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2.3.3 保護
 短絡を含む過電流保護装置の選定は配電計画上最も重要な事項である。
 配電回路保護の目的は、配電線あるいはこれにつながる電気機器の故障に対して故障回路を安全に切り離し、故障の波及範囲をできる限り局限することにある。
 保護装置は、短絡電流及び過電流を充分に遮断でき、負荷が要求する給電条件の程度、回路における配列状態、経済性などにも充分な配慮が必要である。
(1)回路の保護
 配電回路の短絡電流を含めての過電流保護として使われる遮断器やヒューズの備え付けについては次のように規定されている。
(船舶設備規程)
(a)自動しゃ断器は、回路の過負荷電流及び短絡電流を異状なくしゃ断できるものであること。ただし、用途に応じて管海官庁が承認したものについては、過負荷電流又は短絡電流のいずれかを異常なくしゃ断できるものでよい。
(b)負荷を制御する配電盤には次の器具を備えること。
 
配電方式 器具
直流2線式
交流2線式
各極ヒューズを有する2極開閉器又は過負荷引きはずし装置を有する連動2極自動しゃ断器
直流3線式 正負2極にヒューズを有する3極開閉器又は正負各極に過負荷引きはずし装置を有する連動3極自動しゃ断器
直流単相3線式 中性極以外の各極にヒューズを有する3極開閉器又は中性極以外の各極に過負荷引きはずし装置を有する連動3極自動しゃ断器
交流三相3線式 各相にヒューズを有する3極開閉器又は2相に過負荷引きはずし装置を有する連動3極自動しゃ断器
交流三相4線式 中性線以外の各相にヒューズを有する3極開閉器又は各相に過負荷引きはずし装置を有する連動3極自動しゃ断器
 
(c)電路の負荷電流が300アンペア(蓄電池電路にあっては、600アンペア)を超える場合には自動しゃ断器により保護しなければならない。
(NK規則)
(a)直流回路の正極と負極、交流回路の各相には、充分な定格遮断容量をもつ短絡保護装置を備えること。
(b)各回路には、次の過負荷保護装置を備えること。
(i)二線式直流回路又は単相交流回路には少なくともいずれかの極に1個。
(ii)三線式直流回路には両外線に各1個。
(iii)三相交流回路には少なくともいずれかの2相に各1個。
 ただし、三相四線式交流回路には各相に対して各1個。
 また、始動器内に過負荷保護装置をもっている電動機回路などの場合は、短絡保護のみを行えばよい。また、定格電流が200Aを超えるヒューズは、過負荷保護用に用いてはならない。
(2)選択遮断方式
 電力供給に最大の信頼性を維持するためには、回路に短絡を含む過電流が流れたとき、故障回路に直接関係のある保護装置だけが動作し、健全な回路には給電が維持されることが理想である。
 このような目的にそって遮断動作をする保護方式を選択遮断方式という。
 この方法では給電線の大電流事故の際、発電機用遮断器は開極動作をせずに、その事故に最も近い給電線の遮断器(又はヒューズ)だけが開極動作をすることが理想的である。
 したがって、給電回路の遮断器(又はヒューズ)と発電機用遮断器は時間的に協調がとれていることが必要である。たとえば、給電回路の遮断器が瞬時引きはずし特性をもっていれば、発電機用遮断器は短時限引きはずし特性をもつことが必要であろう。
 給電回路に配線用遮断器(MCCB)が2段以上に縦続接続される場合、電源に近い遮断器ほど時限が長いことが望ましい。
(3)後備遮断方式
 選択遮断方式は、保護の目的からすれば理想的といえるが、高価額となるので、これに代わるものとして後備遮断方式がある。
 後備遮断方式は、電源に最も近い遮断器(発電機用を除く)だけがその点での短絡電流以上の遮断定格をもち、それから負荷側の遮断器は、その点の短絡電流よりも小さな遮断容量の遮断装置で構成する保護方式である。
 後備する遮断器は、後備される遮断器の動作より遅れないで、できる限り速やかに動作すべきであり、必然的に瞬時引きはずし装置をもつことになる。この引きはずし装置の設定は、後備される遮断器の定格遮断容量の90%以下とすることが望ましい。
 後備遮断方式を採用する場合には、一般にNK規則で規定されているように、次の場合において負荷側の遮断器は過度の損傷を受けることなく引き続き使用し得るものでなければならない。
(a)後備遮断器又はヒューズが短絡電流を遮断した場合。
(b)負荷側の遮断器で短絡電流を投入し、遮断を後備遮断器又はヒューズで行った場合。この要求を満足させるためには後備遮断器又はヒューズと負荷側遮断器の組合せは、それぞれの遮断器の遮断時間又はヒューズの溶断時間を充分考慮して決定し、遮断試験によって有効に後備遮断が行われることを確認し、船舶に適用する規則の承認を得た組合せでなければならない。
 例えば後備遮断器の遮断量が充分に大きな場合であっても定格電流容量、従ってフレームサイズが負荷の遮断器に比べて大きすぎると、後備遮断器の遮断時間が必然的に長くなるため、後備遮断器で短絡電流を遮断した場合、負荷側の遮断器が過度の損傷を受け引き続き使用出来なくなる場合がある。
 また船舶に適用される規則によっては後備遮断方式が認められる範囲に制限がある場合があるのでこの点注意しなければならない。
(4)優先遮断方式
 船舶が航海中、運転中の発電機が過負荷になった場合、又は過負荷になる恐れがある場合、重要負荷への給電の持続を確保するため、重要でない回路を自動的に切り離し発電機の遮断器(ACB)がトリップし全給電が停止することを防止するいわゆる優先遮断方式を採用しなければならない。この具体的な方法としては、まず発電機電流を過電流継電器によって検出し、この継電器の限時動作を数段階に設定し、重要でない負荷を順次に優先遮断することが行われる。しかし、この方式は短絡などの大電流事故に対しては、正常な順序では期待できない。
 
