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1・3 電子素子と電気部品
1・3・1 電子工学と電気工学の相違
 総ての物は原子と呼ぶ小さな粒子の集まりで形ができている。1個の原子は原子核とそのまわりを回る電子に分解できる。原子核の中には陽子、中性子及び中間子が入っている。1個の陽子はプラスの電気量を持ち、電子1個のマイナス電気量と釣り合って原子が中性になっている。中性子と中間子は電気量がなく、中性である。原子には水素のように軽いものから鉄や鉛のように重いものがある。原子の質量は原子核の中の粒子の数で定まり、質量が大きな原子の原子核内には沢山の粒子があり、周りを回る電子の数もそれに釣り合って沢山の数が存在する。
 1番軽い原子は水素である。水素は図1・22に示すように原子核内の1個の陽子とその周りの軌道上を回転している1個の電子で構成される。プラスとマイナスが釣り合って電気的に中性な水素ガスとなり、帯電していないのでものを吸い付けることはない。電子工学は物質の内の電子や陽子の動きまでを微視的に解析して利用するが、電気工学では電気の性質を外部から見て電圧、電流、抵抗として巨視的に取り扱う。
1・3・2 電子軌道と帯電
 
図1・22 水素原子の構造
 
+帯電
-帯電
 
図1・23 帯電の原理
 
 図1・23に水素原子が帯電する原理を示す。水素原子は1個の陽子と1個の電子が釣り合って外部から見ると電気的性質を示さないが、軌道上の電子を取り去ると陽子が残りプラスの性質(帯電)が現れる。逆に外から電子を加えるとマイナスが多くなり原子はマイナスに帯電する。ものが帯電する原理は陽子が多いときにプラスとなり、電子が多いとマイナスの性質を持つことから説明できる。琥珀やガラスを擦ると電子が逃げたり、加わることから帯電してものを吸い付けるようになる。
 銅、鉛などの質量が大きい原子は沢山の陽子と電子で構成されている。このときの電子は原子核の周りの複数の軌道に乗って回っている。軌道上の1番外側の軌道上の電子は移動しやすい性質があり、電気的及び化学的な反応を起こす電子なので、価電子、核外電子又は外核電子等と呼ばれている。
 図1・24に銅原子の原子核(陽子)と電子の配置を示す。電子の軌道は原子核に近いKからL、M、N、・・・と名前が付けられおり、それぞれの軌道に入れる電子の数が決まっていることをパウリが発見してパウリの禁止則と呼んだ。パウリの禁止則を満たす電子の数を持つ原子は電気的に安定して絶縁状態となる。銅の電子は29個あるので外側の電子は1個存在する。銅原子は安定状態になるためこの電子を容易に放出するので電子が流れ出て電流となる。導体は電子の移動が容易な材料といえる。
 電子はマイナス極性なので電子の流れと逆向きが電流の流れる向きと定義される。
 
図1・24 銅原子の陽子と電子
 
 電子工学的に見ると電子が移動することを電流と呼ぶ。1個の電子は非常に小さくて軽い粒子である。電子の質量は約9.12×10−31kg、電気量は約1.6×10−19クーロンである。1秒間に1019個の電子が移動すると1アンペアの電流になる。
 図1・25に導体と絶縁体の内を電子と陽子が移動する様子を示す。導体中の電子はプラス極へ、陽子はマイナス極に向かい移動するので電流はプラス極からマイナス極へ流れる。絶縁体中では電子と陽子が結合して離れないので電流が流れない。
 原子核に近い軌道からK番目の軌道に入る電子の数はパウリの禁止則から
 
n=2K2 (1・37)
 個を満たすときその原子は安定状態となり、電気的絶縁体となる。逆に電子が少し不足又は過分で電子が移動しやすい原子は導体となる。
 
電流 導体(銅、銀、アルミ)
絶縁体(ガラス、木、陶器)
 
図1・25 導体と絶縁体中の電子と陽子
 
1・3・3 半導体とデバイス
 電子素子をデバイスという。図1・26に半導体の核外電子(価電子又は外核電子とも呼ぶ)の配置を示す。
 
図1・26 半導体の核外電子配置
 
 パウリの禁止則により8個の核外電子で安定する軌道上に4個の価電子を持つ材料が半導体である。ゲルマニゥム、シリコン、炭素等の原子は半導体である。半導体は電子を取り去ることも、逆に電子を外部から入れることも容易な原子といえる。このため抵抗率が図1・27に示すように導体と絶縁体の中間、10−5〜105(Ω・m)なので半導体と呼ばれる。半導体のままでは電気をよく流せないのでトランジスタを造るには不純物材料をごくわずか加えP型及びN型の半導体を製造する。
 
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図1・27 導体、半導体及び絶縁体の抵抗率(1m2立方体の抵抗)







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