日本財団 図書館


7 停止性能に及ぼす諸影響の検討
 IMO第45回設計設備小委員会(DE45)におけるIMO操縦性基準策定に関する審議の結果、停止性能については暫定基準を若干修正して、停止距離は船長の15倍および大型船については船長の20倍の距離とすることになった。その判断については暫定基準のまま主管庁に委ねることになっているため、主管庁が大型船の基準を15〜20倍の船長の範囲で定める為には、停止性能推定法が必要となる。解説書には既にその推定法が示されているが、充分なものではなく、現状に即した停止性能推定法を定めることが必要になる。従って、これまでに収集した海上試験データを基に、実用的な停止性能推定について検討を行った。
 一方、停止性能は一般に船型、主機特性、外乱等の影響をかなり受けることが考えられる。我が国で収集した実船の海上試験データは、必ずしも正確な情報が全て完全にそろっているとは限らない為、データの解析に対してもより正確な外乱の情報等を把握する必要がある。従って、上記の種々の要素が停止性能に及ぼす影響を充分に検討しておくことが重要になる。そこで、停止性能について影響の大きいと考えられる以下の項目についても検討を試みた。
 まず、停止距離に及ぼす影響が大きいと考えられる主機逆転操作時間について、主としてタンカー船型を対象としたシミュレーション計算により調査した。
 次に、停止運動においては風や波などの外乱の影響が大きいと考えられることから、外力影響下での停止運動の計算により、外力が停止性能に及ぼす影響およびその試験方法について検討を行った。さらに模型実験による停止運動特性と数値シミュレーションによる運動特性の比較検討により、停止性能推定の方法について詳細な検討を行った。
 
 操縦性暫定基準の解説書付録3では、停止距離Sの推定式として次式が用いられている。
 
SAlog(1+B)+C (7.1)
 
ここで、
A:船体質量を抵抗係数でわったもの
B:停止制動前の抵抗と船が停止するときの後進推力の比
C:後進推力に達するまでの時間と初期速度の積
 
なお、係数Aについては船種および船型、係数Bについてはタービンとディーゼルの主機の違い、係数Cについては主機操作時間がそれぞれ考慮されている。これらの係数を定めることにより、停止距離を推定することができることから、操縦性能データベースを用いて平均的な停止性能を推定するための停止距離Sの近似式として以下の式を得た。
(拡大画面:4KB)
 
ここで、∇は船の排水容積、Lは船長、k'は抵抗係数、Swaは浸水面積、T'aは後進推力Tps無次元値、t'rはプロペラ操作時間(主機操作時間)trの無次元値である。k'、Swaについては、それぞれSchoenherrの近似式、Froudeの式より、次のように推定することができる。
(拡大画面:7KB)
 
ここで、νは動粘性係数、u0は後進発令時の船速である。また、T'at'rは次式のように表される。
(拡大画面:5KB)
 
さらに、ディーゼル機関に対するT'pst'rの推定式として、データベースに基づく解析より以下の式を得た。
 
T'ps=0.85×(8.638×10−5×L2−5.294×10−2×L+9.032)×10−3 (7.7)
 
t'r=1.549×10−4×L2−1.077×10−1×L+2.858×10 (7.8)
 
なお、(7.7)式および(7.8)式の適用範囲は船長104m〜322mの船である。
 
 一般に、停止性能については船の質量、船速、主機馬力、プロペラ等の要因が大きく影響を及ぼすことになる。特に停止距離は上記要因がその影響のほとんどを占めると考えられる。ところが、例えば主機がディーゼルエンジンの場合を考えると、停止運動の発令から主機を逆転して制動をかけるまでの時間は、停止距離に大きな影響を及ぼすことが考えられる。即ちプロペラ順転回転数がどの程度まで減少した時に、主機逆転のための圧搾空気を入れるかという問題があり、これは大いに人的要素が支配することになる。即ち、船長あるいは機関長の個人の判断によることになる。
 そこで、ここでは停止距離に及ぼす主機の逆転操作時間の影響についてシミュレーション計算により検討を試みた。つまり、停止運動発令からの主機逆転操作時間が停止距離にどのような変化をもたらすかについて検討を行った。本来ならば実船を対象として船型要素と主機特性を充分考慮して検討すべきであるが、模型実験結果との比較対照が必要なことから、ここでは模型船を対象として検討を行った。
 図7.1 に、ULCC船型の模型船を対象として主機逆転操作時間trを変化させた場合の航跡を初速U0が0.302m/s(実船換算8kt相当)、0.378m/s(同10kt)、0.453m/s(同12kt)の場合について示している。ここで、主機の逆転回転数はそれぞれの初期船速に対応する主機回転数の70%とした。図7.1より、trが大きくなるにつれて停止距離は長くなり、停止横距、停止方位角が減少することが分かる。
(拡大画面:40KB)
図7.1 停止運動に及ぼす主機逆転操作時間の影響
 
 次に、船型の違いによる停止距離に及ぼす主機逆転操作時間trの影響の差について検証を行うために、ULCC、VLCC、コンテナ船の3隻の模型船を対象として、初速を実船相当で10ktとした場合の停止距離SDの無次元値SD/LL:船長)の比較を行った結果を図7.2に示す。主機の逆転回転数はそれぞれの初期船速に対応する主機回転数の70%である。図7.2より、船が肥大化するほど同一のt'rに対する停止距離が長くなる傾向があることが分かる。
図7.2 船型の違いによる主機逆転操作時間が停止距離に及ぼす影響の比較







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION