレドームに貼りつけること。
(5)通常は、船舶の主電源から給電を受けること。さらに、代替電源で通常の機能を行うのに必要な空中線の追尾システムを含むすべての設備を運用できること。
(6)電源への切換えと電源の瞬断によって装置が運用できなくなったり、再起動を要したりしないこと。
(7)空中線は、設備の性能の重要な低下のないよう、できるだけ仰角−5°以内に障害物がない場所に取付けること。
(8)空中線の取付けはマスト上での高レベルの振動による悪影響とシャドー効果を最小にするよう慎重に考慮すること。特に6°を超えるシャドーセクタの原因となるレドームから10m以内の物体などは、設備の性能の大きな低下のおそれとなる。
(9)上部甲板の設備はその他の通信設備及び航海設備の空中線からできるだけ離すこと。
 また、インマルサットのインマルサットAにはクラス1から3までの種類があり、そのうち、クラス2の複信の電話並びに単信の電話と電信の受信が可能な装置は、電信の送信ができないので、GMDSS用の装置としては適さない。クラス1の複信の電信と電話並びに単信の電信と電話の受信が可能な装置及びクラス3の複信の電信と単信の電信受信が可能な装置のみが対象となっている。すなわち、GMDSS用のインマルサットの装置は少なくともテレックス(直接印刷電信)の送受信が可能でなければならない。
 無線設備規則ではインマルサットC及び高機能グループ呼出受信機を含めて、第40条の4に性能基準があり、また、その条文に基づく告示で細かい規定がなされている。
(3)高機能グループ呼出受信機
 高機能グループ呼出し(EGC)受信機は、インマルサット衛星からの高機能グループ呼出信号のみを受信する専用の受信機で、ナブテックスのカバレージ範囲外を航行する船舶が、ナブテックスと同種の海上安全情報その他の情報を受信する機能をもった受信機である。すでにインマルサットのインマルサットCのところでも述べたように、インマルサットCとの組合わせは、図2・14に示すようにEGCと関係のないクラス1、インマルサットCの受信機を共用して、EGCメッセージプロセッサーのみがあるクラス2(このクラスのものは、インマルサットCの送受信中はEGCの受信はできず、また、インマルサットCとEGCの切換えは手動のものが多い)。さらにインマルサットCとEGCが独立の受信機のクラス3があるほか、EGC受信機が独立の空中線をもつものと、インマルサットAと空中線を共用するものとが考えられる。
 EGC受信機に関するIMOの総会決議はA.664(16)「高機能グループ呼出装置」で、おおむね次のように規定されている。
(1)受信情報の印字ができること。受信メッセージは、その受信をしたことが指示され、後述の重要情報は、直ちに印字されるが、その他のメッセージは、後での印字のために一旦記憶されること。
(2)EGC受信装置は独立の装置でも、その船舶のインマルサット地球局と空中線、低雑音増幅器、周波数変換回路などを共用してもよい。
(3)船の位置及びNAVAREAのコードが手動で入力できること。船の航法装置からの船の位置の自動入力と、その位置からNAVAREAのコードヘの自動変換機構を備えてもよい。
(4)遭難呼出し、緊急呼出し又は種別的に遭難に入る呼出しを受信したことを示す特定の可聴警報と可視の指示を、船舶の通常の操船位置に対して行うこと。この警報は人為的に止めておくことができないようにし、警報のリセットは、手動だけでできること。
(5)装置が、EGCの搬送波に同調が正しくなされていないときは、それを表示すること。
(6)すべてのメッセージは、その受信の文字誤り率に関係なく印字すること。装置は、文字が誤って受信された時は、アンダーラインの印字をすること。
(7)ナブテックスと同様に、その船舶が運航している海域向けの関連の航行上の警報、気象警報、捜査救助情報とある種の特定の警報を除外することはできないが、メッセージの種類のコードを受入れ又は除外することは操作者によって制御が可能であること。
(8)メッセージが誤りなく受信・印字された後は、同じメッセージは印字しないような手段が備えられていること。
(9)印字装置は、少なくとも一行40字の印字ができること。
(10)一つの単語がその行におさまらないときは、次の行へ移すことが、信号処理器と印字装置によって実行されること。メッセージの印字が終わったときには、印字装置は自動的に5行の送りをすること。
(11)予備の法的な装置は、船舶の主電源で動作するもので、かつ、装置が正規の動作をするためのすべての他の装置とともに代替電源からも動作できること。
(12)一つの電源から他への変更又は60秒間の電源のすべての中断が、装置の手動再起動を必要とせず、メモリに記憶している受信メッセージを失わないこと。
(13)全方向性の空中線を使用するときは、装置の性能を大きく低下することのないように、船首と船尾方向に−5°までの、さらに左右舷方向には−15°までの妨害物がないような位置に空中線が置かれることがのぞましい。
(14)方位の安定化した空中線を使用するときには、装置の性能を大きく低下することのないように、すべての方向に−5°までの妨害物がない位置に空中線が置かれることがのぞましい。
(15)全方向性の空中線に対しては、妨害物、特に2°以上のシャドーセクタの原因となる空中線から1m以内の妨害物は装置の性能を大きく低下する可能性がある。
(16)指向性の空中線に対しては、妨害物、特に6°以上のシャドーセクタの原因となる空中線から10m以内の妨害物は、装置の性能を大きく低下する可能性がある。
 
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図2・14 インマルサットEGC設置







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