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造船業の現状と方向・次世代内航海運ビジョン
〜平成14年版「海事レポート」から〜
 
 国土交通省海事局は、7月20日の「海の日」を期して、平成14年版「海事レポート」を発表しました。
 海事レポート(国土交通省海事局編、(財)日本海事広報協会刊)は、省庁再編による「海事局」の誕生に伴い、海運・船舶・船員等海事分野全般を対象に昨年から刊行されているものです。今回のレポートは、第I部「最近の海事政策の動き」、第II部「海事分野の現状と方向」及び第III部「海事行政の体制」の三部構成で、本年7月からの海事関連部局の組織再編についても詳述されています。
 本会報では同レポートから「造船業の現状と方向」(第II部第2章)と「次世代内航海運ビジョン」(第I部第1章)を抜粋掲載します。
 
第2章. 造船業・舶用工業の現状と方向
 
(1)造船業の現状と方向
(1)造船市場の現状
イ)国際造船市場の動向
 世界の造船市場は石油ショック等による二度の造船不況を経た後、1990年代後半から大型タンカーが代替期を迎えたことなどにより、量的には市場が回復した。平成12年の世界の新造船建造量は、3,141万総トン(100総トン以上の造船)に達し、第一次オイルショック以降の最高値を記録した。その後、平成13年9月の米国テロによる世界経済の悪化を受け、造船市場にも多少の影響が生じたものの、その後は回復の兆しをみせており、平成13年の世界の新造船建造量は2,867万総トンとなっている(図表2−2−1参照)。
 しかしながら、韓国が大幅な設備拡張を行ったことにより世界的に設備過剰となっているため、需要増加にもかかわらず船価及び収益性は低レベルで推移している(図表2−2−2参照)。今後、外航船の代替が一段落することから、2000年代央以降は需要が低下する見込みであり、さらに、安い人件費を背景にして中国が建造量を急増させていることからも国際競争は一層激化するものと予想される。
 
図表2−2−1 世界の新造船建造量の推移
 
注) 1. ロイド資料より作成。(100総トン以上の船舶を対象) 
  2. 竣工ペース。
  3. 棒グラフの中の数値は構成比を示す。
 
図表2−2−2 世界の受注船価の推移
 
タンカー船価の推移
(注)クラークソン資料より作成。
 
ロ)我が国造船市場の動向
 我が国造船業は、船主の多様なニーズに対応可能な高度な技術力、不断の生産性向上、国内関連工業の充実、きめ細かな保守・整備体制を背景に良好な船舶を定常的に船主に提供しており、世界造船市場においてトップクラスを維持してきた。新造船建造量では、40年にわたり世界一位を維持し、平成12年には韓国に一位の座を奪われたものの、平成13年には再びシェア1位(40.8%)を確保している。大手造船所では、厳しさを増す国際競争と予想される新造船需要減退に対応するために、分社化、合併等の業界再編が進んでおり、平成14年秋から平成15年にかけて再編の動きは益々活発化する見通しである(図表2−2−3参照)。
 一方、内航海運を支える中小型船製造業については、国内景気の低迷や、石油を始めとする荷主業界の再編、及び船主の資金調達の困難さ等により内航船の建造需要が激減しているうえ、国際的漁業規制等の影響を受けている漁船についても需要が低迷していることから、平成13年の新造船建造量は13万総トンで平成4年の53万総トンと比較して約1/4にとどまるなど、深刻な不況に陥っている。今後、建造量はわずかながら増加していくと予想されるが、大幅な業況の回復は見込めない状況である(図表2−24、2−2−5参照)。
 
図表2−2−3 日本国内大手造船業界再編の動き
(拡大画面:69KB)
 
図表2−2−4 中小型船の生産状況
(注) 1. 国土交通省「小型船工事状況調査」による。
  2. 総トン数100GT以上、2,500GT未満の船舶
  3. 回収率:約150社中約80社
  4. 手持ち工事費は、12月末時点。
 
