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8. 電気材料
8・1 概要
 電気材料を大きく分類すれば次のようになる。
(1)導電材料
(2)半導体材料
(3)絶縁材料
(4)磁気材料
(5)その他
 本書ではこれらについて概念的に説明する。
 
8・2 導電材料
 電気を流す性質を有する物質を導電性がある物質といっているが、気体、液体、固体などの導電現象があるものについて簡単に説明しよう。
 
8・2・1 気体
 気体は通常空気中等のように導電性はないが、これに大きなエネルギーが外部から加われば、気中放電という形で導電現象が現れる。X線や放射線等があり、また、大きなエネルギーのものでは雷がある。これらは火花放電(スパーク放電ともいう。)であって、また、スイッチを切ったときや電車のパンタグラフと架線との間の放電などはアーク放電である。このようにして空気中でも導電性ができるのである。ついでながらコロナ放電、グロー放電について説明しよう。コロナ放電に二つの電極間の電界の強さがしだいに大きくなって、コロナ放電、グロー放電、アーク放電にうつってゆくが、そのうち電極の部に局部的に強い電界が生ずれば、その部分だけが強電界となり不平等電界を形づくり、その結果その部分にコロナ放電が発生する。次にグロー放電現象はナトリウムランプ、水銀ランプ、ネオン管などの点灯時によく見る現象であって、要するに気体の圧力が小さいときで、電流も小さく、気体の温度も低いときにグロー放電となるが、これがさらに増大し、電流も増し、温度も1000度以上数千度まで上昇すれば、熱電子が活発に動きアーク放電となる。これを利用したものが放電灯である。
 
8・2・2 液体
 液体にも変圧器油のように導電性のないものと、食塩水のように導電性のあるものとがある。食塩水の場合は、食塩(NaCl)を水溶液に入れれば、正に帯電したナトリウムイオン(Na)と負に帯電した塩素イオン(CI)とに分離し、水溶液中の電極間に直流電圧を加えると、Naは陰極の方へ移動し、陰極の負電荷と中和し、CIは陽極の方へ移動して陽極の正電荷と中和するために、食塩水中に正負両電荷の移動による電流が流れる。(4・1参照のこと。)
 以上液体の電気伝導の一例を述べたが、要するに溶液中に正・負の電荷ができると電流が流れる。その流れ具合は、正負両荷電体の濃度とその動きやすさの積に比例し、また、その温度が上昇すると、電気抵抗が減少する傾向があるので、温度係数は一般に負であるといえる。この溶液(電解質の溶媒といっている。)には水のほか、アルコール、過酸化水素、液体アンモニア等がある。
 
