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2. 2003会計年度国防歳出予算法成立
 3,551億ドルの歳出を認める2003会計年度国防歳出予算がブッシュ大統領の署名により成立した。同予算額は昨年度予算を375億ドル上回っており、レーガン政権以来最大の国防予算増額となった。
<艦艇建造予算は拡大>
 艦艇建造予算は大統領予算要求額を8億4,200万ドル上回る90億ドルとなった。次世代空母(CVNX)プログラム予算の増額により、着工予定が1年繰り上げられ2006年となり、ノースロップ・グラマンのニューポート・ニューズにとって朗報となった。この他に、ジェネラル・ダイナミクスのバス・アイアン造船とノースロップのインガルス造船によるDDG51イージス級駆逐艦2隻の建造に23億ドル、バージニア級潜水艦建造に15億ドル、建造前コスト費用に13億ドル、DD(X)次世代洋上戦闘艦開発に約10億ドル、沿岸戦闘艦開発に3,000万ドルが配算された。
<ワーナー議員、舞台裏工作で老朽予備船隊解撤予算を獲得>
 上下両院協議委員会における上下両院版法案の擦りあわせ交渉時に、どちらにも盛込まれていなかった老朽予備船隊の解撤予算2,000万ドルが盛込まれた。
 同予算は本来は国防予算に含まれるものではないが、ジョン・ワーナー上院議員(共和党バージニア州)が、早期成立の可能性が高い同予算法案に駆け込み添付したものである。ワーナー議員は強力な歳出予算委員会のメンバーではないが、長年の親友であり歳出予算委員会の共和党筆頭委員であるテッド・スティーブンス上院議員(共和党アラスカ州)の力を借りて、最終予算法案に滑り込ませることに成功したものである。
 ワーナー上院議員の地元でるバージニア州のジェームス・リバーには、「幽霊船隊」と呼ばれる老朽予備船隊が係留されたままとなっており、環境に与える汚染被害が深刻な問題となっている。古いものは第二次世界大戦時の船舶であり、PCBやアスベストのような有害物質を含んでいる。発展途上国の環境被害が問題となり、1990年代に連邦政府が老朽船を解撤用に海外に売却することを禁止して以来、「幽霊船隊」は行き場所を失い、ハリケーン・シーズンには油流出による汚染が心配されていた。
 スクラップ鉄価格の低迷と、厳しい環境保護規則のため、国内における解撤産業は利益を生んでいない。議会は2006年までに全米で130隻以上の老朽予備船隊の解撤を義務づけたが、2002会計年度には予算が着かず、停滞していた。今回の配算により8隻の解撤が可能となる。
 
3. Halter Marine、VT Halter Marineとして再出発
 親会社の破産により競売にかけられ、シンガポール資本のVision Technology Systemsにより落札されたHalter Marineが、VT Halter Marineとして再出発することとなった。
 新会社VT Halter Marine社(VTHM)はミシシッピ州ガルフポートに本社を置き、メキシコ湾岸沿いに旧Halterの8つの造船所を運営する。新経営陣は、既存の政府向け設計、建造プロジェクトを続行するとともに、艦艇・商船修理工事を提供する方針である。
 Frede Goldman Halter時代には、修理工事から撤退する事業戦略が取られ、2000年には旧ハルターの5ヵ所の修理工場は8,000万ドルでボリンジャー造船所に売却されている。今回、新経営陣により経営方針は180度転換したことになる。
 新造部門では、新会社はフェリー市場、防衛市場に焦点を当てているが、中小型船を主力とする点で、同じくメキシコ湾岸に所在する米豪合弁会社、Austal USAとの競合が予想される。
 また、親会社であるVTSは、シンガポール・テクノロジーズ・エンジニアリング社の子会社であり、同社は軍需企業であるため、ハルター・マリンの獲得により、米国軍需市場参入を狙っていると考えられる。
 
4. Conrad industires, Swiftship買収を撤回
 先月号(前掲)で報じたように、8月12日にConrad IndustriesはSwiftShipを買収することで仮合意に達していたが、一転して買収協議を打ち切ったと発表した。
 コンラッド・インダストリーズ社は、2,220万ドル相当の米国陸軍工兵隊向けのトウボート新造プログラム契約を受注したと発表した。受注によりコンラッド・インダストリーズ社の受注残高は約3,320万ドルとなる。
 受注発表と同時に、コンラッド社はスイフトシップ社買収協議の打ち切りを表明した。詳しい事情については不明。
 