図表2−2−5 中小造船業の売上高及び営業利益率(対売上高)の推移
(注) 1. 「船舶(総トン数が1万トン以上のものを除く。)の製造または修理業の実態調査」による。 
  2. 造修能力500GT以上3,000GT未満の事業者150社のうち、約9割の事業者の集計結果。
  3. 製造業平均については「中小企業の経営指標」(中小企業庁)による。
  4. 造修以外の事業を含む。
 
(2)我が国造船業の基盤強化に向けた取組み
イ)造船業の国際競争力強化
 我が国が厳しさを増す国際競争に適切に対応し、世界造船市場におけるリーディング・カントリーとしての地位を維持していくためには、造船業界全体が一定の方向性を持って戦略的に各種施策に取り組んでいく必要がある。
 このため、旧運輸省では、平成11年6月から8月にかけて、造船業界などの有識者からなる「造船業構造問題研究会」を開催し、造船業全体の視点から産業構造を分析し、国際市場環境への対応策を検討した。その結果、我が国造船業が国際競争を生き抜くためには、大手造船所が多様な需要に対応できるよう経営を統合し、規模のメリットを実現できる複数のメガ・カンパニーを創設することが望まれる旨の提言を発表した。本提言は、大手造船所による業界再編の動きのきっかけとなった。
 今後は、産業活力再生特別措置法の適用等により事業再構築を支援していくとともに、実用化に直結する技術開発の底上げ、国際ルールによる公正な競争条件の確保等、造船業全体を見渡した総合的な戦略を打ち立てていくことにより、外部環境の変化に対応可能な我が国造船業の基盤を形成していく必要がある。
 特に、絶対的な技術力を背景に世界トップの座を維持してきた我が国造船業にとって、技術者が高齢化し技術の伝承が困難となっている事態は極めて重大である(図表2−2−6参照)。そこで、国土交通省では「ものづくり基盤技術」の高度化に向けた早急な対策が必須であるとの観点から、平成14年度より技術伝承の方策や教育システムのあり方、高度技能のデジタル化による生産システムの向上等の取り組みを行っている。
 
図表2−2−6 造船業の従業員の年齢構成
(注) 1. 海事局調べ。(なお、全産業・製造業の年齢構成については総務庁統計局「労働力調査年報」、平均年齢は労働大臣官房政策審査部「資金構造基本統計調査報告」による。)
  2. 特定船舶製造事業者の船舶部門(職員及び本工)の年齢構成などに関する加重平均。
 
(拡大画面:43KB)
 