図2.12 非重要負荷の優先遮断方式例
 
 図2.12はその系統の一例を示す。
 なお、遮断器の電流対時間の設定値は、一般に、次の秒差が採用される。
 重要でない負荷の優先遮断用遮断器は発電機定格電流の110〔%〕で、
第1段階に対して 5秒
第2段階に対して 10秒
第3段階に対して 15秒
 優先遮断すべき具体的な負荷の選定は、船の諸装置がどうであるか、すなわち、発電機容量の余裕などによって異なり、一概に決定することは困難であるが、通常の貨物船にあっては、電力調査表から判断して、第1段階の遮断のみで充分な場合が多い。
 非重要負荷の考え方は、各船級協会によってある程度の相違があるので注意しなければならない。たとえば、LR規格の場合、冷凍貨物装置に対する回路は最後の段階(第2段階又は第3段階)で遮断してよいことにしており、BVでは、場合によって照明装置を減らす手段を設けるように規定している。また、ABSでは、燃料油移送ポンプ、燃料油吸上ポンプ、消防兼用の雑用水ポンプ、ビルジバラストポンプ、ビルジ溜り専用でないビルジポンプなどは重要負荷とみなして、それらの回路を遮断すべきでないと規定している。
 上記の各事項は、発電機容量決定上重要な事項であるので注意しなければならない。
 通常、優先遮断すべき装置としては、下記のものを選定するが、この際には発電気容量を勘案して決定すべきであり、船主並びに船級協会の承認を受けていることが必要である。
 空気圧縮機、ウインドラス、バラストポンプ、清水ポンプ、飲料水ポンプ、空調用冷却機、賄室用諸装置、工作機など。
 なお、空気圧縮機、ウインドラス回路を第1段階で遮断することは、出入港時における船の安全上より見て、絶対的に重要負荷と見なす考え方もあるので、注意しなければならない。一方、出入港時に揚貨装置に給電されていることもあるが、これらの回路は遮断すべきであるとの要求がある場合がある。しかし、木材運搬船において荒天時荷役装置を使用して船の安全を図っている場合には、これら装置の電源を遮断すべきでない場合もあるので、船主と充分な協議が必要である。
 消費電力が極めて少ない非重要負荷を優先遮断させても、発電機容量に殆ど影響がないので、むやみに優先遮断装置を設けることを避けた方がよい。
 また、非常配電盤から非常回路以外の回路へ給電している場合には、非常負荷への給電を確保するために、これらの回路を優先遮断する装置を設けなければならない。







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