5. ノースロップ・グラマン社、スウェーデンのKockums(HDW)と艦艇開発で提携
 スウェーデンのKockums ABとその親会社である独のHowaldtswerke Deutsche Werft(HDW)が、次世代戦艦DD(X)シリーズの開発でノースロップ・グラマン・シップ・システムズ社と提携した。
 Kockums社は、ステルス艦艇設計、建造技術を提供する。Kockums社はすでにスウェーデン海軍からVisby級ステルス艦艇5隻を受注しており、ここ2年間に渡り、Kochums社と親会社のHDWはこの一種の艦艇の輸出市場向け開発を手掛けてきた。当該艦艇はカーボン・ファイバー製コルベット艦である。
 ノースロップ・グラマン社は、海軍のLCS(沿岸戦闘艦)開発プログラムで、Visby級コルベット艦のコンセプトをべースラインとする計画である。
 独のHDWは経営難に陥った後、米資本に100%買収されている。HDWを買収したOne Equity Partnersはその持株の一部の購入をノースロップに持ちかけていた。
 ノースロップは別件で、HDWと台湾向け潜水艦建造のための技術供与について交渉を進めていたが、ドイツ政府の反対で実現せず、他の欧州軍需企業に打診していると報じられている。
 HDWは、台湾向け潜水艦建造に積極的であるが、ドイツ政府の方針のため、実現できないと認めている。
 
6. ケベック州政府、経営破綻の造船所救済に公費投入
 カナダのケベック州政府は、同州最後の造船所であるLevis造船所に、6200万CADの引渡し保証、2000万CADの融資保証を供与する救済措置をとった。
 同造船所は破産処理中のDavie Industriesの最後の造船所であり、財務省から公費の投入による救済に反対する勧告があったにもかかわらず、Landry州知事は、管財人の監督のもとに新たに設立されたコンソーシアム、Davie Maritime Inc.に総額8,200万CADの融資保証を認める決定を下した。
 6,200万ドルの引渡し保証は、Torch Off−shore Inc.が5,700万CADの改造契約の発注の条件として要求していたものである。同契約により、同州で今後12ヶ月間、380人相当の雇用が確保される。
 今後も、同造船所が新契約を受注する毎に、政府による保証が必要となることが予測され、ケベック政府のリスク負担が膨れ上がる危険性があると指摘されている。
 今年5月に、カナダ産業相は、Levis造船所と経営難で休業状態のセント・ジョン造船所の永久閉鎖を方針を明らかにし、1億CADの閉鎖処理予算を内閣に要求したが、却下された。ただし、閣議では2造船所の閉鎖方針自体には異論はなかったとされている。
 どちらの造船所も、海軍やコーストガード艦艇のような大型の連邦政府契約を受注しない限り、利益を上げることができない。しかし、政府の艦艇のニーズと予算の検討の結果、短期的には、国防省、漁業海洋省、及びカナダ・コーストガードもこのような大型プロジェクトを実施する予算の余裕はないとする結論が出されている。
 
