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4 操縦性試験における外力影響の検討
 操縦性基準を適用する際には、その指標を求めるために旋回試験やZ試験を実施するが、風圧や波浪等の外力が大きな影響を与える。そこで、操縦性試験において操縦性能を示す指標値を決定する際には、これらの外力の影響を考慮する必要があり、それにはいくつかの検討が必要となる。
 まず、操縦性暫定基準が定める試験実施条件としては、風速についてはビューフォートスケール5以下、海象についてはシーステート4 以下とされている。これらの限界条件下において、操縦性試験で求められた指標値にどの程度の外力影響が生じるかについて、検討を行った。また、続いて、外力影響が避けられない場合に、それらの影響を推定・除去し、無外力下の性能指標値を推定する方法について検討を行った。
 外力下における操縦性能の推定を行うに際しては、MMGモデルの考え方に基づいて数学モデルを構成し、流体力については拘束試験により求められた流体力特性を利用した。風の影響については、時々刻々の相対風速・風向を求め、風洞試験成績を用いて推定を行った。また、波浪の影響については、操縦性試験解析に用いる可能性も考慮して、できるだけ簡略な取り扱いを試みた。つまり、試験中、時々刻々と船は動揺しながら船首方向を変えるが、ある瞬間の船体に作用する流体力はその時々の船速、船首方位で定常に航行している時に作用する定常流体力の平均値であると考えた。
 
 操縦性暫定基準において定められている試験の実施が可能な気象はビューフォートスケール5、海象についてはシーステート4までとされている。いま、シーステート4に対応する波高を見積もると2.5mとなることから、操縦性試験実施条件として、風速10.7m/sec、波高2.5mと設定してシミュレーション計算を実施し、アドバンス、タクティカルダイアメータ、オーバーシュート角等の推定を行った。計算対象とした船は、SR221 AおよびSR221 B船型である。
 表4.1〜表4.5にアドバンス、タクティカルダイアメータ、10°/10°Z試験の第1オーバーシュート角、第2オーバーシュート角、20°/20°Z試験の第1オーバーシュート角について、風速10.7m/sec、波高2.5mの外乱がある場合における値と無外乱の場合の値の差をパーセント表示して示す。
 表4.1および表4.2を見ると、満載時の定常旋回特性については、基準の定める外力条件下では外力によるアドバンスとタクティカルダイヤメータに対する外力影響は小さく、SR221 A、SR221 B 両船型ともにその差は5%以下である。また、試験開始時に横方向から外力を受けることを避け、外力を正面から受けるようにすることにより、定常旋回特性における外力影響をさらに軽減することができる。また、表4.3より、満載時の初期旋回性能については、基準の定める外力条件下では外力による影響は比較的小さいことが分かる。ただし、横方向から外力を受けた場合にその影響が大きくなる傾向が見られることから、初期状態において外力を正面から受ける方向を選択することが望ましい。
 
表4.1 アドバンスに対する外乱の影響(風速10.7m/s、波高2.5m)
設定外乱 風のみ 波のみ 風と波
入射角 SR221 A SR221 B SR221 A SR221 B SR221 A SR221 B
−90° 0.9% 0.9% 2.2% 2.2% 3.1% 3.1%
−60° 0.4% 0.4% 1.4% 1.5% 1.8% 2.0%
−30° −0.4% −0.4% −0.1% −0.1% −0.5% −0.4%
−1.0% −1.0% −0.7% −0.7% −1.7% −1.7%
30° −1.2% −1.2% −1.3% −1.3% −2.5% −2.5%
60° −1.2% −1.2% −1.9% −1.8% −3.1% −2.9%
90° −0.9% −0.9% −1.8% −1.7% −2.6% −2.5%
 
表4.2 タクティカルダイアメータに対する外乱の影響(風速10.7m/s、波高2.5m)
設定外乱 風のみ 波のみ 風と波
入射角 SR221 A SR221 B SR221 A SR221 B SR221 A SR221 B
−90° 0.4% 0.6% 1.4% 2.0% 1.7% 2.6%
−60° 0.3% 0.7% 1.3% 2.3% 1.7% 3.1%
−30° 0.2% 0.5% 0.7% 1.7% 0.8% 2.2%
−0.3% 0.0% −0.2% 0.6% −0.5% 0.6%
30° −0.7% −0.6% −1.1% −0.7% −1.8% −1.3%
60° −0.8% −1.0% −1.5% −1.5% −2.3% −2.5%
90° −0.7% −1.0% −1.2% −1.6% −1.9% −2.5%
 
表4.3 初期旋回性能に対する外乱の影響(風速10.7m/s、波高2.5m)
設定外乱 風のみ 波のみ 風と波
入射角 SR221 A SR221 B SR221 A SR221 B SR221 A SR221 B
−90° 3.1% 3.1% 9.4% 9.1% 13.9% 13.1%
−60° 2.4% 2.3% 6.8% 6.6% 10.2% 9.8%
−30° 0.4% 0.5% 1.8% 1.8% 2.6% 2.2%
−1.2% −1.0% −0.8% −0.6% −1.7% −1.6%
30° −2.4% −2.1% −3.2% −3.0% −5.3% −5.1%
60° −3.4% −3.1% −5.9% −5.5% −8.9% −8.3%
90° −3.1% −3.1% −7.0% −6.4% −9.4% −8.9%
 
 一方、表4.4、表4.5を見ると、Z試験のオーバーシュート角に及ぼす外力の影響は大きく、針路不安定な船舶(SR221 A)ほどその影響が顕著に現れている。従って、Z試験におけるオーバーシュート角の計測に際しては、基準の定める試験実施条件下あっても、外力の影響をできるだけ小さくするために、外力を正面から受けるように厳密に初期方位を調整する必要がある。
 
表4.4 第1オーバーシュート角に対する外乱の影響(風速10.7m/s、波高2.5m)
設定外乱 風のみ 波のみ 風と波
入射角 SR221 A SR221 B SR221 A SR221 B SR221 A SR221 B
−90° −12.9% −8.6% −30.6% −21.8% −39.2% −29.1%
−60° −14.5% −9.2% −31.8% −21.4% −40.7% −28.6%
−30° −10.1% −5.4% −16.5% −9.7% −24.5% −14.3%
−3.4% −0.6% −3.3% −0.9% −6.4% −1.5%
30° 1.5% 2.1% 5.5% 5.1% 6.4% 6.8%
60° 8.7% 7.0% 20.2% 14.4% 29.6% 21.2%
90° 13.5% 9.2% 30.0% 19.3% 47.1% 29.7%
 
表4.5 第2オーバーシュート角に対する外乱の影響(風速10.7m/s、波高2.5m)
設定外乱 風のみ 波のみ 風と波
入射角 SR221 A SR221 B SR221 A SR221 B SR221 A SR221 B
−90° 5.9% 8.6% 12.1% 19.9% 19.0% 29.9%
−60° 1.5% 6.4% 2.6% 12.8% 5.0% 19.4%
−30° −2.4% 2.0% −1.1% 4.8% −3.4% 6.8%
−5.2% −0.9% −5.4% −0.8% −10.0% −1.7%
30° −9.8% −6.0% −15.4% −10.7% −22.6% −15.6%
60° −11.2% −9.6% −25.5% −23.8% −32.9% −31.8%
90° −8.6% −9.8% −23.0% −25.9% −30.1% −34.1%







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