日本財団 図書館


海外事務所活動レポート
欧州海事情報
ジェトロ・パリ・センター船舶部 芳鐘 功駐在員
 
1. 造船
<DCN民営化に向け、仏政府が財務改善策に着手>
 数ヶ月中にも実現するDCN(仏造船局)の民営化について、仏政府は同社の財務状況の改善策に乗りだした。候補策のなかには、同社に名目で15億ユーロの増資を行うというものがある。ただしこの内、政府側の実質的な引受額は5億4000万ユーロに過ぎず、残りはDCNの政府に対する負債の帳消しにより賄う。この案は、大きな支払い能力をもちながらも自社資本がないというDCNに特有の問題には最適な打開策である。政府の保有資産をDCNに譲渡するという方法では、譲渡後に高評価額が見込めないことが問題となっていた。関係者は、現在窮乏している国の財源に影響を与えずにDCNに充分な資本力を与えるためにこの案の採用を期待している。
 もう一つの案は、新生DCNの立ち上げ期間中、DCN庁舎の立直し工事費用の一部を政府が負担するというものである。これは90年代初頭のジアット社の民営化の際、初期資本化額が不十分で数年後に再資本化を行わねばならなかった教訓を受けたもの。
 民営化に向けたDCNの次のステップは、販売、計画、運営状況の維持などの部門における生産性向上について、政府指定の目標が示された事業契約を完成させることである。防衛省は現在DCNとの契約締結の準備中である。同契約にはDCN労組側からも注目が集まっている。政府は5月の2002年度財務報告を受けてDCN資産の収支を決算する。
《2003年1月21日》
<DCN、株式会社化を前に2002年の損失軽減>
 5月に株式会社化が延期されたDCN(仏造船局)はこのほど、2002年年間総売上が16億ユーロ(2001年は11億7600万ユーロ)になり、損失額も5000万ユーロの予想額を下回る見込みだと発表した。DCNの資本評価額は5億4000万ユーロとされているが、同社社長は、良好な経営を図るには、資本評価額が年間総売上の30%以上には達している必要があると指摘し、株式会社化について楽観的な見方を示した。仏海軍からの受注はもちろん、インドからの潜水艦6隻を受注する見込みであるなど、DCNの受注は安定している。
《2003年1月24日》
<シェルブール造船所、回復の兆し>
 3年間にわたり業績不振が続いていた仏シェルブール造船所(CMN)は、2月7日までにカタールに3隻の迎撃船を納入し、中型軍用船市場の回復を予想している。同社のピエール・バルメール社長によれば、今回の納入に続いてカタールからさらに哨戒艇の注文があり、数ヶ月内にアブダビからも3−6隻の軍用船の注文が待たれている。その後にはペルシャ湾の主要地域での需要増加が見込まれる。同社は過去数年をヨット建造などへの事業の多様化で乗り切ってきたが、自己資本不足により2003年には増資を強いられる。特に同社と提携交渉中のタレス社(仏防衛電子)は軍用船部門の合理化を強く希望しており、CMN側はこの問題に関しタレスと協議する意向を示している。
《2003年2月7日》
<アルストムがサン=マロの造船工場を閉鎖>
 仏アルストム社はサントゥアンの変電設備工場で105口の人員削減を実施したばかりだが、同社傘下の造船部門会社、アルストム・マリンのボワシエ社長は12日に、サン=マロ市にあるアルストム・ルルー・ナバル造船所を閉鎖する方針であることを認めた。98人の従業員を抱える同造船所は、サン=ナゼールのアトランティック造船所からの下請け事業に全面的に依存しており、2001年7月以来、新規の契約は途絶えていた。2月末に「クイーン・メリー2」用の桁材を納入後は業務がなくなる。1997年にアルストムに買収されて以来、同造船所は問題を抱えていたが、今やグループ自体の経営が困難に直面している。アルストム社長に就任したばかりのクロン氏は3月12日までにグループ再建戦略を発表することになっているが、同社労組は大掛かりなリストラが行われるのではないかと危倶している。
《2003年2月13日》
<タレス:2002年総売上が8.3%増加>
