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国際食料安全保障・人口・開発議員会議
(IMPFSPD)
食料安全保障・人口・開発に関するジュネーブ宣言
1996年11月11日
スイス国、ジュネーブ
 
1. 世界57ヵ国の国会議員が1996年11月10日・11日の両日、スイス国のジュネーブで開催された国際食料安全保障・人口・開発議員会議に集い、以下の声明を行ない、食料安全保障と人口について行動を呼びかける。
 
前文:
2. 食料安全保障を妨げている要因は多面的なものである。貧困と人口の増加、分布および移動は食料安全保障を妨げる主要な原因の1つである。社会的、政治的、経済的な不安定性と不公正は食料安全保障を実現する上での重大な障害になる。
 
3. 生活スタイル、食習慣、所得、社会組織が個人の食料需要水準を決める。人口はこれらの要素と相乗して需要を増大させることになる。利用する技術、人間活動の拡がりの程度が環境ヘダメージを与え、環境を維持することになる。消費と消費水準に連動した廃棄物量は必要とされる生産力を決める。
 
4. 科学・技術がいかに進歩したとしても、この地球の限界を越えて私たちは生きることはできない。私たちは、私たちの惑星という閉じた有限の世界(システム)の中にある単一の社会にあって、運命をともにしている。私たちはこの現実から逃れることはできず、私たちの生存を可能にする持続可能な方法を見いださねばならないのである。
 
5. 食料の安全保障は世界の安全保障である。それはまた、人間の創造的かつ生産的な活動を行なう上でのエネルギーを生み出す個人の安全保障でもある。食料安全保障は人々の幸福な生活に直接影響を与えるだけでなく、社会的安定性、生産性および平等に影響を与え、同様に各国、地域そして世界の平和を脅す。従って、食料安全保障は、いかなる場合においても、すべての人とすべての国にとって、そして国際社会全体にとって決定的に重要である。
 
6. 以下の点については明らかである。
(a)持続可能な生産、食料の入手可能性を改善するために貧困を撲滅すべきである。
(b)食料はベイシック・ヒューマン・ニーズ(人間が生きていく上で基本的に必要なもの)であり、すべての人権のうちで最も基礎となるものである。
(c)開発計画(アジェンダ)の中においては食料安全保障とそれに関連する社会開発プログラムに最も高い優先順位が与えられなければならない。
(d)平和で、安定的で、様々なことが実現可能な社会的、経済的、政治的環境は持続的な食料安全保障を実現する上での基本的な条件である。
(e)政治的な不安定性およびすべて紛争は、食料安全保障を達成する上での大きな障害となる。
(f)主食に関してその入手可能性を確保し、分配を行なう上で平等が−特に女性と子供に対する−必ず確保されなければならない。
(g)食料生産手段の利用と所有権の保持に関して女性は男性と平等でなければならない。
(h)農村および共同体の開発は持続的な食料安全保障を実現するための前提条件である。
(i)公正な貿易は持続的な食料安全保障を達成するための1つの重要な要素である。
(j)人口の早期安定は持続的な食料安全保障を実現する上で最も基本的な条件である。
(k)意思決定権を女性に委ねることが人口増加の速度を弛め、結果的に人口増加を安定化させる最もよい方法であると考えられている。
(l)意思決定権を女性に与える上での重要な最初の方策は、女性に対する教育とリプロダクティブ・ライツ(再生産にかかわる権利)を確保し、すべての面におけるリプロダクティブ・ヘルス・ケアを提供することである。
(m)余剰食料の意図的な浪費は嘆かわしいことである。食品の廃棄物を最小限にするようにすべきである。
 
7. 効果的な行動のためのカギは、「擁護」、「対話」そして「パートナーシップ」である。それは、人権と基本的な自由およびすべての人の平等を「擁護」すること、すべての団体の利益を共通のものとするための「対話」を行なうこと、本当の参加型のプロセスを実現するための「パートナーシップ」を育むことであり、これらは、良き統治(グッド・ガバナンス)にとって不可欠の構成要素である。
 
