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はしがき
 
 近年船舶の設備は益々近代化し、それにつれて複雑化しつつある。然るに船舶の設備の殆んど全部といってよいほど電気が関連し、電気艤装工事を必要とするものである。この意味において、本テキストは初めて船舶電装士を心掛けられる方々のための入門書として船とはどんなものかの概要を船体、機関、電気の3部門にわたって言及したので、これにより船舶の概念を修得されたい。
 更に詳しいことについては、他の専門書によって学ばれたい。
 
1. 一般
 
1.1 安全守則
 安全衛生管理は労働安全衛生法及び同規則によるものはもちろんであるが、各社ともそれぞれ安全衛生管理委員会を組織し詳細な安全衛生規則を定めて、強力に安全運動を推進している。
 本書では紙面の都合もあり、電装工事に関する項目に重点を置いたが、災害防止一般の注意事項をゆるがせにはできないので、実際の工事に当たっては必ず上記の各規則を熟読遵守されたい。
 安全管理は各個人の自覚が最終的な決め手であることを特記すると共に安全五原則と呼ばれるものを掲げておく。
○安全はすべてに優先する。
○危険な作業はしない、させない。
○災害要因の先取り
○ルールを守る。
○みずから努力する。
 
1.1.1 安全心得一般
(1)作業場は常に整理整頓しておくこと。
(2)安全帽、安全靴、手袋、命綱、耳栓、射光眼鏡、脚絆等、その作業に適した安全保護具を使用すること。
(3)非常の場合を除き、活線作業は行わないこと。
(4)汗や湿気を帯びた衣服で作業しないこと。
(5)金属製工具、懐中電灯、導電性材料の落下による電撃や短絡事故を生じないよう注意すること。
(6)亜鉛めっき金物のガス切断や溶接作業には、中毒防止保護具を使用するとともに、換気にも留意すること。
(7)玉掛け作業は、玉掛け技能有資格者が行うこと。
 
1.1.2 感電防止
(1)活線部、機器の帯電露出部に近い所での作業は、注意すること。でき得れば電源を切って作業すること。
(2)非常の場合やむをえず活線作業をするときは、下記の注意を払うこと。
(a)十分な照明をおこなうこと。
(b)一人で行わないこと。非常の際、直ちに電源を切るよう人員を配置しておく。
(c)作業者は、腕時計、指輪ネックレス等、金属製のものを身につけないこと。
(d)作業者は、船体から確実に絶縁すること。
(e)作業工具は、ゴムテープ等で絶縁しておくこと。
(f)できるだけ帯電部と作業する部分との間に絶縁性の介在物を入れること。
(g)できるだけ片手で作業すること。
(h)できるだけ両手にゴム手袋を使用すること。
(3)スイッチ類の操作時には、下記の注意を払うこと。
(a)その回路に関しては、誰も作業していないこと。
(b)その回路の機器は、すべて通電しても差し支えない状態にあること。
(c)回路の保護装置は、完備されていること。
(d)両手操作の構造以外は、片手(右手)で操作すること。
(e)ナイフスイッチは、速やかに操作すること。
(f)連絡、合図、確認を確実に行うこと。
(4)コンデンサに触れるときは、事前に必ず端子間を短絡すること。
(5)停電中工事を行うときは、電源スイッチに「送電禁止」、「作業中」等の表示をすること。
 
1.1.3 工具の安全使用
(1)工具は、使用前に必ず点検すること。
(2)電気工具は、アースを完全にとること。
(3)電気溶接機の使用時は、電撃防止器の作動を確認すること。
(4)ドリルの移動は、きりを外して行うこと。
(5)ナイフでケーブルの皮むきを行うときは、厚手の手袋を用いること。
(6)工具類は、使用中以外、所定の場所に格納しておくこと。
 
1.1.4 爆発・火災防止
(1)ペイント倉庫、バッテリー室等爆発性ガスが蓄積しているおそれのある場所で作業する時は、必要に応じガス検知及びガスの排除をおこなうこと。
(2)やむをえず爆発の危険がある場所で使用する工具は、黄銅又は、ベリリウム銅合金のものとすること。
(3)溶接及びガス切断作業を行うときは、裏面の安全性に注意すること。
(4)機関操縦室、無線室等電気機器が多く集中している場所で、火気を使用するときは、炭酸ガス消火器を準備すること。
(5)火災発生の場合は、すみやかに周囲の人に知らせること。
(6)火災発生の際、万一海水を活きた回路に注げば、電流が流れ、消火に努めている人が感電するので注意すること。
 
1.1.5 高所での安全作業
(1)2m以上の高所の作業では、必ず命綱を使用すること。
(2)足場、照明、作業環境等を作業前に十分点検すること。
(3)マスト、ポスト等暴露部での高所の作業は、悪天候時に行わないこと。
(4)工具、材料等を落下させないよう注意すること。
(5)ガス切断、溶接作業等を行うときは、下部に十分注意すること。
(6)血圧その他、身体に故障のある者は高所の作業をしてはならないこと。
 
1.2 電気艤装工事の種類
 工事の種類の概略を表1.1に示す。
 
表1.1 電気艤装工事の種類
工事の種類 記事
位置出し 電路の位置出し 墨出し、マーキングともいう。
機器の位置出し
電路金物取付工事 一般工事 ハンガ、ランナバー、電線馬、貫通金物などの取付け。
特殊工事    電線管工事 フレキシブルチューブエ事を含む。
ダクト工事 トランク工事を含む。
保護おおい工事 ケーブル布設工事ののち施工される。
船体伸縮部工事 エキスパンションボックス、ドレッサージョイント。
機器台取付工事 機器台金物の溶接工事。
ケーブル布設工事 ケーブルの展張、貫通、固定。
機器装備工事 発電機及び付属装置  
蓄電池  
変圧器  
配電盤及び制御盤  
配線器具  
照明器具及び付属器具  
航海灯、信号灯、探照灯  
電動機及び付属装置  
電熱器  
通信、航海、無線装置  
雑装置  
 
1.3 電気艤装工事の流れ
 工事の順序はおおむね表1.1の配列順であるが、準備工事、付帯工事も含めた作業の流れは、次のようになる。ただし、工事の都合で多少変ることもある。
(1)工事予定表の作成(表1.2参照)
(2)工作用図面の入手及び調査
(3)工事用諸材料の入手及び搬入
(4)工具の準備、搬入及び設置
(5)電路及び機器の位置出し
(6)電路材料及び機器台の溶接取付け及び塗装
(7)ケーブルの入手、切断、搬入及び配置
(8)ケーブルの布設、隔壁貫通、バンド掛けなどによる固定、接地及び塗装
(9)機器の入手、搬入、設置、取付け固定及び接地
(10)ケーブルの機器内導入、線端処理及び結線
(11)試験用材料の準備、搬入及び設置
(12)点検、調整、試験計測、検査及び運転
(13)海上予行及び公試運転
(14)予備品引渡し及び完成検査
 
表1.2 工事予定表の例
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