第2章 船体強度
この章では、船殻設計の基礎となる船体強度について学ぶ。その基礎となるのが材料力学(部材中に生ずる応力、ひずみの計算法)であり、指導書にはその基本的事項が解説してある。この中で、とくに、はりの曲げが船体強度への応用に際しもっとも重要である。
船体強度は、船に加わる力を分類して、縦強度、横強度、局部強度に分けて取り扱うのが普通である。この中、縦強度が船全体の強度の目安として用いられるので、その計算手順の意味をよく理解してほしい。
この章は、計算式が多く出てくるので、指導書の中でもっともむずかしいと思われるかもしれないが、この程度のことは船殻設計に際して、構造規則を利用したり、種々の設計便覧類を参照したりするとき、基本としてどうしても必要である。(章末の計算問題をぜひ独力でやってみるとよい。)
指導書第2.1図において棒の長さをlとすれば、棒は引張力Pによって長さが△lだけ伸びる。この伸びの大きさは、次のようにして計算される。
(P.54の練習問題4を解くとき、棒の伸びを計算するのに上式を用いる。)
(9)式は、はりの設計においてもっとも重要な公式である。すなわち、
この公式はその意味とともにぜひ記憶しておくとよい。
断面係数Z=I/yの計算法はよく理解すること。この方法で、どんなに複雑な断面についても計算できる。船体の場合は部材数が非常に多いので、表をつくって計算を進める。(指導書P.96第3.42図を参照のこと。)
各種板付形鋼の断面係数および断面二次モーメントを与える表を附表として巻末に示したので、利用すると便利である。
補講(はりのS.F.D.、B.M.D.)
指導書P.33に述べたように、はりの各断面にはせん断力、曲げモーメントが作用する。これらのせん断力、曲げモーメントがはりの長さ方向にどのように分布しているかを図示したものをそれぞれ、せん断力図(S.F.D.)および曲げモーメント図(B.M.D.)といい、はりの設計上重要なものである。
第8図に、指導書P.40〜P.41の第2.19図の各種はりのS.F.D.、B.M.D.を示す。これらにおいて、それぞれ最大せん断力、最大曲げモーメントの大きさおよびその位置が、はりの設計上重要となる。
物体中に生ずる応力には、垂直応力(面に対して垂直に作用しあう応力、引張応力または圧縮応力)およびせん断応力(面に対して平行に作用しあう応力)の2種類がある。荷重のかけ方に生ずる応力も異なる。これをまとめると、引張・圧縮荷重によって垂直応力(引張・圧縮)を生じ、せん断荷重によってはせん断応力を生じ、曲げ荷重によっては垂直応力(引張・圧縮、これをとくに曲げ応力という)。とせん断応力を生ずる。このほかに、荷重のかけ方としてねじりがある。(船体の場合、指導書P.41〜P.45を参照のこと。)ねじりによってはせん断応力を生ずるので、以下にこれを説明する。
補講(丸棒のねじり)
丸棒が第9図に示すようにその両端に棒の軸の周りの偶力MT(これをねじりモーメントという。)を受ける場合には、棒の任意の横断面は一定のねじりモーメントを受け、相互にねじりを生ずる。いま棒の両端(断面(L)、(N)にねじりモーメントMtが作用し、棒の軸線に平行であった線ABCと軸線OO’を含む平面ABCO’OがA’BC’O’Oのようにねじれたものとし、OAとOA’とのなす角をe、ABの長さをlとすれば、棒はMTによって単位長さ当りe/lだけねじれたことになる。このe/lをねじり率という。
(拡大画面:40KB) |
|
第8図 各種はりのS.F.D.、B.M.D.
第9図
ねじりにより、横断面には第10図のようなせん断力応力SSを生ずる。このせん断力応力の大きさは次式のように表される。
SS=G・r・e/l
ここで、Gをせん断弾性係数(ヤング係数Eを縦弾性係数ということがあり、これに対してGを横弾性係数ということがある。)といい、形状変化に対する剛性を表す。
鋼材ではG=8,100kg/mm2である。
したがって、せん断応力は中心で零、外周に近づくにつれて直線的に増大し、その最大値は、
SSmax=G・a・e/l
となる。せん断応力が外力のねじりモーメントと釣り合うことにより、
MT=GIP e/l
ただし、
|
(円形断面) |
で、これは第10図の斜線を施した面積に中心よりの距離rの2乗を乗じた積を全断面について総和をとった(積分した)もので、これを断面極二次モーメントという。(断面二次モーメントIとは異なるので、その意味の違いに注意すること。)
GIpをねじり剛性という。
SSmaxとMTとの関係は、
第10図
ここで、Ip/a=Zpを極断面係数という。(はりの断面係数Zと同じ形である。)すなわち上式ははりの公式
Sb=M/Z(指導書P.36(9)式)と全く同形となる。
|