 タレス社(仏防衛電子)の2002年総売上が、前年比8.3%増の111億2500万ユーロと発表された。連結範囲と為替レートを同じとした場合の増加率は7.5%となり、同社が発表していた予想増加率5−10%のちょうど中間に収まった。総売上に対する防衛部門の貢献度は向上し、全体の61%(2001年は56%)となった。特に艦船部門はサウジアラビアの「サワリII」計画での駆逐艦納入もあり大きく伸びた。航空部門は1.4%後退し、17億9000万ユーロとなった。通信・衛星部門は全般的な不況と民生用衛星市場の落ち込みにより、6.8%下落し、24億4000万ユーロとなった。同社は汎地球測位システムサービスが伸びていることと情報サービスが横ばいレベルを維持したことを強調した。2002年の欧州における売上は全体の55%を占め(2001年は59%)、防衛部門、航空部門、通信・衛星部門はそれぞれ前年比9%増、11%減、2%減となった。一方欧州以外での売上は18%増加し、初めて50億ユーロを超えた。内訳は中近東が18億ユーロ、アジア太平洋が15億ユーロ、北米は前年比でほぼ横ばいの12億ユーロとなった。
《2003年2月14日》
<アルストム・マリン、2隻の建造契約獲得でロリアン造船所の業務を確保>
 仏アルストムの造船部門、アルストム・マリンは1月13日、総額1億1000万ユーロに相当する2隻の造船契約を獲得したことを確認した。1隻目はすでに昨年12月に仏IFREMER(仏海洋開発研究所)が発表済みの新海洋調査船「プルクワ・パ」号で、発注契約総額は6600万ユーロ。2隻目は、北極及び南極海域でのクルージングを目的とする全長74メートルの豪華ヨットで、クルージング会社への豪華客船納入に強い同社にとっては珍しく個人顧客からの注文となっている。この2隻の建造契約により、アルストム・マリンのロリアン造船所(モルビアン県)では今後2年間の工事が確保できた。一方、サンマロ造船所(イール・エ・ビレーヌ県)では、従業員100人のうち半分はサン=ナゼール造船所で暫定的に工事に従事しており、労組CGTに拠ると2月20日以降からは残りの半分の従業員は携わる仕事がまったくなくなるなど、危機的な状況にある。アルストム・マリンでは2001年2月以来、新規の豪華客船建造契約を受注しておらず、一括受注した5隻の豪華客船のうち最後の1隻が2004年第1四半期に納入されることになっている。
《2003年1月14日》
<英海軍空母建造契約、BAE社とタレス社が提携へ>
 新型空母2隻の建造契約をめぐり英BAE社と仏タレス社が競合していた件は、英政府がブレア首相の希望を受け、両社の提携という形で決着する運びとなった。これによれば、BAEシステムスが新空母2隻建造を受注、ライバルのタレスはその主要下請け会社としてプロジェクトに加わる。推進器は英ロールス・ロイス社が担当する。BAEとタレスはこのプランについて基本的に同意しており、数日中にも詳細を交渉する見込みである。契約獲得に関してはタレス優位がささやかれていたものの、契約の1/3を獲得しただけでもタレス社にとっては発足以来で最大の契約(推計15億ユーロ)であり、同社はこれによって英国市場での足場が固まると期待している。同契約の最終的な額は未定で、2004年初頭に決定される見込みだが、現時点で建造に45億ユーロ、保守点検に105億ユーロ程度と見られており、就航が予定されている2012年以降も、タレス社に安定した収益をもたらすと考えられる。
 BAEは「ニムロッド」対潜哨戒機の改良の遅れなどで英国防省の信頼を落としていたが、造船部門では2001年に続いて最近も1045人の解雇を発表したばかりであり、これが今回の受注獲得につながったと見られる。保守系の仏フィガロ紙は、英国において根強い仏に対するライバル意識が決定に作用した可能性もあると指摘している。
《2003年1月31日》
<ベネトー、業績見通し下方修正で株価急落>
