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1. はじめに
 SOLAS V章の改正等、安全を担保するために様々な機器の船舶への搭載が義務づけられている。これらの機能を集約するものとしてIBS(Integrated Bridge System)という概念が導入され、普及しつつある。しかし、IBSのように機能を統合したシステムにおいては、個々の機能の有効性を問うだけでは運用における総合的な安全を担保することはできない。設計・製造・運用の各段階を見通した検討と、これらを設計そのものや運用マニュアル等の管理に反映することが不可欠である。工業製品としてのIBSは、IECにおいてすでに標準化されているが、IBSに統合される機能の多様化に対応した見直しが必要となっている。
 IEC等での工業製品としての標準を検討する際に、船舶の運用における安全の確保が必須要件であり、まずIMOにおいて基本的なガイドラインを示す必要がある。
 
2. IMOにおけるIBSガイドライン策定の経緯
2.1 IMO/NAV47におけるフィンランド提案とこれに対する対応
 IMO NAV47(2001.7.2-6)に提出された、NAV47/4:Integrated Bridge Systems (IBS) Design and Operational Aspect (Finland)の扱いに関して、NAV47では、NAV44の決定事項「INSとIBSの間で緊密な連携を強調し、INSの確たる標準を設定するための、INSの運用と設計の標準に関するフィンランドペーパー(NAV44/INF.3)をノートし、フィンランドにNAV44/INF.3で与えられた情報を使用して将来の小委員会でMSC Circularを作る目的で要請、MSC委員会には小委員会でIBS操作面の指針を議題に含む要請をした。」 MSC70委員会ではこの項目を2001年の完了目標として小委員会の作業プログラムに加えた。
 
 NAV47小委員会は更にNAV46を振りかえって、統合化されたブリッジシステムの中の、レーダやECDISと、今 はAIS のような、異なった形態の航海装置を統合化するために切迫した必要性をオランダが提言し、この見解に同意していた事、そして合衆国が、これらのシステム(すなわち IBS 、INS、 AIS と ECDIS )の性能基準に基づいた運用を適切に考慮すべく STW 小委員会に要請したこと、修正された SOLAS V章の必要条件を満たして装備される新しい航海技術の使用を織り込んだ訓練の新しい包括的な指針が必要とされたこと、そしてメンバー国及びすべての関連国際組織、特にIECに意見/提案をNAV47に提出し、2001年の完成目標日程を念頭に心に留めておいて、問題を推進させるように要請したが、この議題項目の提案が受け取られていなかったことを指摘した。
 
 小委員会は、STW32が現在の作業予定で、この議題の項目に提出された書類がわずかであることを考慮に入れて、この議題項目の範囲を修正することが時期尚早であると考えていることを指摘した。
 
 小委員会は、IBS運用面での見地としてのMSC Circularの基礎書類としてNAV47/4 (Finland) を考え、日本からの、運用条件からの技術要件を分離すること、及び機器の任意の搭載と義務的な搭載要件を分離する、具体的な意見を考慮し、小委員会は、全体的な統合化されたシステムのガイドラインを作るために更に検討する必要があるとの結論とした。
 
 上記を考慮し、小委員会は委員会に「IBSの運用面での見地」の議題項目の完成目標日程を2002年まで延長する要請をする結果となった。
 
2.2 IMO/NAV48への共同提案
 RR75ではNAV47での議論をふまえ、IBS分科会を設置し対応することとなった。まず、NAV47におけるフィンランド提案を吟味し、ガイドラインの構成並びに内容についての意見をまとめて、日本(案)として提示することとした。スウェーデンのCapt. Benny Pettersonの来日の機会に当分科会のメンバーとの会合を持ち、日本(案)趣旨を説明するとともに議論を深めた。日本案の趣旨を考慮して、フィンランドとスウェーデンが検討を行い、共同提案文書案が作成され、NAV48に提案された (NAV48/4/2)。
 
2.3 IMO/NAV48における審議ならびにMSC76における採択
 IMO/NAV48(2002.7.8-12)においては、日本・スウェーデン・フィンランド共同提案のIBS運用ガイドラインについて、提案文書をベースに各国からの意見をふまえテクニカルワーキンググループでMSC Circular化することとなった。
 
 ワーキンググループでは、原案からIBS運用に関連する技術的問題(資料1)と訓練に関する事項を分離し、運用にかかる部分をMSCサーキュラー案とし、分離した部分を、それぞれ、国際標準検討機関、STW小委員会への回章案とすることとなった。
 
 NAV48におけるこれらの決定を受けて、MSC76 (2002.12.2-13)において、原案通り採択され、「統合化ブリッジシステム(IBS)操作・運用指針」がMSC Circular 1061(資料1となるとともに、「IBSに関連する技術的問題」(資料2:NAV48/19 ANNEX11)が国際標準検討機関へ、「IBS運用にかかる訓練モデルコース」の検討がSTW委員会に回章されることとなった。
 
3. まとめ
 航行の安全を担保する上で、IBSは重要な設備である。今回NAV48に提出し、MSC Circular化された「IBS操作・運用指針」は、従来の指針が、機器の機能要件を中心としたものであったのに対して、ヒューマンファクタを考慮した運用の重要性を示すものである。
 
 IBSにおける機能の統合においては、単なる個々の機能の寄せ集めではなく統合化された新たな機能として設計、運用する必要があることから、今後、これらについて運用におけるヒューマンファクタを十分に考慮したガイドラインの整備が必要と考えられる。







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