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国連人口基金東京事務所開所記念特別シンポジウム
アフガニスタンの女性と健康
 
 国連人口基金東京事務所の開所を記念して十月一日、「アフガニスタンの女性と健康」と題する特別シンポジウムが、国連人口基金の主催で国連大学五階エリザベス・ローズ国際会議場で開かれた。アフガニスタンの状況とUNFPAとの関りに強い関心をもった一般の人々を含めて多数の関係者が参加した。トラヤ・オベイドUNFPA事務局長は、UNFPAのアフガニスタンの女性への支援活動を現状報告とともに述べた。今回はハビバ・サラビ・アフガニスタン女性問題省大臣も来日し、アフガニスタンの悲惨な現状を報告するとともに日本へのさらなる支援を要請した。また、UNFPA親善大使の有森裕子さんもシンポジウムに参加し、誇りを持って使命を果たしたい、と述べ、二年間の任期を終えてからも人口問題の重要なことを多くの人に伝えていきたいと語った。
 
アフガニスタンの現状報告とUNFPAの成果
 トラヤ・オベイドUNFPA事務局長はアフガニスタンの現状報告とともにUNFPAのこれまでの成果を紹介した。
 アフガンでの活動に対し、ジョイセフをはじめとする多くの人々に感謝したい。有森裕子さんをはじめ、いろんな方のボランティアの尽力に対してお礼申し上げたい。
 UNFPAは世界で最も大きい人口分野の組織である。女性・男性、家族計画、中絶、HIV/AIDSを含むSTD、暴力、リプロダクティブ・ヘルスについて世界各地で支援活動を行っている。特に持続可能な開発の観点での開発はこの分野では重要である。国連人口基金の課題は、人口統計の総括的な利用と資金の運用などである。
 一九六九年に国連人口基金が設立されたが、当初、途上国では女性は平均六人子供を産んでいたような時代だった。しかし今は三人である。現在、アフリカでは人口増加が食料生産増加量を超えており、食料不足が深刻である。一九六〇年代には十億人であった貧困人口は、二〇五〇年には三十億人に上る。
 基礎医療は、重要である。安いコストで、病気や障害を持つ人々の命や生活を救えるという意義は大きい。現在、世界では一分間に一人の妊婦が死亡している。基礎医療が充実していれば安いコストで未然に彼女たちの命を救える。
 HIV/AIDSの問題も深刻である。我々は東チモールでもHIV/AIDSの支援をしている。HIV/AIDSはリプロダクティブ・ヘルスと大きく関る。国民皆がリプロダクティブ・ヘルスを享受できるように、地方と国際レベルでのコミュニティワーカーを訓練している。
 アフガニスタンは復興の第一歩の段階にある。保健省はリプロダクティブ・ヘルスの推進に務めているし、教育省は学校などの教育インフラの整備を進めている。
 アフガニスタンは世界で二番目に妊産婦死亡率が高い国で、十六人に一人が死亡している。五歳以下の幼児死亡率も依然として世界で高い水準にある。医療整備と供給が急がれる。
 また、男性による女性への暴力の被害への支援活動にも取り組んでいる。被害にあった女性への支援が重要な課題だ。
 アフガニスタンの国土の広さは日本の二倍である。これまでアフガニスタンの統計は十分ではなかった。これからは統計の精度を高めつつ整備していくことも急がれる課題の一つである。
 
基調講演
 基調講演はハビバ・サラビ・アフガニスタン女性問題省大臣が行った。ハビバ・サラビ女史は、アフガニスタンの女性をめぐる過酷な現状を紹介するとともに、各国ドナーや国際機関、NGOに対し、なお一層の支援を要請した。
 今回は私にとって始めての訪日で記念すべき機会である。アフガニスタンは、タリバン政権後の社会・経済と、国全体の復興の真っ只中にある。タリバン政権中は、女性は男性に従属した生活を強いられ、多くの女性が苦しみを経験してきた。今、私達は女性の自由と人権の平等を獲得するために努力している。その際、貧困は大きな障害である。貧困がために教育や健康、雇用の問題が山積している。女性の問題はこれまで多くが無視されてきたし、復興に際しても後回しにされかねない。そうならないように、私はアフガンの社会・経済の復興にジェンダーの問題を大きく取り込んでいきたいと思っている。その効果もあってか、女性は徐々に人権を取り戻しつつあるし、アイデンティティも獲得し始めている。こういった経験が、女性男性というジェンダーの視点の開発のみなら今後の開発全般に貢献していくものと信じている。
 私達の女性問題省は二〇〇一年に設立された。その使命は、女性の権利の推進・社会経済への女性の参画などである。そのためにも、女性の教育水準向上への活動は重要な鍵となる。
 アフガニスタンでも家庭内暴力は深刻な問題である。これまで女性が家から出ることを許されなかった習慣だけに、その解決も困難にならざるを得ない。そうした女性の被害を救うためにも、まず法整備が欠かせない。しかしそのための予算やスタッフは限られているのが現状である。各国のNGOやドナーなどの活動と協力が非常に重要となる。
 アフガニスタンでは、妊産婦が一日に五十人死亡する。しかし妊産婦に限らずそれ以上の多くの女性が栄養不足や不潔な飲料水による理由で死亡している。男性を欠いた家庭での未亡人の問題も深刻である。まだアフガニスタンは安全保障面が非常に遅れているのでこの問題の解決は急務である。
 今年六月にロヤ・ジルガが開かれた。そのうち二百人の代議士が女性であった。このように意思決定のレベルに女性の進出が進むことは非常に頼もしいことである。このような進歩が他の分野でも続いていくことを願う。
 最後に、UNFPAや日本のNGOの尽力に対する感謝の意を表したい。
 
パネルディスカッション
●モデレーター
ピーター・ハッフ=ラッセル UNFPAアフガニスタン代表
 
「保健調査結果と保健分野のニーズ」と題して藤崎智子さん(HANDS事務局長)が、HANDSの活動を中心に報告した。
 
 アフガニスタンの妊産婦死亡率は、世界で二番目であり、十万人あたり千七百人にも上る。また基礎医療にアクセスできない国民も四〇%に上る。公衆衛生省による全国調査は、UNFPA、UNAIDS、UNICEF、WHOそして多くのNGOの協力により実施されている。ニーズに対応するような施設と従業者の絶対的な数も足りない上、そもそも情報が存在しないことが根本原因である。このことから幅広い協力が必要となることは言うまでもない。継続して現状調査、村落保健普及員、民間薬局の役割などについてのデータを入力中である。
 中間報告によると、全国の医療施設や機材の整備度が悪く、女性スタッフの数も少なく、出産に関するサービスや、家族計画サービスなどもなく、改善しなければならない点が多い。
 中央レベルでは公衆衛生省はドナーと共同して復興計画を立て、地域レベルでは住民のニーズや女性の健康を細かに支えていくことが重要である。
 
「草の根の母子保健活動」と題して安永和子さん(MeRU助産師)は、以下のように述べた。
 
 妊産婦死亡率は、日本では十万人に対し八人であるが、アフガニスタンは千七百人という悲惨な状態で、幼児死亡率も非常に高いままである。
 MeRUはマジャリシャリフを中心に、帰還難民を対象に母子保健の支援を行っている。MeRUは二〇〇一年十二月に事務所を現地に構え、その後助産院を設立し活動を始めた。現地での最もネックになるのは治安の問題、健康上の問題、物資の援助である。とりわけ食料援助に比べて医療援助が少ない。
 今後の活動計画は地域での母子保健支援のプロジェクトを実施し、診療所の設立や伝統的産婆(無資格助産婦)教育の拡大、医科大学への機材支援など幅広い支援活動を繰り広げていきたい。
 
「日本のアフガニスタン支援」と題して、奥田紀宏氏(外務省中東アフリカ局審議官)は以下のように述べた。
 
 日本政府としてアフガニスタンの場合、和平と復興支援が同時に必要であることが特徴である。社会全体に目配りし、たとえ治安が悪くても和平に向けて支援をやらねば始まらない。そして復興も同時にしていかなければ状況は変化しない。こういった意味でこれまでの協力とは異なる。
 今会議で中心的課題となっている教育や女性、健康、子供の問題等について全体をみて考える。いずれにしても治安回復が最大の問題だ。それと雇用や地方にも支援の手をさしのべ、地方開発などの公共事業も考えている。
 内閣府男女共同参画局は重要な提案をしている。そこでは(1)女性が政治決定に参加する(2)女性問題省の機能の拡大(3)地方のジェンダー問題の解決(4)NGOの育成が主な支援テーマとなっている。
 我々は、技術協力(女性問題省が中心)、無償協力(物資の援助など)、間接的協力(二年間で五億ドルの資金援助)をこれからも重要な柱として支援をしていきたい。
 
コメント
 
コメンテーターの小宮山洋子参議院議員(リプロダクティブ・ヘルスを考える会副座長)
 去年日本では、ドメステイック・バイオレンス法が実施された。そのドメスティック・バイオレンスは、今日の会議でも議論に上っているリプロダクティブヘルスと大きく関わる。私は現在、このリプロダクティブヘルスに取り組んでいる。しかし問題は、この用語は日本語に訳すことが非常に難しく、国内の一般への普及が困難であることである。このことはアフガニスタンの支援にも大きな障害であると考える。アフガニスタンの復興計画の中に、女性の視点を強調していきたいと思う。私は開発と女性の議員グループのメンバーで、こうした状況から、開発援助の中に女性の視点を入れ、女性の位置付けを明確に示していきたいと思っている。
 
宮内雄史氏(国際社会貢献センターABIC事務局長)
 日本は現在、高齢化問題が深刻になりつつある。一九九〇年代以降は、他国よりも早いスピードで高齢化が進んでいる。また日本の財政赤字も増加の一途を辿っている。財務残高も先進国のトップを切っている。その上、日本の年金はこのままだと今の若い世代は年金をもらえないという深刻な状況だ。
 こうした問題の解決なしに、ODAの問題を含めた国際協力は語れない。最優先課題である。
 
原ひろ子さん(アフガニスタン女性支援に関する懇談会会長)
 アフガニスタン支援はアフガニスタンのためだけのものではない。女性の意志決定は、日本でもまだ遅れているのが現状である。わが身として、日本とアフガニスタンとの共通の課題として考えている。そうした姿勢でアフガニスタンの女性の支援に取り組んでいる。
 中でも教育の支援は重要だ。これにはJICA、NGO、国際機関などが協力して取り組むことが必要である。アフガニスタンの女性にしっかり届くような援助をすることで、これまで苦しんできた彼女たちが幸せになるように尽力していきたい。
 
谷津義男衆議院議員(人口と開発に関するアジア議員フォーラム議長)
 アフガニスタンヘの日本のNGOよる支援に感謝の意を表したい。
 AFPPDとの関連で述べたい。AFPPDは水と食料問題に取り組んでいる。アフガニスタンでも安全な飲料水や食料不足の課題は山積みである。地球上の水の九八%は海水であり、二・七%は地下水、〇・三%は表流水である。この〇・三%から、工業用水や我々の健康に直接的に関わる安全な飲料水を得ることになる。
 以前、アフガニスタンの近隣諸国のキルギスタンやカザフスタンでの会議に参加した。そこでも水不足は深刻だった。アラル海に注ぐ川はひえ上がりつつあり、アラル海は将来、三分の一になるであろう。こうしたことを踏まえると、アフガニスタンでの水関連の支援が、人々の命や健康に対していかに必要であるかが分かる。母親の健康は子供の健康に直接的に影響することから、水の支援は女性の支援と大きく関わる。
 日本としては、プロジェクトを組んで強力に支援をしていきたい。今、ODAのやり方の検討をしている最中である。アフガニスタンヘの支援は、特別な思いを込めて取り組んでいきたい。







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