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4. 琵琶湖・淀川の治水
 淀川流域は、豊かな水の恵みによって、私たちや多くの生きものの命をささえてきました。けれど、その一方で、数多くの大洪水を起こし、人々の命もうばってきました。
 そこで、昔から多くの人たちが、洪水をふせぐための工事を行ってきました。
 もっとも古い治水工事は、仁徳天皇(にんとくてんのう)がつくった『茨田(まんだ)の堤(つつみ)』といわれています。
 奈良時代の僧、行基(ぎょうき)は、各地で布教活動(ふきょうかつどう)とともに池や溝(みぞ)を掘り、橋をかけています。淀川にも、行基(ぎょうき)のかけた橋がいくつかあり、行基が建てたといわれる寺院も残っています。
 近世になると、豊臣秀吉(とよとみひでよし)が、天下統一の目的と淀川の治水のために、大規模な河川工事を行いました。上流では、伏見に太閤堤(たいこうつつみ)をつくり、下流では、文禄堤(ぶんろくつつみ)をつくり、大阪城下のまちづくりのために、堀川(ほりかわ)を掘りました。
豊臣秀吉
 
 江戸時代、徳川綱吉(とくがわつなよし)の時代には、河村瑞賢(かわむらずいけん)がいくつもの治水工事を行いました。淀川では、安治川(あじがわ)をつくりました。
 その安治川を掘った土でできたのが、天保山(てんぽうざん)です。
 また、淀川の船の行き来に便利なように河川の工事を行いました。
 1704年に、庄屋(しょうや)の中九兵衛(なかきゅうべい)と中甚兵衛(なかじんべい)親子の努力によって、大和川(やまとがわ)の付けかえ工事が完成します。その後、大和川(やまとがわ)の洪水(こうずい)はほとんどなくなり、たくさんの新田(しんでん)ができ、米や河内木綿(かわちもめん)の特産品(とくさんひん)ができました。
 明治、大正、昭和になっても、淀川は、大洪水(だいこうずい)をくりかえしました。
 明治18年の「伊加賀切れ(いかがぎれ)」、大正6年の高槻の「大塚切れ(おおつかぎれ)」と呼ばれる堤防の決壊(けっかい)、昭和28年、台風13号による大洪水などです。
 そして、そのたびに治水計画が立てられました。
 明治時代には、政府に招かれた(まねかれた)オランダ人技術士ヨハネス・デ・レーケらによって新しい技術を使った治水工事(ちすいこうじ)が行われました。
デ・レーケ
 
 また、フランスに留学(りゅうがく)して土木技術を学んだ沖野忠雄(おきのただお)によって、大々的(だいだいてき)な治水工事がおこなわれました。
 その後、毛馬閘門(けまこうもん)や天ヶ瀬ダムなどの施設(しせつ)がつぎつぎとつくられていきます。
 現在も、安全に暮らせるよう、河川整備のための施設や護岸(ごがん)の整備が続けられています。
 
「治水(ちすい)」つてなんだろう?
 堤防(ていぼう)や新しい川をつくったり、川をさらえて堰(せき)をつくったりして、洪水で大きな被害を受けないように、川をおさめ、みんなのくらしを守ることを「治水(ちすい)」といいます。
 
 昔から、琵琶湖周辺にすむ人々は、大雨がふるたびに、洪水に苦しんできました。
 琵琶湖には、たくさんの大きな川が流れ込んでいるのに対して、流れ出る川は瀬田川1本だけで、川幅もせまく、川の底にたまった土砂で川の流れが悪くなって、琵琶湖の水があふれて、まわりが水につかっていました。大雨がふると、家や田畑を水浸し(みずびたし)にし、ひどい時には、家をこわしたり、流したりしました。それで、人々は、雨がふるたびに、川ざらえをしていました。ところが、川の流れがよくなると、下流の淀川で洪水が起こりやすくなります。それで、上流にすむ人と下流にすむ人のあいだで対立がありました。
《瀬田川洗堰(せたがわあらいぜき)》
洗堰の役目
○雨で琵琶湖の水の量が多くなると、たくさんの水を流す。
○雨がふらず水の量が少なくなると、流す水の量を減らす。
○上流と下流で洪水が起こらないように、水位を調節する。
 
堰を開けたり閉めたりする順序
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《瀬田川の砂防(さぼう)》
 土砂災害(どしゃさいがい)から人の命と財産を守ることを『砂防(さぼう)』といいます。
 砂防工事では、山に木を植えたり、谷あいに砂防ダムをつくって、土や砂が流れ出ないようにします。
 田上山(たながみやま)は、奈良・平安時代に、お寺やお城を建てるためにたくさんの木を切ってしまったために、江戸時代には、山には、まったく木がなくなってしまいました。そのため、大雨がふるたびに、山の土や砂が川に流れ込み、おそろしい洪水が何度も起こりました。
 そこで、デ・レーケをはじめ、田上山の「砂防さん」といわれた井上清太郎、近代砂防の父とよばれる赤木正雄など、多くの人たちによって砂防工事が行われました。
 今では、田上山は緑でおおわれていますが、砂防工事は、続けられています。







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