 プレジャーボート建造大手の仏ベネトーは2月6日、パリ市場で株価が24.48ユーロヘと12%急落した。これはベネトーが、2002−03(8月末〆)決算で純益が前年比で5%減少して5810万ユーロヘ後退すると業績見通しの下方修正を行なったことが原因だ。アナリストは純益最低でも10%は伸びると予測していた。さらに次期決算でも純益は当初予測の7600万ユーロを下回る7000万ユーロに留まる見込み。ベネトーは今年1月のロンドン、デュッセルドルフの船舶見本市で、前年並みの受注を獲得したものの、イラク情勢が不透明であることから確定注文となっておらず、これは今年度末または来期決算に計上されるため、見通しが悪化した。セーリングボートを購入するために富裕客が押し寄せて、4年間で売上を倍増したベネトーだが、いわばバブルが弾けたことになる。とはいえ、一部のアナリストからは、ベネトーの財務状況は健全であり、米国で需要回復の兆しが表われていることから、2003−04決算では、二桁台の成長に回復するとの声も出ている。
《2003年2月7日》
 
2. 海運
<仏政府、商用船舶に有利なトン税体系を導入>
 仏政府は2003年1月1日付けでトン税体系を導入した。仏海運業者は年間50億ユーロほどの総売上をあげるが、船舶所有コストが高いためフランス船籍の船舶数は1996年から増えておらず、世界で28番目でしかない。今回の税体系は所有船舶の合計トン数に対して金額固定式のトン税を課税するもので、現行税法よりも非常に安価に船舶を所有することができるようになった。現在、世界のほぼ7割の船舶にこうした税体系が適用されており、欧州でも既に8カ国が採用している。仏政府は今回の導入に当たって同体系の長所を活かし、短所を抑えたモデルを採用している。これによりフランス船籍の商船も欧州他国と同じ条件で競争できるようになるばかりか、より長期的には仏海運部門の増益と雇用促進が見込まれることになった。
《2003年1月31日》
<SNCM、2003年はターニングポイントに>
 SNCM(コルシ力地中海国有海運会社)は、2002年の乗客数を126万2000人と前年比で9.4%減らし、コルシカ島と本土を結ぶ海運業者最大手の座をコルシカ・フェリー社に譲ることになった。ただし、売上高は当初見込みを上回る2億800万ユーロに達する見通しで、自己資本額も前年の2970万ユーロから4000万ユーロ程度に改善した。しかしその一方で、同社の純負債は2億2000万ユーロに膨らんでいる。これに4月に納入される新しい貨物船への投資額8700万ユーロの支出が加わる。ヴュー社長は2003年を再成長に向けた「新たな出発の年」としているが、欧州委は12月11日、国による7620万ユーロの増資計画をめぐる公式調査に着手しており、同社の将来はこの増資が認められるか否かにかかっている。
《2003年1月15日》
<英P&Oプリンセス、米カーニバルによる買収を正式受諾>
 英P&Oプリンセス(豪華客船によるクルージング事業)が1月8日、同業界最大手米カーニバルの買収オファーを受け入れると正式発表したことで、両社が合併した、2位を大きく引き離す新グループが誕生する目処が立った。P&Oプリンセスは2001年末、ロイヤル・カリビアン・クルーズ(RCCL、米・ノルウェー)と対等合併することで話しがまとまっていたが、世界最大手の地位を奪われることに危機感を抱いたカーニバルが対抗オファーを提示したことから、P&Oプリンセスの獲得を巡り15ヵ月にわたり、対立が続いていた。カーニバルの買収オファーは総額35億ポンド(54億ユーロ)で、P&Oプリンセスは昨年10月、非公式ながら、この買収オファーを受け入れる意向を明らかにしていた。なお、欧州委員会はカーニバルによるP&Oプリンセスの買収計画をいったんは許可したものの、その後、買収オファーの内容が変更されたことから、再調査を行なうと最近発表したばかり。両社の2001年度売上は合計で70億ドル、営業利益は12億ドルで、保有する豪華客船は65隻となる。
《2003年1月9日》
(以上パリ事務所情報2003年2月号・3月号より)







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION