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3. バルクキャリアの構造安全性に関するFSA
 日本が実施したバルクキャリアのFSA研究では、ビルジホッパータンクとトップサイドタンクを持つ典型的なバルクキャリアの貨物倉への浸水及び構造損傷に重点をおいている。
 ハザードの同定とリスク評価はブレーンストーミングのような創造的な手法も併用しながら、主に過去の事故統計、事故事例分析に基づいて実施した。その結果、同定されたハザードのスクリーニングとLMIS(Lloyd's Maritime Information Service、現在のLloyd's Marine Intelligence Unit(略称LMIU))の海難データベースの調査によって図1に示した重要な事故シナリオが特定された。現在のバルクキャリアのリスクの大きさはSOLAS XII章の効果の予測シミュレーション等により、ALARP領域にあると判断された(図2参照)。
 
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図1 Illustrative risk model under consideration
 
 
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図2 SOLAS導入後20年間のF−N Curve
 
 
費用対効果解析を実施する対象となったリスク制御オプション(Risk Control Options、RCOs)は以下のものである。
RCO11: Extended application of SOLAS Chapter XII to new bulk carriers(<150m in length)
RCO15: Double side skin(all C/Hs)
RCO16: Corrosion control of hold framesIncrease of corrosion margin)
RCO51: Corrosion control of hold frames(Severely control of paint condition)
RCO52: Corrosion control of hold frames(Application of enhanced corrosion allowance)
RCO21: Extended application of SOLAS Chapter XII to existing bulk carriers(<150m in length).
RCO23: Application of UR S21 to existing ships
RCO25A: Application of double side skin construction for existing ships(all C/Hs)
RCO25B: Application of double side skin construction for existing ships(Nos. 1&2 C/Hs)
 
 GCAF或いはNCAFという指標を用いた費用対効果解析の結果によれば、以下の事項がIMOが審議しているバルクキャリアの安全に関する議題の中で、更に検討すべきことが推奨された。
 
バルクキャリア全体のリスクレベルはSOLAS XII章適用後も他船種と比べてALARP領域の比較的高い位置にあると予測され、費用対効果の観点で現実的な範囲で出来るだけリスクが小さくなるように安全性向上対策を検討するべきである。サイズ毎に見ると、150m未満のバルクキャリアのリスクレベルが高く、対策検討の優先度が高いと言える。
単船側BCのSOLAS XII章の適用後のCEの事後評価から、重船側の強制化とCEと比較するとSOLAS XII章の方が費用対効果が高く、結果とし前者が強制化されたことは正当化される。重船側の強制化はこれと比べるCEが低く、SOLAS XIII章に変えて、重船側を強制化することは正当化されない。但し、船主がオプションとして採用した場合は、ダブルサイドスキンとSOLAS XII章適用後のシングルサイドスキンのリスクレベルは同程度であると考えられることから、追加的なRCOが強制化されなかったことも正当化される。
150m未満の単船側バルクキャリアは、現在SOLAS XII章の適用外であるが、バルクキャリアの中では相対的にRiskが高く、対策の必要性が大きい。しかし、150m未満のBCに対しては単一貨物倉の浸水が致命傷となる可能性が高いと考えられ、貨物倉の数を増やす等の抜本的な対策を採らないのであれば、SOLAS XII章で要求されている浸水後の事故拡大防止策は有効と判断されないため、浸水防止を目的とした対策が必要である。従って、以下のRCOの導入の検討が推奨される。 ・新造時: 船側構造の腐食予備厚の増加 ・就航後: 船側構造の腐食制御
150m以上の単船側バルクキャリアについては、二次防壁として浸水後の対策がとられているが、更なる安全性対策としては浸水防止対策が有効である。費用対効果の検討結果によれば、単船側のまま腐食予備厚を増加させる等の方法が推奨され、重船側の強制化はこれと比べて費用対効果が悪いので推奨されない。従って、以下のRCOの導入の検討が推奨される。 ・新造時: 船側構造の腐食予備厚の増加 ・就航後: 船側構造の腐食制御
 
4. 今後のばら積み貨物船の安全
 FSAスタディーについては、次回MSC76で本格的な議論が行われることになるので、我が国のFSAスタディーと各国のFSAスタディーとの比較検討を行い、我が国として望ましいRCOが次回MSC76としての最終勧告となるように、特に、「単船側の強化」対「二重船側の強制化」など、MSC75/WP.19(特に表1及び表2)を参照して早急に調査・検討を行う必要がある。
 また、従来想定されていたスケジュールを相当程度前倒しし、本件の議論は次回MSC76で完了させ、必要な小委員会に規則の改正案文の草案の作成を指示し、(この場合、MSC77ではWGは設置されない)、MSC78のバルクキャリア安全WGで審議して、プレナリーで採択するスケジュールとなっている。しかし、場合によっては、更なるスケジュールの前倒しもあり得る状況にあるので、次回MSC76に対する関連提出文書には十分注意していく必要がある。
 
 尚、日本が実施したばら積み貨物船の安全対策に関するFSAの最終勧告を含む最終報告書一式(英文)は国土交通省のWeb Serverからダウンロード可能である(URLはhttp://www.mlit.go.jp/english/maritime/bcfsa/msc75/index.htm)。
(以上)
 
付録 FSAについて
 
付録 図1 FSAの5ステップ間の関係を表す概念図
 
 
 2001年5月30日〜6月8日に開催されたIMOの第74回MSCで”Guidelines for Formal Safety Assessment(FSA)for Use in IMO Rule-Making Process”(以下、FSAガイドライン)が承認され、2002年5月にはMSC/Circ. 1023&MEPC/Circ. 392として回章された(関連文書MSC/Circ. 1022&MEPC/Circ. 391参照)。
 FSAはRisk AssessmentとCost Benefit Assessmentを主要な要素技術として利用する船舶の安全性評価法の一つであるが、IMOで議論されているFSAは規則作成過程(Rule-Making Process)の為のツールとして位置づけられている。FSAでは、解析内容及び結果の透明性及び理解を容易にするために、FSAのプロセスを文書化して記録に残し、これにより意志決定の為の共通の議論の基礎を提供することを目指している。
 FSAで使われるリスク評価等の要素技術の多くは既に化学プラント、原子力、海洋開発等の様々な産業分野で使われており、実用的なツールとして認知されている。他分野とIMOのFSAの大きな違いは、前者が個々の構造物やシステム等を直接扱うのに対して、後者ではGeneric Modelという概念を使い、規則の対象となる一般化された船舶を対象にしている点である。Generic Modelとは抽象的な概念で、FSAガイドラインによれば、対象船舶/システムについて取り扱う問題に関連している機能、特性、特徴及び属性を表現するために規定されるもので、独立した個々の船舶ではなく、定義された機能条件を満たす組織、管理、運用、人、電機及びハードウエアを含むシステムの集合体である。
 また、FSAは次に示す5つのステップ(Step)からなる手順に従うことも大きな特徴である。
 
Step 1: Hazard Identification;船舶に内在する人命・環境・財産に関わるハザード(HAZARD)を同定し、
Step 2: Risk Analysis;確率論等を用いた危険解析によりリスク(RISK)を解析し、
Step 3: Risk Control Options;リスクを減少させる為の対策(RCO)を立案し、
Step 4: Cost Benefit Analysis(CBA);費用対効果の評価及び対策案のランキングし、
Step 5: Recommendations;条約改正等の判断材料等を提供する/勧告をする







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