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5.3 制度としての技能教育
 雇用の流動化が進行するなかで、企業は、技能者の人材育成を従来のままのシステムで行うことが、非常に困難になってきている。OJTなど企業内教育に多くを依存した人材育成システムから、社会全体で人材育成に取り組むシステムへ再構築すべきである。
 ここでは地方組織、全国組織として展開していく場合の、いろいろな問題点と対応策について考える。
 
(1)地域性の重視
(1)地域における組織化
 何回も述べたとおり、以上の教育訓練は、地域の行政と企業との自主的な意思と連携により、企画、立案、運営がなされなければならない。先ずはこのような連携を作りやすい地域を全国に何箇所か選定することから始め、次に主催企業と参加企業を特定するという組織づくりの段階へと進む。ここでのキーワードは“地域としての強い目的意識の共有化”である。
(2)組織化ができない地域への配慮
 前にも述べたとおり、地域的な特性によって、自主的な組織がまとまりにくい地域がある。
このような場合については、大きい地域ごとに類似の教育センターを業界主導で作って対応していくことも考えなければならない。この場合、先に述べたポリテクセンターの活用が有効である。
(3)リーダーカンパニーの必要性
 地域における組織化の段階から、行政組織とともに中心となって活動する2〜3のリーダーカンパニーの存在が欠かせない。これらの企業が実施段階になってからも教育訓練や運営の中心となることは言うまでもない。
(4)組織化までのプロセス
 掛け声だけでなく中央関係官庁、造船関係団体(大中小手)などがプロジェクトを組んで、各地における(1)の組織化を企画・指導するのが良い方法である。
 助成金の適用の受け方についての助言、(1)が軌道に乗るまでのバックアップなども、このプロジェクトの重要な仕事の一つである。
(5)候補地域
 5.2でも述べたとおり、九州北部、九州南部、四国北部、因島地区、中国地方南部、播州地方などが考えられる。
 
(2)全国ネットワークの運営
 このような地域ごとの組織(ブランチ)が全国的にできていくにつれて、これをネットワーク化することが必要になってくる。
(1)ネットワーク
 ネットワークは、各ブランチの自主性を尊重した緩やかな結合であることとし、情報の交換を通じて、全国の技能教育活動をレベルアップし、活性化することをその目的とする。
(2)ブランチの役割と運営
 (1)で述べたとおり、各種の技能教育・訓練は、地域ごとの組織(ブランチ)によって自主的に運営されるべきであり、ブランチごとに特徴を持って切磋琢磨するようになることが理想的な姿である。
(3)センターの役割
 将来、ブランチの数が増え活動が活発になるにつれて、このネットワークの中心となる組織(センター)が自ずと必要になってくることが考えられる。この役割にはつぎのようなものがある。
・ブランチの運営のサポート
・教育訓練レベルのチェックと助言
・技能コンクールの実施
・講師の指導・育成
・カリキュラムのレベルアップ
・教育資料の作成・整備
・ブランチの無い地域向けの直轄事業
 
(3)習得レベルの共通性、同位性
 技能のレベルアップ教育において受講者は、その技能レベルを資格認定制度に従って認定されることになる。
 認定は、地域ごとに行われて、とりあえずはその結果を公表しないことを原則とする以上、地域ごとに認定の差が出ることはやむをえないこととしても、各地域の認定レベルにある程度の共通性や、同位性があることをチェックすることは必要であろう。資格認定制度に従って上記の“センター”が行うべきであろうが、全国統一レベルの認定と、その公表をどうするかと言う問題ともあわせて、今後の検討項目の一つである。
 
(4)パイロットセンター
 新入社員教育については、因島技術センターを手本にして、各地に類似のものを早急に展開するべきである。一方、技能のレベルアップ教育は、今までに例が無く、有効な方法を見出すまでには、試行錯誤を繰り返さなければならないであろう。
 全国的に一斉に実施に移すのではなく、新入社員教育を実施しているうちから1〜2のブランチを選び、これをパイロットセンターとして活用し、最善の方法を探しながら徐々に他のブランチへ展開していくというすすめ方が効率的である。
 
(5)業界の連携
 技能継承の問題は、大手中小手を問わず、造船業界全体が主体的に取り組まなければならない問題である。地域の自主性を重視するとはいいながら、この技能教育は、日本造船工業会、日本中小型造船工業会、日本造船協力事業者団体連合会などの業界諸団体の緊密な連携と強力なバックアップなしでは実現しないであろう。この連携を早急に始動させなければならない。
業界の管轄官庁である国土交通省による指導や調整も待望されるところである。
 
(6)省庁、公益法人による援助
 ここに提案する技能教育において、公的助成金が必要であることはるる述べてきたとおりであるが、現状の制度の下ではかなりのボランティア的な動きを前提としても、費用的には年に数十人の新入社員教育を行うのが精一杯という状態である。この教育には、当然のことながら技能の継承のみならず、雇用の促進・流動化や地域の活性化を図るという意味がある。公的機関によるポリシーミックスの適用が大いに期待されるため、国土交通省、厚生労働省、経済産業省、日本財団などの連携による援助や助成が切に望まれる。







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