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4・8 電磁両立性(EMC)
4・8・1 EMCとはなにか
 テレビ、ラジオ、レーダ等は電波を利用する機器であるが、蛍光灯、コンピュータ、電動機、テープレコーダ等の電波を利用しない機器からも電波が放射されている。我々は無数の電波が飛び交わる環境のなかで暮らしているのでお互いに妨害電波を発射しない注意が必要である。また、ある程度の妨害電波に耐えられる電子機器を製作する必要もある。
 IECの定義による電磁両立性、Electro Magnetic Compatibility(EMC)は「許容できないような電磁妨害波を、いかなるものに対しても与えず、かつ、その電磁環境において満足に機能するための機器・装置又はシステムの耐力」としている。
 図4・20にEMCの槻念を示す。EMCを研究する学問領域を環境電磁工学と呼ぶ。
 
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図4・20 EMCの概念と環境電磁工学
 
図4・21に示すように妨害波は種々の経路を通って被妨害機器に影響を与える。電源線や信号線を伝わる伝導妨害と電波による空間波妨害に大別されるがこれらの妨害が複合して影響を与える場合も多い。EMCではある機器から発生する妨害波のレベルを国際的に規制している。
 ある機器が妨害波を受けた場合の妨害波排除能力をイミュニティと呼ぶ。イミュニティは医学の免疫の用語から引用している。ある機器に妨害波を加えて耐えられる機器ごとに必要なイミュニティレベルが国際的に取り決められている。
 
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(1)
空間伝搬
(2)
電源線などによる放射電磁界のピックアップ
(3)
電源線などによる導波伝搬(伝導伝搬)
(4)
近接線路間の静電的・電磁的結合伝搬
図4・21 妨害波の経路
 
EMC規格と規制
(A)EMC国際規制:
 EMCを維持するために国際及び国内組織により規制が行われている。国際的にはIEC(国際電気標準会議)のTC77専門委員会で基本的及び共通的な規格を制定している。IECが支援している。国際放送連合、電気事業国際関連機関等が集まり1950年に組織化された国際無線障害特別委員会(CISPR)は妨害波発生の許容値や測定法等具体的な機器の規格や規制を国際的に取り決める組織である。CISPRには運営委員会WG1(共通エミッション規格)の他にSC−A〜SC−Gの7つの小委員会があり、それぞれの分野での許容値、測定法などを国際的に審議している。
CISPR小委員会(SC):
SC−A;無線妨害の測定及び統計的手法
SC−B;工業・科学・医療用高周波装置に関する妨害
SC−C;電力線、高電圧機器及び電気鉄道に関する妨害
SC−D;自動車及び内燃機関に関する妨害
SC−E;無線受信機に関する妨害
SC−F;家庭用機器、工具、照明装置及び類似機器に関する妨害
SC−G;情報技術装置に関する妨害
 各分野における機器が発生する「妨害波特性の規格」と「イミュニティ特性の規格」をCISPRで決定した結果により各国が国内規制をしている。
 「イミュニティ」とは医学用語の免疫からとった呼び名で、ある機器が妨害波にどれだけ耐抗できるかの能力を表す量である。最近の電子素子はLSI化されて高集積度で小電力動作をするのでイミュニティ・(Immunity)が弱くなっている。
 船舶のEMCはIEC60945で規制されている。
(B)欧州連合(EU)規制:
 ヨーロッパの国々が連合して欧州連合規格(EN規格)を制定する動きが始まり、1996年1月からEMC指令と呼ぶEN規格に加盟国が合格することを義務づけることになり、認定された製品にCEマーキングと呼ぶ認定証を添付することになった。
(C)日本のEMC規制:
 わが国のEMCは昭和20年代頃からラジオに送電線のコロナ放電が妨害して対策をとることから始められたといわれている。国内法の電波法や電気用品取締法により規制を行ってきたが、年々EMCが社会的問題として増大し、貿易に国際的な相互認定の問題もあり、政府及び民間の諸団体でEMCを取り扱うようになった。また、製造物責任法(PL法)が施行されてEMCへの社会的関心がますます強くなってきた。
 IECに対応する日本工業標準協会調査会(JISC)、CISPRに対応する総務省電気通信技術審議会のCISPR国内委員会等が国際規格との整合を行う窓口となっている。JISCではIECl000シリーズの基本及び一般規格を日本標準規格、JIS化する作業が行われている。
(D)国内でEMCを審議する主な機関:
 不要電波問題対策協議会(EMCC);総務省が主官庁となり、他の官庁、関係諸団体、学識経験者等で構成する組織で、昭和62年から活動している。企画、用語、妨害波、イミュニティ及び広報の委員会を持つ。EMCで携帯電話がベースメーカなどの医療器に及ぼす影響を報告して社会的に大きな反響を起こした。
 電波障害問題調査検討会;経済産業省が主官庁となるEMCの調査検討会で、計測器、コンピュータ、ワープロ、ボタン電話、医療用電子機器、産業ロボット、鍛圧機械、工作機械の8つの作業部会で調査をしている。
 情報処理装置等電波障害自主規制協議会(VCCI);情報処理装置の製造会社が他の電子機器に妨害を与えないように自主規制を協議する団体で、昭和60年から活動している。コンピュータ等EMC認定を合格した機器に認証マークを発行している。外国のEMC認証機関と相互認証を行っている。
 (財)日本適合性認定協会(JAB);経済産業省と国土交通省の認可によりJISや国際規格への適合性評価に係わる審査登録機関、認証機関、試験所の認定及び審査員の養成と登録をする機関でEMC認定に関与する。
 この他、EMCに関係する法人、会社等が個々にEMCに関する調査検討会を持ち活動をしている。
 EMCの認定には電波暗室等の高額な設備を必要としたり、多様な妨害に対する測定法や評価基準の設定等未解決で難しい問題がある。国際規格と我が国固有な条件によるEMC制定基準の相違等があり、関係者が取り組んでいる現状にある。







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