ロ)中小造船業対策
 中小造船業においては、内航船や漁船等の建造需要が激減し、経営環境が極端に悪化している中、従業員の高齢化や人材育成の遅れが相まって、経営基盤が極めて脆弱化している。
 中小造船業は、地域経済及び雇用に貢献しているばかりでなく、国内海上物流を支える重要な役割を果たしている。このため、中小造船業が早期に経営基盤を強化し厳しい事業環境を克服するとともに、活力ある産業として存続できるよう、平成12年12月に中小企業経営革新支援法に基づく経営基盤強化計画の対象業種として政令指定を行い、平成13年11月には(社)日本中小型造船工業会等が作成した経営基盤強化計画に対し承認を行った。今後は、本法の各種支援措置を活用し中小造船業の経営基盤強化を図っていくこととしている。
(3)国際協調の推進
 外航の新造船は世界単一市場であり、限られた規模の需要を各造船国が分け合う構造になっていることや、欧州等多くの国で政府助成の対象となっており、競争条件は必ずしも同一ではないことから、その健全な発展のためには多国間での政策協調が不可欠である。今後、新興造船国における設備の新設や既存設備の生産性の向上から供給力が拡大していく一方、造船需要は、環境・安全規制の影響等により短期的な需要増はあっても、長期的には現在の水準を下回ると予想されており、需給不均衡は避けられない。このような状況に対処する上で、国際的な政策協調の重要性は今後一層増してくる。
 さらに、近年では環境意識の高まりとともに、船舶の解撤時における有害物質の排出が国際的に問題となっており、各国際機関でも検討が開始されている。
 このような認識のもと、我が国は、政府レベルでの二国間及び多国間協議等を通じて、広く各国との対話・協調を求め、市場に対する共通認識の醸成や政策協調に努めている。
イ)世界造船市場の適正な発展のための取組み
i)OECD造船部会
 OECD(経済協力開発機構)造船部会は、造船業に関する多国間の政策協議の場としては唯一のものであり、日本をはじめ、欧州各国及び欧州共同体並びに韓国等の主要造船国が加盟している。昭和41年5月の第1回会合以来、船価の正常化や需給の安定化等の市場問題、正常な競争条件の確保に関する問題等について協議が行われてきている。
ii)造船協定
 OECD造船部会では、平成元年10月より、政府助成措置の廃止と加害的廉売行為の防止を主な内容とする、いわゆる造船協定に関する交渉が行われてきた。交渉は平成6年12月に妥結し、平成8年末までに米国以外の参加国が批准手続きを終了したが、米国造船事業者の反対により米国が未批准のため造船協定は発効していない状況にある。
 このため、我が国を含めた参加国は、OECD造船部会や各種二国間協議を通じて米国の批准を強く求めてきたが、平成13年7月に米国が当面の批准が見込めない旨の文書を造船部会に送付してきたことを契機に、新協定の可能性の検討が開始された。平成14年4月には、未発効の造船協定に代わって、協定内容の見直し・参加国の拡大を図った新たな造船協定の策定・実施を目指すことが造船部会において決定され、OECD閣僚理事会においても支持された。
iii)主要造船国との対話
 韓国は、我が国に匹敵する造船大国であり、我が国と合わせたシェアは約78%に達することからも、我が国と韓国が協調を図ることは、両国のみならず世界の造船業の安定的な発展にとって極めて重要である。このため、OECD造船部会を通じた意見交換のほか、昭和59年以降国間の実務者レベルによる協議を定期的に行っている。
 また、中国は、ここ数年急激に建造量、受注量を伸ばし、現在のシェアは4.3%で日本、韓国に次いで第三位である。現在も近代的な造船施設の整備を進めており、さらなる競争力の向上が予想されていることから、平成12年以降、二国間の実務者レベルによる協議を定期的に行っている。
 一方で、欧州諸国は、量的なシェアは衰えたものの、クルーズ客船等の付加価値の高い船舶を中心に建造しており、特定の船舶については高い競争力を有している。このため、新造船需給に対する共通認識の醸成、競争規律の確立等の国際協調を円滑に進めるため、随時二国間対話を実施している。
ロ)船舶の適切なリサイクルに関する取組み
 外航船の多くは主に採算性の問題から、インド、中国等発展途上国で解撤(船舶を解体し、部品や材料に再利用すること)されているが、解撤ヤードにおける環境保全や労働安全衛生のレベルが必ずしも十分でないことが国際的に問題視されている。これを受け、国連環境計画(UNEP)では解撤を行う際の技術ガイドラインの作成が進められるとともに、国際海事機関(IMO)でも船舶のリサイクルに関する本格的な検討が開始されるなど、国際機関での動きも活発となっている。
 今後これらの動きは、解撤ヤードにおける技術的問題に加えて、船上の有害物質リストの作成・改訂や、製造者、使用者、行政機関の役割分担等、船のリサイクル全体の取り組みに関する検討へと発展すると想定される。海事局ではこれらの動きに対応すべく、平成14年度より有識者、造船・海運業界、研究部会等で構成される委員会を立ち上げ、船舶のリサイクルに関する総合的な検討を行うこととしている。







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