7. ジョーンズ・アクト航路ダブルハル・タンカーに外国建造船を認める??
 会期終了間際に成立した2002年海事保安法(S.1214)に、米国造船所で建造されるタンカーの引渡しが遅れた場合に、ジョーンズ・アクト適用を免除し外国建造タンカーの内航運航を認める条項が含まれていることが明らかになった。
 同条項は自航タンカーを対象としており、最大3隻にジョーンズ・アクト免除が与えられる。同法の成立後24ヵ月以内に、米国造船所にタンカーを発注した場合、不測の事態のために引渡しが遅れた場合、発注タンカーのキャパシティを超えない外国建造タンカーを引き渡し予定日から最高48ヵ月間にわたり代替船として内航運航することが認められる。
 建造契約は、自航タンカーの建造能力を有する造船所との間に交わされた法的に強制力のあるものでなければならず、その契約が真摯なものであると運輸長官が認める必要がある。不測の事態には、造船所の倒産、天災、ストライキ、サボタージュ、爆発、火災等が含まれている。
 建造または引き渡しに遅延が発生し、期日に使用できない場合に、船主は既存のジョーンズ・アクト船により代替する努力を払わなければならない。ジョーンズ・アクト免除の対象となる外国建造タンカーは、米国建造以外の内航要件を満たさなければならない。契約船の引渡し60日後に、代替外国建造タンカーの内航許可は失効する。
 当該条項は実質的には、Exxon−Mobileがシングルハルの代替建造として新造を計画している3億ドル相当のダブルハルタンカー契約を対象としている。サンヘラルド紙によれば、同契約を狙う造船所の一つEdison Chouest Offshore社が、2005年の引渡しに間に合わなかった場合に、外国建造船で代替することができるように同条項を盛り込むロビー活動を行ったとされている。Edison Chousest Off−shore社はルイジアナ州の造船会社であるが、アラバマ州の造船所を借用してタンカーを建造する予定だという。
<ロット上院議員が、ジョーンズ・アクト免除条項を海運保安法案に挿入>
 意外なことに、同条項を海運保安法案に滑り込ませたのはノースロップ・グラマンのインガルス造船所を地元に抱えるロット上院議員であった。ミシシッピ州選出のロット議員が、ルイジアナ州の造船会社のアラバマ州の造船所でのタンカー建造契約獲得を助ける条項を支持した背景には、彼の息子、チェスター・ロットがEdison Chouest Offshoreのロビーイストを勤めているという事実が隠されている、とサンヘラルド紙は報じている。
 ロット議員と同じく、ミシシッピ州選出のジーン・テイラー議員は最初は同条項がエクソン・モービルが外国建造タンカーをジョーンズ・アクト航路で使用するための口実ではないかと懸念し、これに反対したが、Edison Chouest Offshoreが建造に真剣に取り組んでいることを確認し、アラバマ州モービルで建造されれば、近隣のミシシッピ州の造船労働者の雇用に繋がると判断して、賛成に回ったとしている。
 テイラー議員によれば、最初の文言は大まかなものであったが、大手造船所を代表する米国造工(ASA)の要請により詳細な条件が付け加えられたとしている。
<業界関係者はエクソン・モービル陰謀説を捨てず>
 エクソン・モービルのOPA90代替船建造契約を狙っているのはEdison Chouest Offshoreだけではない。ノースロップ・グラマンのアボンデール造船所、ジェネラル・ダイナミクスのNASSCO造船所も同契約の獲得を期待している。
 しかし、OPA90ダブルハル代替期限を目の前にして、米国造船所の建造能力不足を利用して、安価の外国建造船運航を認めさせようとするエクソン・モービルの策略との疑いも消えていない。
 海事コンサルタントのティム・コルトン氏は、OPA90成立の原因となった事故の張本人のエクソン・モービルが外国建造ダブルハル・タンカーの使用を謀っている、と激しく非難している。同氏は、米国造船所にOPA90需要を満たすだけの建造能力が不足しているというのは大きな間違いであるとし、タンカー運航者が意図的に、または無計画に代替タンカーの発注を期限間際まで遅らせたことが代替船腹不足の主因としている。
 さらにコルトン氏は、大型ATB建造造船所はプロダクト・タンカーの建造能力が十分あると論じている。同氏によれば、中手造船所のアラバマ造船所、VTハルター・マリンは問題なく建造可能であり、ボリンジャー、ベンダー造船、Manitowocもモジュール建造が可能、クバナ・フィラデルフィアの可能性もある。高すぎるとされている船価にしても、アボンデールやNASSCOで建造されている原油タンカーは世界船価の3.5倍から4倍とされているが、中手建造のプロダクト・タンカーの船価は2.5倍程度であり、45,000t級プロダクト・タンカーで7,000万ドル台半ばである。
 果たして、ジョーンズ・アクト・タンカー建造のために新たに造船所を手配する必要があるのだろうか?
<Edison Chouest offshore>
 ECOは1960年に創設されたオフショア船舶サービス会社である。ECO社はOSVの設計、建造、所有、運航を行っている。また、世界最大級の地震探鉱リサーチ船隊を保有し、同社の所有する外洋オフショア・サービス船は米国メキシコ湾大水深マーケットの90%をカバーしている。
 同社はルイジアナ州Laroseのノース・アメリカン造船(NAS)で特殊オフショア船を建造している。同造船所はECOとその関連会社向けにのみ設計、建造を行っている。
 ECOはまた、ルイジアナ州ポート・フォーションにメキシコ湾のオフショア船用マルチ・サービス・ターミナル施設「C−Port」を保有している。
(以上U.S.Monthly Maritime Report 2002−VI(2002年10月10日付)、2002−VII(2002年11月6日付)、2002−VIII(2002年12月10日付)より)







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