行動の呼びかけ
8. 私たち、国会議員は政府と市民社会を結ぶ重要な存在であり、人々のニーズを代弁するものであり、法律を議決し採択することで私たちの政府の行政部門に、世界食料サミット初日に採択される「世界の食料安全保障に関するローマ宣言」と「世界食料サミット行動計画」の公約の実行を強く要請するための触媒として活動する立場である。この立場から、すべての議員に以下の事柄を呼びかける。
(a)「世界の食料安全保障に関するローマ宣言」と「世界食料サミット行動計画」をそれぞれの議会で議題とし、国民の注目を喚起する。
(b)報道機関がローマで合意された公約を幅広く報道するよう働きかけ、食料安全保障を妨げる根本的な原因、特に人口に関連する要因の持つ重要性に対する認識を促進させる。そして、これらの問題を解決するためには、国レベル、地域レベル、国際レベルでの一致協力した行動が必要であるという認識を促進する。
(c)すべての人々−特に女性、子供、最貧困層、最も脆弱な立場にいる人々−に対する人権および基本的自由を促進し保護する。
(d)食料安全保障に影響を与える意思決定過程およびその実行を行なう上で男女の十分なそして平等な参画を促進する。
(e)農村の食料生産者、特に女性が、金融制度の利用、適切な技術や、土地、水などの生産資源を男性と同様に平等に利用し所有することができるような立法を行なう。
(f)国際人口開発会議行動計画において定義された意味における、家族計画と性に関する健康を含むリプロダクティブ・ヘルス(再生産にかかわる健康)サービスを男女ともに利用できるようにすることでリプロダクティブ・ライツ(再生産にかかわる権利)が確保できるよう促進する。
(g)万人が教育を受ける機会を促進する−特に女性や少女が教育を受けることができるようにする−ことで、社会および開発のすべての側面において彼女達の参加が促進され、再生産にかかわる健康の分野を含む意思決定過程における女性の役割を改善することができ、その結果、金融制度や農業技術そして栄養資源が身近なものとなり、容易に利用できるようになる。
(h)若者がヘルスケア、教育そして様々な機会を持てるような政策を支援する。そしてこれらは若者の食料安全保障活動への参加を促す。
(i)食料安全保障問題と栄養失調の問題を解決に導くためには、いかなる行動が適切であるかを明らかにするために、特に極端な貧困状態にある人や少数民族、障害者などリスクを抱えた人々など社会的に不利な立場に置かれたグループを参加させる。
(j)国家開発政策の一部として農村の経済・社会開発を促進し、いかなるときにおいても人口が偏る最大の原因となっている、急増する農村から都市への人口移動の主因を解決する方法を探す。
(k)国家開発計画を立てる上で水の問題を考慮に入れることは不可欠であり、それが適切な地域では雨水を有効に利用した農業を促進する。
(l)地域共同体レベルにおける農業開発を刺激し、それが適切な場所における天水農業、農業技術普及サービス、訓練および環境と調和的な農業技術の移転を促進することを含む各国の食料と水の安全保障能力を高めるような投資を増大させるような法的枠組みと政策を作り出す。
(m)地下水管理の改善を行なうことで、化学物質による地下水の汚染、森林伐採、砂漠化や集約的農業による急傾斜地における土壌浸食、灌漑地域における塩害、そして水位の低下など水に関連する問題の解決を図る。
(n)海水および淡水における漁業資源の持続的利用と生物的多様性の保護のための国際協定および条約の早期批准と実行を促進する。
(o)これまで確立された方法による農業研究−各国の研究所で行なわれている農業研究、特に各地域に適応するための研究や、参加型の研究−を支援する。環境の価値とその保護に必要となる経費を経済活動に組み込み、環境を保護するためのインセンティブを与えるような税の体系を構築する新しい学際的研究を促進する。
(p)生産の各分野ごとに公正で合理的な経済・貿易制度を構築するという点も含め、農業、林業、漁業を環境保護と持続可能な開発の観点から見直す。
(q)より合理的な経済政策を策定するよう各国政府行政部門に働きかけていく。このより合理的な経済政策は有限な地球環境を守り、人口問題を解決する上で必要不可欠な公正な世界貿易システムの構築を助けることになるだろう。
(r)世界貿易機関(WTO)合意を含む国際的な協定が、各国の文化的な慣行、特に伝統的な主食が持つ文化的慣行を侵害し、また農業生産と環境に悪影響を与えることのないよう検証するべきである。
(s)食料輸入国と輸出国の協力と関係を強化し制度化する。そして食料を脅迫や政治的・経済的圧力、一方的な制裁の押しつけを含む、いかなる搾取のための手段としても使わないようにする。
(t)食料安全保障を妨げる人的コストに関し、先進国と途上国の間の文化的、社会的連帯を促進する。
(u)先進国と途上国の間で経験、アイデア、技術の交流を図るための協力関係を促進する。
(v)国際的な金融機関の政策や構造調整プログラムが食料安全保障に与える影響を検討し、見直すよう奨励する。
(w)各国政府に対して食料安全保障分野で活動する多国間機関間の活動調整を行なうよう要請する。
 
9. 私たちはこれらの宣言を実行に移すために献身的に働く。
 
10. 私たち国会議員は「行動への呼びかけ」の実行を成功させ、ここに述べられた挑戦を果たすための追加的な資金や資源の動員、そして、または新たなチャンネルを作るために深く関わり、献身的に働く。そのために、私たちはすべての国の政策および意思決定者に「世界の食料安全保障に関するローマ宣言」と「世界食料サミット行動計画」の公約を実行に移すためにはこれらの公約に高い優先順位を与えることが必要であり、そのための政治的な意思が必要であるということを呼びかける。そして、また私たちは、すべての国に対し、近年の主要な国際会議、特に国際人口開発会議(ICPD)および第4回世界女性会議(FWCW)においてなされた公約を実行することを呼びかけ、もし必要であるならば各国の、そして国際的な優先順位の組み替えを強く求めるものである。







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