8・2・3 固体
 固体導電材料は、機能面からは導電材料、電線材料、抵抗材料及び特殊導電材料などに大別されるがその用途によって細かく分類すれば次のようになる。
(1)導電材料
(a)銅 銅は銀についで体積抵抗率が小さいものであるから、電線材料の主流をなす、普通の電線、ケーブル、コード等に使用する銅は軟銅線であって、導電率は98〜100%である。このほかに、硬銅線又は半硬銅線等があって、送電線や架空トロリー線などに使用され、導電率は96〜97%である。
(b)銅カドミウム合金 銅にカドミウムを1.2〜1.4〔%〕を加えたもので、引張強さ45〜65〔kg/mm2〕、導電率85〜90〔%〕である。送電線、架空トロリー線、通信線、空中線、バインド線等に用いる。
(c)リン青銅 極微量のりんを含んだ銅に約10〔%〕以下の錫を加えたものである。引張り強さ30〜80〔kg/mm2〕導電率30〔%〕以下である。導電性のばね材料としてスイッチ計器類等に用いる。
(d)銅ベリリウム合金 銅にベリリウムを約2〔%〕加えたものである。導電率は25〔%〕程度であるが、常温加工、熱処理などを適当に行えば、引張強さ130〔kg/mm2〕に達し、弾性が木きく、温度が350〔℃〕に達しても物理的変化がなく、耐摩耗性、耐食性にすぐれている。その故に、スイッチの接触部、点溶接機の電極、その他りん青銅に代って使用されている。
(e)銅銀合金 銅に銀を3〜5〔%〕含んだもので、適当な熱処理を施すと引張強さ70〜100〔kg/mm2〕、導電率70〜90〔%〕にもなる。通信線、リード線、真空管の陽極等に用いる。
(f)黄銅 銅と亜鉛の合金で、その割合によっていろいろあるが、引張強さ35〜56〔kg/mm2〕導電率30〔%〕で加工しやすく、ある程度耐食性もあり、船用電気機器などボルト、ナットに至るまで広く使用されている。
(g)アルミニウムとその合金 アルミニウムは銅についで体積抵抗率が小さく、導電率は銅の約62〔%〕である。船舶では腐食性の点で銅より劣るため、それほど使用されていないが、特殊な方法を講じて耐食性を増して使用している。この利点は比重が銅の約30〔%〕であるから重量を問題にするところでは使用されている。
(h)裸電線 船舶では、電線を被覆しないで裸のまま使用することは極く稀で、機器の接地導線、空中線などがある。
(2)絶縁電線
(a)絶縁電線 裸銅線を何らかの方法で絶縁物及び保護被覆材料を施したものである。電気機器の巻線等に使用する銅線の絶縁材料には、最近絶縁材料の進歩につれていろいろ新製品ができているが一応種類を述べれば、綿巻線、絹巻線、(JISC3202−94エナメル線)、エナメル紙巻線、エナメル綿巻線、エナメル絹巻線、ホルマール線、ガラス巻線、シリコン線、テフロン線、ウレタン線、ポリエステル線、ポリエチレン線、エポキシ線等がある。
 それぞれ用途に応じて、これらの種類のうちから適当なものを選ぶ。例えば上記中のホルマール線はポリビニルホルマール樹脂を主体とした絶縁材料で、エナメル線に比べ機械的強度が大きく、耐油性、耐薬品性がすぐれ、絶縁強度及び耐熱性も大きいことで電動機の固定子巻線、変圧器の巻線等に用いられている。このほか、シリコン線以下記載の合成樹脂系の絶縁電線についてもポリビニルホルマール線と同様に耐熱、耐水、耐薬品、耐溶剤性などにすぐれた面がある。
 そのために電気機器の小形化が進み、より経済的な製品が生産される一因といえる。
(b)配線用ケーブル 船舶用としては、船用電線規格(JISC3410:1999船用電線)がある。これには絶縁体の種類にはEPゴム(エチレンプロピレンゴム)、けい素ゴム、ビニル、難燃架橋ポリエチレンなどがある。これらの被覆方法及び材料によってケーブル、コード及び絶縁電線の種類がある。詳細については上記規格を参照のこと。
 また、特殊の配線用として高周波ケーブル及びコード、同軸ケーブル及びコード、熱電対用補償電線等がある。
(3)抵抗材料
(a)銅マンガン合金(マンガニン) 銅83〜86〔%〕、マンガン10〜13〔%〕、ニッケル1〜4〔%〕からなる合金である。体積抵抗率は41〜47〔μΩcm〕、常温付近の抵抗の温度係数は1×10−5〔℃につき〕程度で、非常に小さいため、計器類の抵抗類に多く使用されている。
(b)銅ニッケル合金(コンスタンタン) 銅55〔%〕、ニッケル42〜48〔%〕からなる合金で、体積抵抗率46.0〜52.0〔μΩcm〕、抵抗の温度係数1.5×10−5〔℃について〕である。耐熱性、耐食性に富んでいるので、銅あるいは鉄と組合わせて熱電対の補償電線として船舶には使用されている。
(c)ニッケルクロム合金(ニクロム) ニッケルとクロムを主成分とした合金で、体積抵抗率が大きく、耐食性、耐熱性があり、高温でも酸化されにくく引張強さも大きいので電熱線として用いられる。詳細はJISC2520−99電熱用合金線及び帯の規格参照のこと。
(d)アルメル ニッケルにマンガン2.5〔%〕、鉄0.5〔%〕を加えた合金である。体積抵抗率33〔μΩcm〕、抵抗の温度係数は1.2×10−3〔℃につき〕である。これは上記(c)の一種であるクロメルと組み合わせる熱電対の材料としている。これは600〜1200〔℃〕の温度測定に用いられる。
(e)その他 鉄炭素合金、鉄ニッケル合金、鉄クロム、炭素抵抗器、カーボンパイル、液体抵抗材料等がある。
(4)特殊導電材料
(a)接点材料 電気回路の頻繁な開閉が行われる接触点の材料は、非常に難しい問題がある。接触抵抗小さく、消耗は少なく、アークが早く消え、かつ、長期間にわたって十分機能を果さねばならない等の条件を備えねばならない。現在では、(1)銀系接点材料として銀90〔%〕、金10〔%〕の合金(GS合金又はCP3の合金)等、(2)金系接点材料として金69〔%〕、銀25〔%〕、プロトアクチニウム6〔%〕の合金(CPI)等、(3)白金系接点材料としては純白金等、(4)タングステン系接点材料としてはタングステン、タングステンと銀の合金、タングステンと銅の合金及び炭化タングステンと銀との焼結合金等、(5)炭素系接点材料として炭素、炭素と銀との焼結合金等、以上述べたようにいろいろあるが用途、使用頻度に応じて適当に選ぶ必要がある。
(b)炭素ブラシ 直流機や誘導電動機などで、回転している導体と外部回路との接続するために使用される。これは炭素を主成分としその他種々の成分を混ぜ、焼き固めたものでいろいろの種類がある。その中から用途に適したものを選ぶ必要がある。
(c)ヒューズ ヒューズは電気回路に過電流が流れた場合、その電流を遮断して回路を保護する一種の自動遮断器である。ヒューズの性質としては電気抵抗が少なく、一定値以上の電流が流れれば定時間内に溶断し、確実に電流が切れるような材料でなければならない。材料としては亜鉛、鉛、鉛と錫の合金又はこれにビスマス(Bi)やカドミウム(Cd)を入れたもの等がある。
 このほかにタングステンや銀などの単体金属も使用される。
(d)ろう付け材料 ろう付け材料は、ケーブルその他金属部分を互いに接着するために用いられる。これには軟ろうとしてはんだと呼ばれる錫と鉛の合金(錫40〜60〔%〕、融点210〜250〔℃〕)のものが用いられる。また、硬ろうとしては銀ろうと黄銅ろうとがある。前者は銀と銅、後者は銅と亜鉛が主成分で、いずれも融点が高く前者は700〔℃〕ぐらい、後者は800〜900〔℃〕ぐらいである。作業ははんだ付けのように簡単にはできないが、強度及び耐食性がすぐれているので器物の構造部分の接着に用いられる。







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