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5 Z試験におけるオーバーシュート角について
 IMO操縦性暫定基準A.751(18)において、旋回性能や初期旋回性能は数多くの試運転結果や操船実績に照らし合わせて、ほぼ妥当な基準値と思われる。しかし、保針性能(Course-keeping ability)、回頭制動性能(Yaw-checking ability)、および停止性能(Stopping ability)の基準値は適用上問題の多いことが明らかになり、我が国はこれらを改正すべくIMOに提案を行ってきた。その結果、DE44から暫定操縦性基準の見直しについて議論が開始されることとなった。IMO操縦性暫定基準の内、Course-keepingとYaw-checkingの性能の基準はZ試験のオーバーシュート角を指標として表5.1のような基準が定められている。この内、10°/10°Z試験の第1オーバーシュート角の基準は、我が国がパイロット協会の協力と入念な調査研究成果を反映した結果であったが、その他のオーバーシュート角は諸外国の強い要請で付加されたものの、当時十分検討された結果ではなく、その後に我が国の運輸省(当時)で収集された新造船の試運転計測データベースでもその矛盾が顕在化する結果になっている。
 
表5.1 Z試験のオーバーシュート角の基準
 
 我が国の操縦性基準改正提案の基本は、Course-keepingとYaw-checkingの性能の基準としては、10°/10°Z試験の第1オーバーシュート角のみとし、他のオーバーシュート角の基準を削除するとしている。しかし、IMOにおける検討の過程では、既に暫定基準となっている項目の削除は困難との見方もあり、その際の対応策を検討しておく必要があり、これらの基準値の見直しの検討を行った。
 前述の試運転計測データベースの解析結果によれば、10°/10°Z試験の第1オーバーシュート角の基準を満足しながらも、第2オーバーシュート角や20°/20°Z試験の第1オーバーシュート角の基準を満たさない船が少なからず存在することが明らかになった。しかし、これら3種類の基準はいずれも、Course-keepingとYaw-checkingの性能双方に関する基準であり、基本的にこれらは同等であることが望まれる。これらの基準の内、10°/10°Z試験の第1オーバーシュート角の基準は、日本パイロット協会等が中心になって、詳細な実船調査とシミュレータスタディーの結果を基に、わが国が提案したものであるが、第2オーバーシュート角や20°/20°Z試験の第1オーバーシュート角の基準は、当時のIMOの基準検討委員会でも十分検討されたとは言いがたい。
 従って本節では、試運転計測データベースの解析結果をもとに、第2オーバーシュート角や20°/20°Z試験の第1オーバーシュート角の基準値について再検討を行った結果をまとめる。
 
1. 10°/10°Z試験の第1オーバーシュート角の基準
 本基準は日本パイロット協会やRR742で既に十分検討された基準であり、Course-keepingとYaw-checkingの性能基準として推奨するものであり、この基準値について見直す必要は無い。
 
2. 10°/10°Z試験の第2オーバーシュート角の基準
 前述の操縦性能データベースにおいて、上記(1)の基準を満足しているにもかかわらず、本基準を満足しない例が数多く見られる。図5.1の◇印がこれに相当するが、これらの船について特に操縦性能上問題があったという報告例はなく、これらの船舶を排除することには問題がある。基準値を改定するには、これらの船舶を排除しないような線引きが必要と考えられ、具体的には、操縦性能データベースの解析から、図5.1の破線に示す基準値を提案するのが妥当と思われる。この破線を数式で表すと下記の通りとなる。
 
10°/10°Z試験の第2オーバーシュート角の基準案=
< 25°(L/U<10s):現状と同じ
< 12.5°+1.25L/U(10s<L/U<30s)
< 50°(30s<L/U
 
3. 20°/20°Z試験の第1オーバーシュート角の基準
 操縦性能データベースで(1)の基準を満足しているにもかかわらず、本基準を満足しない例も少なくない。図5.2 の◇印がこれに相当するが、(2)の10°/10°Z試験のオーバーシュートと同様に、これらの船について、特に操縦性上問題があったという報告例はなく、これらの船舶を排除することは問題があると考えられる。
 本基準値の改定案は、(2)と同様これらの船舶を排除しないような線引きが必要である他、操縦性能データベースの解析結果から、図5.2の破線に示す基準値が妥当と思われる。この破線を数式で表すと下記の通りとなる。
20°/20°Z試験の第1オーバーシュート角の基準案=
< 25°(L/U<10s):現状と同じ
< 22.5°+0.25L/U(10s<L/U<30s)
< 30°(30s<L/U
 
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図5.1操縦性能データベースにおける10°/10°Z試験の第2オーバーシュート角の実績
 
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図5.2操縦性能データベースにおける20°/20°Z試験の第1オーバーシュート角の実績
 
 ある操縦特性を持つ船に対して、10°/10°Z試験の第1、第2オーバーシュート角、および20°/20°Z試験の第1オーバーシュート角がそれぞれシミュレーションで求まるが、この仮想上の船が10°/10°Z試験の第1オーバーシュート角の基準を満足するなら、この船の第2オーバーシュート角や20°/20°Z試験の第1オーバーシュート角は操縦性基準内にあると考えるべきと思われる。こうした考え方に基づき、現状の10°/10°試験の第2オーバーシュート角、および20°/20°Z試験の第1オーバーシュート角の基準に対応する10°/10°Z試験の第1オーバーシュート角の基準にプロットしたのが図5.3の細い破線と一点鎖線である。現状のこれらの基準は10°/10°Z試験の第1オーバーシュート角の基準より全般的に厳しい側(基準値が小さい側)にある。これに対し、本改定案では、それぞれ図の矢印の方向にシフトして、10°/10°Z試験の第1オーバーシュート角の基準に近づき、これら3種類のオーバーシュート角の基準が概略同程度になっていることが確認できる。
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図5.3Z試験のオーバーシュート角基準の比較(10°/10°Z試験のオーバーシュート角の基準にそれぞれ換算して比較)







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